試す者
清太郎はドMです。
清太郎は眠りから目覚めると、新スキルの練習に明け暮れた。
新しい能力は奪取しただけでは、何の使い物にもならなかった。扱い方を知り、鍛錬し力を伸ばす必要があった。
(ではでは・・・新能力、“操る者” やってみますか!)
清太郎は体から2本の手が出てくるイメージをした。
すると、体の側面から何かがニョキニョキ伸びていくのがわかった。
(おお!キタキタキター!ってあれ?)
体の左右から1cmほどの触手が生えた。触手の先は細く、ゆっくりと動かせた。
(え?なにこれ!?短っ!全然自在に動かねえじゃん!)
ウネウネと触手を動かしてみる。
触手の付け根が強張って攣りそうになった。
(いでで!・・・ふう、まあ最初はこんなもんか。とりあえず、常に動かしとけば鍛えられるな。)
清太郎はタコ踊りのような動きのまま、次のスキル検証へ移る。
(えっと、次は “咀嚼する者” か。栄養を吸収する部位の硬質化だったな。イメージするのは歯でいいのかな?)
清太郎はサメの歯のような鋭い歯をイメージした。体の底辺にサメの歯がビッシリ生える画を想像して、若干気持ち悪くなる。
すると、体の下に何か硬い物が出現した。
触手で確かめると、どうやら乳歯のような歯が二本生えていた。
(おお!歯生えてる!思ってたのと違うけど、コレは成長すれば凶器になるかも?
鍛えまくっていつかサメの歯ビッシリにしたいなあ。キモいけど。)
歯を鍛えるため、ジャンプは極力控え、這いずり移動をする。地面に歯が当たりガリガリと音を立てている。
(よしよし、前歯めっちゃもげそうだけど、鍛えられてる感じあるわ。じゃあ最後の新能力、 “守る者” の検証だな。物理衝撃に強くなるって・・・ぶつかり稽古でもすればいいかな?)
清太郎は触手を組んで考える。
(と言っても、壁にぶつかったり、床に落ちたりするぐらいしか考えつかんなあ。一度にもの凄い衝撃を喰らった方が鍛えられそうだし・・・。あ、そうだ!)
清太郎は床に向って溶解液を掛けた。
まるでホースから出す水のように、溶解液を勢いのある細い状態にして放射した。
シュビビビビ!!!!
瞬く間に岩を溶かす。直径30cmの穴が地面に深々と空いた。
清太郎はその中に入ると、溶けた岩を吸収しながら更に深く溶かしていく。
30分後、穴の深さは50mに達していた。
清太郎は穴の入り口まで戻ると、垂直に開けた穴に向って全力ダイブした。
(うほおおおぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・)
カコーン!!!
底に叩きつけられる清太郎。
(痛え!巻貝にヒビが!でも成功!打たれてなんぼじゃい!)
そこから1日中、穴に落ちては触手でクライミングし、穴に落ちては前歯でよじ登り、をひたすら繰り返した。
触手クライミングは恐ろしく時間が掛かったが、失敗を繰り返す内にドンドンと上達していった。
そして3日後・・・・・。
今や触手は1m近く伸ばせるようになり、形も変幻自在に変化出来るようになった。
タコのような触手から、単純に本数を増やすことも可能である。
さらに、途中で分岐させて人間の手の様な形にしたり、更に分岐させて厚みを持たせ、翼にする事まで出来た。
前歯は立派な犬歯に成っていた。
本数はおよそ50本。
体内に収納出来るので、必要な時に必要な分だけ生やす事ができた。
更に、体の底辺以外にも生やせる事が判明。
つまり、清太郎が口だと思っていた部分は底辺だけではなかった。
巻貝の部分以外は全て口だったのだ。
(目の間から歯が出せるとか、なんなんだ俺の体は・・・。あれ?じゃあ目の部分から生やせたりして・・・。)
好奇心で目から歯を出す。
ニョキっと歯が生えた瞬間に、なんと視界が横にずれた。目も移動可能だった。
(うわあ、視界がバグる!いやでもこれ、触手の先に目を付けれないかな。)
更なる好奇心で目の部分から触手を出す。右目があった部分から触手が伸びる。
右の視界が触手の先に移った。
(きゃあああ!できたあああ!前向きながら後ろ見れる!バックミラーならぬバックアイ!)
清太郎は興奮しながら両目をカタツムリの目のように伸ばしたりひっこめたりした。
このように、新能力 “操る者” と “咀嚼する者” はかなりの成長を遂げた。
紐なしバンジーで鍛えた “守る者” はというと・・・。
(数回落ちて分かったけど、俺の体重が軽すぎて一定の衝撃しか加わらないんだよね。どんなに深く掘っても。もうちょい強めのショックが欲しいんだけどなあ・・・。)
悩む清太郎に天の声が答えた。
【体内の“蔵”から吸収したものの“重さ”だけを取り出し可能。】
(えっ!まじで?ナイス機能じゃん“蔵を持つ者”!どのくらい取り出せる?)
【自身が耐えうる重みのみ取り出し可能。】
(よし、じゃあ、俺と同じ大きさの岩の“重み”だけ、取り出す!)
ズシン!と体が重くなる。結構な重さだった。動けなくはないが、50mも落ちたらペシャンコだろう。普通のタニシなら。
(ふぅぅぅぅ!!よし!気合だ!ダイヤの様になるぜ!俺!)
そう言って清太郎は穴に飛び込んでいった。
それから数百回・・・・。
清太郎の硬度はダイヤを軽く上回っていた。ダイヤがどれだけ固いのか身をもって知らない清太郎だったが、自身が持つ全ての重さを背負い、50m下に落下しても平気な体になっていた。
巻貝の部分だけは耐えられなかった様で、殆ど形を留めていなかった。
清太郎が“荷重式紐なしバンジー”の修行の成果に満足したところで、天の声が告げる。
【魔力残量低下中。補充を推奨。】
(ああ、確かに腹減ってきたなあ。ここ何日か、“蔵”にある物の魔力だけ取り出して、食料代りにしてたけど、それももう尽きたのか。消費するの早くね?まあいいや、一回寝て明日またジャングルでお食事でもしますかね!)
清太郎は巻貝に引っ込んだ。体を殆ど隠せなくなったので、肌寒い気がした。
(この家ももう限界になったな。ヤドカリよろしく、次の家もどっかで探せるといいな・・・。)
ボロボロのタニシは新住居に想いを馳せながら眠りに就いた。
次回!タニシ初めての戦闘!