②
砦に着き、レナード達は砦の離れに造られた研究棟の前にやって来ていた。
「隊長だけ行って下さい。私は別な調査をしてきます」
立ち去ろうとしたザガートの襟首を掴む。
「お前も来い。逃げるのは許さん」
なるべくなら自分だって会いたくない。
これから会おうとしてるヤツは、研究や呪術の専門家ではあるが、いたぶられるのが大好きなドMの変態なのだ。
覚悟を決め、仕方無く研究棟に入ろうした時、突然後ろから声を掛けられた。
「おや?珍しいですね。二人が研究棟にご用意とは?」
気配を殺して近付いて来た事と、気持ち悪さから思わず剣を抜いて相手の喉元に突き付けてしまった。
「久しぶりに会った隊長からの激しい愛情表現!ゾクゾクします」
体をくねらせながら悶えている。
それを見ていたザガートが蹴りを入れた。
「すみません。つい」
「副隊長…、なんて素敵なハイキック。もっと蹴って欲しい…」
気持ち悪すぎる。先程から鳥肌がたちっぱなしだ。
「止めろ。今日はお前に調べて貰いたいモノがある」
呪が掛かっている金属を取り出して見せると、雰囲気ががらりと変わった。
「隊長それは何ですか?ちょっと見せて下さい」
そう言うと結界越しに調べ始めた。
黙って真面目にしていれば、インテリの美丈夫なのだが、異常な性癖のせいで台無しになっている。
「此処ではダメですね。中で詳しく見ますので、お二方もどうぞ」
案内されるままに研究棟の中へ入っていった。
研究棟を任せられているのは、ウィル・ダール。
長身に黒い長髪、翠の瞳が特徴で、メガネがとても似合う。
頭脳明晰で中央で活躍の場が用意されていたのに、こんな辺境に希望して移動してきた変人だ。
本人曰く、用意された研究なんてつまらないそうだ。
「隊長、これは何処から持って来たんです?」
「魔物を討伐した際に、魔物がいた場所に落ちてた」
ウィルはザガートが施した結界を解除し、金属を素手で持ち始めた。
「なっ!呪が掛かってるものを素手で触るなんて馬鹿なんですか!!」
ザガートは慌てているが、ウィルは問題ないとばかりに触っている。
「この程度では私を害する事は出来ません。ただ、解析には少し時間が掛かりそうですね」
一人の方が仕事がしやすいと言われたので、解析が終わり次第連絡をするように伝え研究棟を後にした。
「本当に一人にして良かったんでしょうか?」
変人が呪によって暴走したらと心配している。
「それは大丈夫だろう。一応アレでも実力はあるからな」
多少不安があるももの金属はウィルに任せて他の仕事を片付ける事にした。
執務室で書類に判を押していると、街など被害が無いか調査していたカイル達が戻って来た。
「今戻りました。街に被害はありませんでした。ただ…」
「ただ何だ?」
「関係あるか分かりませんが、街に見慣れない不審な人物が出入りしたとの情報がありました」
カイル達の調べでは、魔物が出没した場所の近くで怪しげな男が目撃されているとの事だった。
あとは、凶暴化などしている地域は砦の側だけでなく、ここより離れた場所にも出没していて、ナターヤ地方はかなりの被害が出ている。
街に被害の無い場所はこの砦の周りだけだった。
「被害がある場所は出没件数が多いのか?」
「いえ。こちらの半分以下ですが、少数精鋭の我らと違って討伐に時間がかかっている為かと思われます」
「不審な人物か…。何人か街に潜入して情報を探せ。不審な者がいたら報告しろ」
ザガートが命じると、カイル達は潜入する隊員の選びに部屋を出ていった。
「呪の掛けられた金属に、不審者か。何か悪い事が起きそうだな」
夜になり自室に戻った。
部屋には、男と一緒に入る事が出来ないレナードの為に専用の風呂が造られている。
汗を流すために風呂に入る準備をするために、胸を潰すためにぐるぐる巻きにしている布を取ると、女性らしい膨らみが現れる。
決して小振りでは無いサイズなので、毎回隠すのが大変なのだ。
「ふぅ、だんだん潰すのも大変になってきているな」
湯船に浸かりながら寛いでいると、部屋をノックしている音が聞こえ、レナードは焦った。
「隊長!王都より知らせが届きました。確認して下さい」
「ちょっと待て‼今出られる格好じゃ無い。少しだけ待ってくれ‼」
身体に付いた水滴も拭くこともしないで、布を胸に巻いていく。
「早くして下さい。時間が掛かるのならドアをブチ破りますよ?」
ザガートに何回かブチ破られた経験があるレナードは青ざめた。
裸を見られる訳にはいかないと、急いで巻こうとすればする程うまく巻けない。
数分もたってないのだが、待つのが嫌いなザガートの手にはドアを破るための炎が生み出されていた。
「遅いですね。やはり壊しますか」
そう呟いた時に部屋の扉が開いた。
「壊すのは止めろ‼修理代だって馬鹿にならない」
何とか間に合ったが、いつもキッチリしているレナードには珍しく着衣が乱れてる状態だった。
「何故そんなに乱れてるんです?」
「風呂に入っていたところに、お前が来たんだろうが‼」
「軽く何か羽織るだけで良かったんでは?」
何故そこまでキッチリ着ないとダメ何だ?と首を傾げているが、あまり突っ込まれても困るので無視し別の話を振る。
「王都からの使いとは?」
「ああ、そうでした。こちらの手紙になります」
差し出されたのは、第一王子の印が押されている1通の手紙だった。
「嫌な予感しかしないんだが…」
封を切り目を通す。
そこに書かれていたのは、王子が砦の視察と魔物騒動についてお忍びで来ると言う事が書かれていた。
わざわざ来る事は無いのに、と言うか来られる方が迷惑だと顔を顰める。
「何が書かれているんです?」
聞いてきたザガートに手紙を渡す。
「お忍びで来るそうだ。問題が山積みの時に止めて頂きたいのだがな…」
この砦の管轄は、第一王子のエミリオ王子なので来るのも仕方無いのだが時期を考えて欲しい。
「いつ来るのか書かれてないのですが、いつ来る予定何でしょうか?」
「こんな夜分に使いを寄越したんだ。多分明日には来るだろうな。色々な準備は任せる」
「分かりました。ところで風呂の途中だったのでしょう?背中を流しましょうか?」
気を使ったのかそんな事を聞いてくる。
レナードとしては有り難迷惑で、さっさと帰ってくれた方が助かる。
「いや、その必要はない」
「遠慮は入りません。隊長は自室で入られるから一緒に入ったことが有りませんから、いつか一緒にと思ってたので調度良い機会です」
「遠慮じゃない。風呂から上がるタイミングだったから、もう入らない!」
嘘だがザガートと一緒に入ることなど出来ないので、全力で拒否る。
「それは残念です」
納得はしてないと顔は言っていたが渋々帰っていった。
「なんなんだアイツは…。もう疲れた…」
色々ありすぎて疲れすぎた。
フラフラしながら風呂に入り直して、ベッドに倒れ込みそのまま寝てしまった。