群れる者
清太郎は地下3階に這い出た。
砂の底から、吸引力の限りを尽くして浮上してきたのだ。
照りつける太陽の下に出る。
清太郎は周囲を見渡した。
「やっと着いたぜ。
ポタル君家から割とあるな、距離。
いやー、懐かしの砂漠!日差し、痛!」
開放感を感じながら、砂の海をスイスイ進む。
大きなアリ地獄を迂回し、砂の丘を登ったり下ったりすること数分後・・・。
ふと、清太郎は鼻歌を辞め、立ち止まる。
何かが聞こえた。
ブゥゥゥン、と油断ならぬ低音が、僅かに響いている。
清太郎は咄嗟に巻貝に篭ると、砂に身を埋めた。
砂丘の向こうをジッと見つめる。
黒光りする甲殻が数体、宙を舞っていた。
(・・・デケェ!!
クッソでかい・・・蜂?
前来た時、あんなん居なかったのに・・・。
・・・!あっ・・・。
もしかして・・・。)
清太郎は迷宮妖精ポタルとのやり取りを思い出した。
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「ポタル君、この砂漠さあ、砂ん中のナマズぐらいしか居ないじゃん?」
「うん。なんか砂漠ってさ、生き物が定着し難くて。地中に住める種族ぐらいしか、思い浮かばなかったんだよね・・・。」
「そーかそーか・・・。
それじゃあ、飛ぶタイプの魔物とか置いたらどう?
しかも集団で行動するやつ。」
「飛ぶタイプかあ・・・!!しかも集団!?
そっ!それってどんなヤツ!?」
「ふふ・・・昆虫界の中でも最強と謳われる、スズメバチというのがだね・・・。」
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清太郎は、思わず額を叩いた。
(あれ・・・俺のアイディアで出現させた奴だ・・・。)
清太郎は、改めて周囲を見渡す。
黒光りする1m級の蜂が、数十匹。スズメバチに似た、大きな腹と目を持っていた。
目視出来ないだけで、百匹以上いるかもしれないと清太郎は感じていた。
心なしか、羽音のボリュームも次第に大きくなっている。
背中に嫌な汗をかきながら、考えを巡らせる。
(蜂かあ・・・。蜂といえば、下手に刺激すると酷い目に遭うイメージだな・・・。
とにかくゆっくり、見つからなければこっちのもんだ。
出口はどっちだっけ?確か、隅っこの方に階段があるんじゃなかったっけ・・・?」
清太郎は、砂に半分埋まりながらズリズリと移動する。
途中、沢山の鯰の頭蓋や、バラバラになった骨が転がっていた。
腐りかけた鯰の腹には、六角形の穴が無数に空いている。
巨大な鯰の死骸は、スズメバチ達の巣になっていた。中では大量の蜂の子達が元気にウネっている。
砂漠に広がる殺伐とした光景は、砂漠の元支配者が、その座を引きずり降ろされた痕跡であった。
清太郎は身を縮めて慄いた。
(OMG。オーエムジーだよ。オーマイガ。
オバケナマズ、殲滅されてますやん。ガッツリ駆逐されてますやん。
完全に蜂さん達のパラダイスと化してますやん。
これ、階層のパワーバランスは取れて・・・ない、ね。
やばいね。ウケるね。
俺のアドバイス、めっちゃ意味なくない?
むしろ逆効果。
まあまあ、オーケー。大丈夫、問題無い。
とにかく次行っちゃえば問題無い。
蜂さん達にはこのまま繁栄を極めて貰ってね。蜂の子もたくさん育ってる様ですし、微笑ましいわ。キモいけど。
あれ、てことはハチミツとかもある・・・?
いやいや、あんなデカイ蜂の蜜だぞ?
大きいだけに、とっても甘くて美味しい、なんて保証・・・あるか?
無いよね!何考えてんだ俺はアホか。どんなデンジャラス食いしん坊だよ、落ち着け俺!)
清太郎はスズメバチに気づかれぬよう、慎重に進んで行った。
蜂達は、ホバリングして周囲を警戒したり、忙しく飛び回ったりしている。どうやら、役割分担があるようだった。
(なんか・・・俺、全然気付かれないんだな。
階段見えてきたし、安心していいのかな?)
30m先に、朽ちた煉瓦の門が見える。
遠くからでも降り階段だとわかった。
「いよっしゃ!砂漠よさらば!蜂グッバイ!
戦わずして進む!イエア!」
清太郎は、勢い良く砂丘を滑り降りた。
途端。
ドッパアアアアア!!!
「!!?ヘァッ!?」
清太郎の背後で、大量の砂が撒き散った。
振り返ると、白い鯰が大口を開けて、清太郎に食らいつく寸前だった。
「ぎゃああああああ!!!」
清太郎は咄嗟に溶解液を発射した。
バシュバシュッ!!
ジュワアァッ・・・。
「ギャワオオ!!グガアアアアアッ!!」
鯰の顔面は溶解して歪み、白煙が上がった。
鯰は一瞬怯んだが、逃げる清太郎に咆哮を浴びせた。
清太郎は突っ走った。
動きの鈍った鯰を後ろ目で見る。
(ああっぶねええ!!
いっ!生き残りいた!!
オバケナマズ、絶滅してなかった!しぶてぇ!ていうか俺みたいなミニマムを食おうとすんなよ!歯に詰まって終わりだろ!?蜂食えよ!蜂!明らかにボリューミーだろ!
・・・はっ!!!
き、き、来た!!!)
低音の羽音が鳴り響く。
巨大スズメバチの群れが、一斉に押し寄せた。
ブゥウウゥゥウゥウン!!
真っ黒の蜂の塊が、巨大鯰を取り巻いた。
蜂達は太刀のように長い針を出し、鯰の体を所構わず突き刺している。
耳を塞ぎたくなるほどの羽音は、鯰の悲鳴を掻き消しつつある。
ブシュッ!!ブシュブシュッ!!ブシュッ!!
「ギャオ・・・ッ!!!グオ・・・オオオオッ!!」
鯰は酷く暴れ回った。
悲鳴と怒りの咆哮を繰り返し、何匹かを喰いちぎっていた。
清太郎は数十メートルの距離を保ちつつ、戦場を刮目していた。
(そ・・・壮絶!!はやく階段に・・・。)
ガチガチ、ガチガチッ。
一匹のスズメバチが顎を鳴らした。
明らかに清太郎を見ている。
(あっ・・・ばッ!ばれてる!ヤバイ!逃げろ!!)
清太郎は瓦礫の門にダッシュで飛び込むと、階段を駆け下りた。
蜂達の羽音が遠退く中、ひたすら下を目指した。
「はぁ、はぁ。はぁー・・・。
いやー、危なかったな・・・。
あの軍勢はヤバイ。
オバケナマズ、ボッコボコでしたもの。
ハチミツ食ってみたいとか一瞬でも思った自分、マジ愚かだわ。死ぬわ。全然死ねる。」
タコ足を駆使してスルスルと階段を降りていく。
ふと暗がりの壁を見ると、六角形の凹凸がビッシリ並んでいた。
まるで蜂の巣の内部の様に。
「・・・え?なにk・・・。」
言い終わる前に階段が終わった。
ぽっかりとした空間に出た。光は無く、視界は悪い。
ヴヴウヴヴウウヴヴヴヴウ・・・。
空間全体が震える程の羽音が木霊した。
(ここ・・・次の階じゃ・・・ない・・・!
ここは・・・!!蜂達の・・・)
幾百の目が光った。
清太郎の正面には、一際大きい目がギラギラと浮かび上がっていた。
次回!
タニシvsスズメバチ一族




