⑫
「嘘の供述書でも作ろうとしてたんでしょう。ルドラ大将軍が来てくれて助かった」
「偶然この騒動を聞いたから来てみただけなので礼には及びません」
「兄にも感謝ですね」
「あ~、陛下はこの事は知りませんよ。私の独断なので…」
ルドラ将軍は騒動の事を聞き、教え子の心配をして来ただけだった。
「今まで探しましたよ、殿下?」
ウィルはルドラが苦手なのだろう、逃げ道が無いかと彷徨ってる視線がレナードとぶつかる。
「ああ、ルドラ大将軍に紹介します。ユラシスの砦の隊長レナードです。レナード、こちらはルドラ大将軍。名前位は聞いた事があるだろう?」
「ルドラ大将軍の事は聞いた事がありますが、こんなに若い方とは思いませんでした」
ルドラ大将軍は、現王が即位する時に起きた内乱の時に活躍し大将軍まで上り詰めた男だ。
今も陛下の右腕として支えている。
「若くは無いがな。俺も聞いた事があるぞ。物凄い魔力の持ち主だとな」
ルドラは豪快に笑う。
「殿下が庇うのだから今回の騒動の犯人では無いのだろう?」
「無実です。犯人は別にいます」
イルミオ殿下の名前を出して良いか良い澱むと、ウィルが続ける。
「今回の件は、もしかしたら継承問題にも発展するかも知れない。ルドラ大将軍は陛下を御守りしてくれ」
「継承問題って事は王子達が絡んでいるってことか」
腕を組み何やら思案しているようだったが、ウィルの前に跪き頭を下げる。
「畏まりました。このルドラ命に変えても陛下を御守りしましょう」
退室の挨拶をして王宮に戻るために馬を駆っていった。
ウィルがじっと、こちらを見ているのが気になる。
「何か用か?」
「何かのスイッチでも有るんですか?女性の時と男の時とでは、雰囲気も顔付きも違いますね」
「顔は化粧をしてるからだろう」
違うとウィルが言う。
「そう言えば、母とザガートも同じ事を言ってたな」
「興味深いですね。こんな状態で無ければ色々実験したいところですが」
残念だと嘆いている。
「しかし困った事になった。私もレイティアも動けないなんてな」
ザガートが監視されている以上、レイティアを近付けるのは危険だ。
「砦に行って変わった事は無かったんですか?」
「異様に視線を感じたが女性だから見られているんだろうと思ったが、今考えると殺気も含まれていたように思う」
それと見張りが多かったと伝える。
「砦の隊員だったのですか?」
「ああ。だから裏切り者はそれなりの地位に居る者だろうな。隊員を動かせるくらいに」
連隊長クラスとなるとカイルが怪しいが、あの実直な性格のやつがするだろうか?他の連隊長もそんな事をしそうな奴はいない…
「仕方無いですね。デートしましょうか?」
「は?何故そうなる?」
「女性一人では危険ですが、私と一緒なら大丈夫でしょう?それに私もその方が動きやすいですしね」
確かに、その方が動きやすいかと思うが、衛兵等が来ないとは限らない。
「いない時に誰か来たらどうする?」
「ここのカギは1つだけなので、私が持って出れば問題有りません」
それならと思ったが、デートは嫌だ。
「だが何故デートとなる?別に二人で調査で良いだろうが!」
「男と女ですよ?デートの方がカムフラージュになるでしょう!」
それに私の願望が叶いますし、と呟いたのを聞きいつものクセで殴ってしまう。
「フフフフフッ。この感じ良いですね。流石は隊長です!」
王弟を殴ってしまったが本人が喜んでるし、何よりウィルとして扱って欲しいと言ってるので問題無いだろう。
「隊長が何を言おうとも、明日出掛けるのは決定です!」
準備が有りますから失礼します。と普通に牢の鍵を開けて帰っていった。
「そうか、まともに入って来たから帰りもまともに帰るのか…」
明日は大変だなと思いつつ、真相を探すために何をしなければならないか考えながら早めに休む事にする。
翌朝、起きると淡いピンクのドレスが用意してあった。
「準備と言うのはこの事だったのか…」
タメ息を付きつつドレスの確認をすると、歩きやすい様に丈が少し短かった。
「着替えないと駄目だよな…」
調査の為だと着替え始め、準備が終わると、タイミング良くウィルが暖炉からやって来た。
「貴女にはその色が似合うと準備しましたが正解でしたね」
レイティアを見て目を細めながら、満足気だ。
「今日は何処に行く予定なんです?」
「一番始めに凶暴化した魔物が出た場所まで」
砦の側の街かと思ったが、その前に別な場所に出ていると言われた。
「そんな報告は無かったと思いますが?」
「ええ、違うものと判断されていましたからね」
ウィルの調べでは、実験段階の様な魔物だったと言う。
「凶暴化も巨大化も中途半端で一連の騒動とは別とされてました」
「実験段階…。怪しいですね」
「そうでしょう?では行きましょうかと言いたい所では有りますが、レイティアを連れて出ることは出来ないので貴女は隠し通路から来て下さい」
バレると大変でしょう?と言われれば、
長い通路をドレスを捲って走るしかない。
「ドレスで走るのは大変なのにー‼」
出口に出ると、ウィルが待っていたが馬が一頭しかいない。
「あれ?私の馬は?」
「女性も一人で乗れない訳では有りませんが、不自然でしょう?」
そう良いながらレイティアの腰を引き寄せて馬に乗せる。
腕の中に閉じ込められる様な格好に、思わず赤面してしまう。
「本当に2人居るような感じですね。レイティア急ぎますのでちゃんと、しがみついてて下さい」
落ちない様に気を使ってくれているのか凄く乗りやすかった。
「どこまで行くのでしょう?」
「シュガルまで」
「シュガ…ル?聞いた事が有りません」
「小さな街ですし、今は住んでる人も少ないですから知らなくても仕方有りません」
シュガルは王都の東側にあり、砦とは反対側に位置する。
四方を森で囲まれた小さな街だと言う。
「ウィル様はシュガルに行った事が有るんですか?」
「何回かは。ですが、かなり昔なので最近はどうなってるか」
貴重な薬草や鉱石があるから採りに行っていたが、最近はその薬草も採取が出来なくなってしまったから行かなくなったらしい。
「それに砦での研究が忙しいですからね」
ほとんどが自分の趣味の研究だったが口にはしない。
「王都を通らなければ行けないので、一応フードを被って下さい」
ウィルに目深にフードを被せられる。
「私だけですか?ウィル様は?」
「2人でフードを被ったら逆に怪しいでしょう」
(それにレイティアの顔は目立ちますからね…。隊長だったら騒ぎそうなのに、レイティアは素直で良いですね)
思わずクスッと笑ってしまうと、不思議そうな顔をして後ろを振り返ってくる。
「すみません。何でも有りませんよ」
急ぐために馬のスピードを上げた。
王都に着くと、ここからまだ距離があるので一泊するために宿に入る。
「少し時間に余裕がありますし、市場で食事を買ってきて食べましょうか?」
ウィルの提案で近くの市場に移動すると、良い匂いが彼方此方から漂っている。
レナードの時も、あまり街を見て歩く事をしないので、物珍しさでキョロキョロしてしまう。
「何が食べたいですか?」
「良く分からないのでウィル様に任せます」
そう言うと、ウィルのオススメを何個か買ってきてくれた。
「あと、レイティアが好きそうな菓子も買ってきました」
宿に戻ろうと歩いていると、店に人集りが出来ていた。
「なんのお店でしょうか?」
「気になりますか?行ってみましょう」
ウィルと共に店を覗いてみると、髪飾り等を売ってる店で定番の物から異国風の物まで色々あった。
若い女性達がどれにしようかと楽しそうに見ているなか、レイティアは小さな青い髪飾りが気になるのか目を離さない。
「欲しいのですか?」
「いいえ、キレイだなって思っただけなので…」
そう言いながら髪飾りを見ている。
「旦那、彼女に買ってあげてはどうです?」
「じゃあ、それを貰おう」
店主が袋に入れようとするのを止め、そのまま受け取るとレイティアの髪に挿す。
「貴女の瞳と同じ色ですね。良く似合います」
礼を言い微笑むレイティアを、周りの人間が見ているのに気付き宿に戻りましょうと歩き出した。
宿に戻り食事をする。ウィルのオススメは、どれも美味しく自然と笑顔になった。
「美味しいです!」
「気に入ったのなら良かったです。2部屋用意しようと思いましたが、身の安全の為に1部屋でも宜しいですか?」
「はい。大丈夫です」
さすがに、ベッドは一緒に無理だから自分はソファーで寝ると言う。
「私の方が小さいからソファーで寝ます」
「女性をソファーで寝かすなんて出来ませんよ」
「訓練で雑魚寝した事もあるので大丈夫です」
それでも今は女性ですからダメです。グダグダ言うなら抱いて寝ますよ?と脅されたので、レイティアが折れたのだった。
翌朝2人は、王都を無事に出発する事が出来たのだった。
王都を通過する所を、1泊する話に変更しました。




