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創り出す者

もう清太郎ここに一生住めばいいのに

やっと目眩めまいが収まり、タニシは異界門のある部屋に戻ってきた。


変わらぬ風景に安心すると、大きな欠伸をした。


(ふあぁーあ。疲れた〜。

なんか仕事から帰宅した感じだな。ふふふ。


人間の頃だったらなあ・・・。

これから風呂入ってテレビ見ながら飯食って、スイーツ食べながらゲームして・・・。


ああ、至福の時だったな・・・。


あれ?今の方が生活厳しくね?風呂すら入れてなくね?


まあ今俺、タニシだし。ここ迷宮だし、しゃーねえか・・・。


とりあえずおやすみ〜・・・。)




数時間後・・・。


 (ババンババンバンバン。い〜い湯〜だ〜な〜。ビバノンノン。)


あたりに湯気が立ち込める。


清太郎は風呂に入っていた。

異界部屋の一角に岩を削って作り出した浴槽に、湯を沸かして浸かっていた。


水は、体内の蔵から取り出した上、“熱する者”で温めて湯にしていた。


(意外と上手くいったなー。お風呂。

持っててよかった、“蔵を持つ者”。

取り込んだ物の成分を抽出できるっていうのがミソですよね。

溶かしたままの何かが取り出せても、誰得だよって話ですよ。


湯も冷めてきたらビームで温めればいいし、長風呂し放題だぜ。)


生まれて初めての入浴を堪能する清太郎。


(でもこれだと、タニシが出汁ダシ取ってるようにしか見えないよな。


何事も風情が大事!ここをこうして・・・。こうやって・・・。)


清太郎は、自身の身体を変形させ始めた。


触手をニュルニュル伸ばしながら複雑に組み込み、編み込んで行く。


体長20cm程の、タニシを被った人形が形成された。


目を伸ばし確認する。


(おおー!結構上手く人型になってるじゃん!

全体的に痩せた人参っぽい感じは否めないけど。


よーし、じゃあ人になった気分で・・・。)


清太郎は両手で体をゴシゴシ擦る。

割れた巻貝に湯を掛け、汚れを落とす。

一通り全身を洗うと、手足を広げとっぷりと湯に浸かった。


(これはヤバイ。

すっごいリラックスできる。

やっぱタニシ型より人型だわ、こういうのは。


ああー・・・たまらん。


風呂桶でもあれば、もっと雰囲気出るんだけどなあ・・・。)


清太郎は湯からあがると、人型のままヒョコヒョコと歩いた。

手頃な岩の欠片を見つけ、ジッと見つめる。


片手の先端からドリル状歯を5mmほど出す。


回転力に引っ張られぬよう、慎重に加速し、岩を削っていく。


チュイイイイイン。ギュリギュリギュリ。


歯科病院の治療室のような音が響く。


しばらくすると、武骨な岩の桶が完成した。


(流石俺。フィギュア制作で鍛えた工作力の賜物だぜ。)


清太郎は思いつくままに椅子やコップ、テーブルなどを岩から削り出した。


体長20cmの人型タニシが利用できる大きさなので、ミニチュアサイズの家具である。


最後に大きめのベットを作り、寝転ぶ。


(おお!いい!岩のベットいいかも!

ネイチャーな感じがする。


あー・・・。ふわふわの枕とかマットレスなんてあったら最高。グッスリ寝れるだろうなあ・・・。)


清太郎は体内の蔵から、以前吸収した植物の“繊維だけ”を取り出してみる。


ズズズ・・・。ズルン。


手の平から、繊維の塊が出現する。


(おお。溶かした筈の繊維までも再現可能!

・・・でもこれ、枕っぽくするの大変だな。


繊維の織物を手作業って。

体内で作ってから出せたらいいのに・・・。)


清太郎はベットに寝転びながら、何度も体内から繊維を出す。


繊維は徐々に、細く変化していった。

次第に、規則的に交差し、網目状になっていく。


何十枚目かの繊維の編み物を出現させた所で、天の声が唐突に告げる。


能力スキル 創り出す者 獲得】


(えっ。マジかよ何で!?

やった!枕チャレンジの御利益!?)


【経験値が獲得条件に満ちた為、能力獲得。】


(わーお!ベットで寝ながらモノを出してただけで、スキルゲットだぜ!

ラッキー!


で? “創り出す者” ってなにができるんだ、天の声さん。)


【体内空間で、収集した素材を加工・製造し新たな物を制作する。

取り出し可能。


現在可能な特殊制作方法は熱加工、溶解加工、変形加工。

基本製造は抽出、混合、復元。】


(な・・・おいおい!専門的!!町工場かよ!俺の体が工場化したんですけど。


とにかく結構凄そうなことが出来るな。


特殊な加工は、俺が持ってる能力スキル依存な感じするけど。

熱加工とか、溶解とか・・・。

まあ、急に知らない事は出来ねぇっつー話か。


よっし!色々試してみよ!)


清太郎は集中すると両手の平を見つめる。


ススス・・・。スウッ。


超極細繊維の布が出現した。


(おおおーっ!!

出来た!


しかも出現がなんかスムーズ。

ちゃんと布っぽくなってるじゃん!肌触りは・・・。


うん。とってもゴワゴワ。


うーん、アレっぽいな。

麻で出来た織物っぽいな。

綿とか絹とか手に入れば、フワフワモフモフも夢じゃないかもなあ。むひひひ。)


清太郎は布をヒラヒラさせながら、その場で小躍りした。


それから清太郎は、次から次へと布の製品を出していった。


シャツ、ズボン、靴下、ベルト、ジャケット、靴などの衣類を、一通り制作し出現させる。


全て繊維素材の、飾りっ気のないデザインの装備一式である。


清太郎は目を輝かせながら着用してみる。

しかし、棒に服を着せるが如く、全くしっくり来なかった。


(サイズ合わねえ!というか、俺のガリヒョロボディに合わねえ!

服は前世の記憶を頼りに作ってあるから、完璧な筈なんだけど、俺自身がなあ・・・。


もっと人間らしく体を作らねーとダメだな。)


清太郎は未熟な自分の体を悔やみながら、服を畳み、そっと隅に置いた。


(布は分かった!作るの超楽しいが、俺がダメだ。

人型を鍛え直す方向で・・・。

よし、次だ。

なんか目星めぼしいものあったっけ。


・・・鉱石とかかな?)


清太郎は高純度精霊鉱石を、ボール状にして取り出し、眺めてみる。


何色とも言えない輝きを放つ鉱石に、未知のパワーを感じながら閃いた。


(おっしゃ。


これで巻貝マイホーム作ろう。

もう元のやつボロボロだし、新居作るなら今でしょ。)


清太郎は鉱石を一旦蔵にしまうと、しっかりとイメージを練った。


清太郎の両手から新たな巻貝が出現する。高純度精霊鉱石の輝きを放つ、見事な出来栄えだった。


(おお・・・!カッコいい・・・!クリスタルマイホーム!艶めきが半端ねえ!)


触手の先を鉱石製巻貝クリスタルマイホームの中に入れ、空間を確かめる。十分な広さがあるようだ。


清太郎はボロボロの巻貝マイホームを脱ぎ捨て、宿替えをした。


(おお!ジャストフィット!なんか力も湧いてくる気がする!思ったより重くないし、こりゃいいわ!)


清太郎は触手を全て仕舞い、巻貝に収めた。


(絶対防御の構え!うーん、いい感じ。

強度の保証はされてないけど、前より全然硬い感じするわ。

大体、この鉱石を溶かす時めっさ苦労したもんな。それだけ硬かったりして。)


清太郎はその後、かなり快適になった異界部屋セーフティゾーンにしばらく篭ることにした。


(次にゴーレムと対峙しても、圧勝できるように強くなんなきゃな。それに、ゴーレム以上に強い奴だっているだろうし・・・。備えあれば嬉しいなってな!)




数日後・・・・・。




清太郎は、人型の鍛錬と、レーザービームの修行を納得行くまで繰り返した。

数日間で部屋の天井と床下の空間は大幅に広がり、直径200mを超える卵型の部屋になっていた。


能力スキル “創り出す者” により松明や蝋燭を大量生産し、“熱する者” で火を灯した空間内は、かなり明るくなっていた。


更に、清太郎は “創り出す者” と、蔵に収蔵された岩石を駆使し、建築に挑戦していた。


部屋の床下に何層かの床を作り出し、巨大ジャングルジムや鉄棒、平均台などのオリジナルジムを設置した。一日中人型のまま動き回りながら、“熱する者”の鍛錬の合間にジムで運動能力を鍛えた。



結果・・・。


今や清太郎は20cmの体長から、140cmほどに体積変化することが可能になった。

能力スキル “操る者” がかなり成長していたのだ。


人型の扱いもかなり達者になり、頭部、胴体、四肢などのパーツはより人間らしく再現され、指や関節などの複雑な動きをする部分も自然に動かせるようになった。


体長140cmの状態では、巻貝の部分は頭部に生えた角の様に見える。

また、髪の毛や顔のパーツはほどんど手付かずだった。

丸禿げののっぺらぼうに、小さな目を二つ、角ひとつを添えたホラー映画顔負けの外装である。


清太郎は、自身の顔面に関して開き直っていた。


(体は人らしくなってきたけど、顔面形成キャラメイクを後回しにした結果、こうなったな。

まあまだ人間に会う訳じゃないし、いっか。

機会があったらイケメン顏にして、前世での後悔を帳消しにしよう。

・・・いやいや、俺は紳士だからな。

そんな変態的願望はないぜ。

精々、いつか超絶美少女の顔を作ってロリータファッションで人前にでてやろう。ぐらいしか考えてないぜ。

ぐふふ。)




レーザービームの修行の合間に、息抜き程度にやってた人型訓練の方が結果出ちゃったな。

まあ、楽しいことは伸びるんだな何事も。)


レーザービームの成長に清太郎は満足していなかった。

ビームの破壊により、部屋の空間が広がりすぎた為、修行を中断したのだ。


しかし、焦がす程度だった威力は、今や小型爆弾ほどの破壊力に成長していた。


(ドリルにビームに、溶解液と毒。日光出てれば威力10倍。

これだけ武器あれば行けるな。ジャングルでのごはん探し!)


清太郎はベットに寝転びながら考えた。

天蓋付きのキングサイズベットだ。


(とりあえず死なないようにしよう。

この前みたいな賭け勝負はごめんだぜ・・・

。)


清太郎は眠りについた。


寝息を立て始めると、自然に巻貝マイホームに体が収まっていく。



タニシには大きすぎるベットを、蝋燭の光がいつまでも照らし続けていた。




次回、未知との遭遇

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