群れを統べる者
タニシ@地下3階後編デス
清太郎は絶対防御の構えをした。
大音量の羽音と数百の敵意を前に、タニシは殻に篭った。
(い、いざとなれば地面に穴掘って逃げよう。とにかく刺激はダメ。静かに只のタニシというか、餌にすらならないような雑魚を演じよう。
あの硬そうな甲殻はビームでも溶解液でも、効かなそうだし・・。)
暗闇の中、清太郎は蜂の群れに取り囲まれていた。
無数の羽音は耳に痛い程である。
(やっべーな・・・。
女王蜂まで居るっぽいし。
頼むぜ、俺は下の階に行きたいだけ!!見逃して!オバケナマズみたいにやり合う気無いから!)
清太郎がそう願うと同時に、全体の羽音が少し薄くなった。
清太郎はちらりと正面を見る。
だいぶ暗闇に慣れてきた。
壁という壁にビッシリと六角形の巣が見える。
先程までホバリングしていた蜂達は羽を休め、ジッと清太郎を見ていた。
(・・・?
え?どしたの?静かになった。
も、もしかして、気持ち通じた?)
清太郎はキョロキョロした。
カツン、と地面に杖をつく音がする。
女王蜂が上半身をもたげていた。
巨大な腹を地に横たえ、片手の杖を支えとしている。
女王蜂は、かなり衰弱している様だった。体全体には生気が無く、萎れ、干からびていた。
清太郎は眉を潜めた。
「お・・・おい、あんた女王蜂だろ?
俺は只のタニシだが、あの・・・。
とりあえず、なんか弱ってるみたいだし・・・。
これ、どうぞ・・・。」
清太郎は女王蜂に近づいた。触手を伸ばし、先端から魔力を放出する。
以前、貨物船の医師に魔力を分け与えたやり方だった。
清太郎の出す魔力で、空間がふんわりと明るくなる。
周囲の蜂達は、清太郎の触手や光に動揺し、羽を鳴らし始めた。
だが、女王蜂が目を閉じると、蜂達もまた静かに見守った。
女王蜂はみるみる生気を取り戻した。萎れた腹は張りを取り戻し、淡く光りだした。手足は力を帯び、複眼は宝石の様に輝いた。
「おお、凄え変化!
だいぶ元気になったみたいだな!
じゃあ、俺はこれで失礼し・・・」
ヴヴヴヴァアアアアアン!!!
刹那、女王蜂が羽ばたいた。
低音の超音波が大音量で響く。
「うおわっ!!」
清太郎は飛び退いて小さくなった。
ヴヴン!!ヴンヴンゥヴヴ!!ヴヴアア!!
女王蜂は腰を低くしながら、羽音を出し続けている。
まるで言葉を話すような、複雑なリズムだった。周囲の蜂達も清太郎に膝を付いている。
「わ、お、おう!なんだかわかんねえけど、なんか喋ってんだな!?
そーだなあ・・・ちゃんと聞いてあげたいなあ・・・。あ。ちょっとそこの君、スマン、体見せてくれ。」
清太郎は、一匹の蜂にスイスイ寄っていくと、極細触手を大量に伸ばした。
触手に包まれた蜂は、パニックになり滅茶苦茶にもがいた。
「ごめんごめん!もうちょっと!!
ああー!わかった!なんとなくわかった。
オッケー終わり、すいませんでした!」
清太郎はペコペコ謝る。
さて!と気合いを入れ直し、変身し始めた。
極細の触手を絡み合わせ、頭部、胸部、腹部を構成していく。繊細かつ複雑な編み合わせで、手足や触覚、羽根までも再現する。
しばらくすると、少し小振りな蜂の体が出来上がった。
タニシの本体である巻貝はお尻にくっ付いている。
(おお・・・出来てんのかな?これ。
羽根動かして喋るんだっけ?)
清太郎は羽根を動かしてみた。
プププ・・・ププ・・・プウン。
羽根はいとも簡単に動かせたが、羽音が出るまでには至らなかった。
周囲の蜂達がざわめく中、女王蜂が羽音を出した。
「なんという奇跡でしょう。一族の長として感謝します。」
清太郎は感激した。
「キコエル!ヤタ!
オレ!テキ!チガウ!」
清太郎は落胆した。
自分では、「意思疎通できる様だな。よかった。俺は戦う気は無いんだ。」と言ったつもりだった。
女王蜂は清太郎に触覚を近づけると、清太郎の触覚に重ねた。
瞬間、清太郎の頭の中に直接、イメージが流れてきた。
蜂達は砂漠に降り立ち、巣を作る場所を探し求めた。
だが、砂漠は既に巨大魚の巣窟だった。
戦士達は勇敢に戦い、砂の地を制するまでに一族は大きくなった。
女王は安住の地下に城を築いて子を生み続けた。
しかし、時は過ぎ、糧となる巨大魚は取り尽くしてしまった。
地下の糧は底をつき、女王は子を産めなくなった。
蜂達は一気に弱化した。
一族は、糧のない砂漠で徐々に滅びる運命だった。
せめて子だけでも、と、卵を魚の死骸に定着させた。なんとか魔力を卵に与える為だった。
イメージはここで終わった。
女王蜂は清太郎に語りかける。
「我々は、この砂の箱の中で死にゆく筈でした。
ですが、あなたのお陰で私はまた子を産む事が出来ます。
そして・・・。
あなたは元々ニンゲンで、今はニシュドラン。
旅の中で力を得て、姿を変えられるのですね。
仲間を探しにここに来た事も、わかりました。」
女王蜂は大きな腹をズズズと引きずった。
腹の下から降り階段が見える。
清太郎は目を丸くした。
「カイダン!!ヤタ!ウレシ!
アレ?ナンデ?ワカル?オレノコト?」
「我々は、翼で言葉を交わし、角で意思を分かち合います。
互いの角が触れ合えば、分からないことなど何もないのです。」
清太郎はへぇーと言いながら、自分の触覚を触った。
「ジョオウ。ドウスル?コレカラ?」
「貴方が来た道を辿り、この砂の箱から出ようと思います。
私は行けませんが、我が兵が、子を連れて行きます。
何度失敗しようと、私が子を生み続ければ、希望はあります。」
「サスガ、ジョオウ!コレ、ヤル!」
清太郎はトコトコと歩くと、空っぽの巣の中にありったけの食料を出した。
迷宮に向かう前、リディアナ国の市場で買い漁った物だった。
パンや干し肉、フルーツや酒、焼き菓子、綿菓子などが、六角形の穴の中にギッシリ詰まった。
「スコシ、ダガ、スマン!ジャ、オレ、イク。」
清太郎は降り階段を降りていった。
蜂達は一斉に羽音を鳴らし、救世主の旅立ちを見送った。
清太郎は階段を降りながら、蜂になった自分の体を見た。
(軽い気持ちで作った奴らと、喋れるなんてな。びっくりだわ。ていうか切り抜けられたの、奇跡。
でもなー。畏れ多い事しちゃったのかな。命のコントロールなんて。
でも何もかも謎だし、とにかく俺が生きてトレンさんに会わねーとだな。)
清太郎は。深い降り階段を駆け下りて行った。




