奪取する者
(真っ赤に〜燃え〜る〜巨◯の星〜、巨◯のほ〜しをつっかむっためぇ〜)
バシャ。
(血〜の汗な〜がせ〜な〜みだを拭くな〜)
バシャバシャ。
(ゆ〜けゆ〜け〜ひゅ〜ううまぁ〜↑↑)
バッシャン!
(どん〜とぉ〜ゆ〜けぇ〜〜〜)
バッシャバッシャバッシャ。
(よーし、だいぶ溶かしたわ。さて次は・・・)
ずぞっ。ずぞぞっ。ずぞぞぞぞぞっ!!
(ぷはあ。ご馳走様でした。)
能力“食す者”ブートキャンプの悲劇から、無事に完全回復を果たしていた清太郎は、元気に溶解と吸収を繰り返していた。
召喚門と魔法陣を避けるように溶かされた床は、落ちたらタダでは済まないような崖と化していた。
しかも、いつ召喚者が戻ってきてもいいように、階層を繋ぐ階段からの道も残しておいた。
清太郎なりの優しさである。
爪先立ちにならないと渡れない程の道幅になってしまったのは、ご愛嬌だ。加減が難しいのである。
最近はめっきり精霊鉱石も見つからず、味のしない岩にもいいかげん飽きてきた清太郎は、他の階層を目指す事にした。
(他の階ってどうなってるの?やっぱり魔物とか居るよね?)
【特殊な階層でない限り、魔物は存在する。最下層へ近づくごとに魔物は強さを増す。稀に中層や上層でも下層レベルの個体が存在する。階層の主と呼ばれ、一帯を支配している。】
(俗に言うフロアマスターってやつか。おお怖!絶対会いたくないわ。で、ここは何層目ぐらいなの?中層あたり?)
【最下層の手前。下層の後半と推測。】
(え!?そんな深いトコなの!?まあ、怪しい召喚なんてしてたし当たり前か。なんてこった・・・この場所から出れないようなもんじゃねえか。)
立ちはだかる下層の壁に急に心細くなる清太郎。
下層の魔物について色々と質問しようと考える。
しかし、出会った事のない魔物の事は尋ねられる筈もなかった。
(まあ、何があるか分からんが、行ってみるしかないだろうな。俺の武器は溶解液ぐらいしかないけど・・・いざとなったら巻貝に篭ってやり過ごしてもいいわけだし、なんとかなるっしょ!)
清太郎は意を決した。
タニシ離れした身のこなしで、階段をピョンピョンと昇る。
目指すは上。
より魔物が弱い方へ。
岩を削って出来た階段は、進むごとに徐々に形を崩していった。
不規則な凹凸が目立が目立ち始め、岩は土へと変わってゆく。
人間がこの道を通った場合、さぞかし歩きにくそうな悪路だったが、ジャンプ移動出来るタニシには唯のアスレチックだった。
道中1時間は掛かった。
ただひたすらに一本道であった。
しばらく進むと出口が見えた。眩い光が漏れている。
(よっしゃ!光だ!明るいって素敵!いや、でも油断は禁物。そーっと覗こう。そ〜っと・・・。)
そのフロアは、ジャングルだった。
鬱蒼と生い茂る魔法植物群。
かなり背の高い樹木が見渡す限りに生えている。天辺は遥か上。魔法で生成された日の光がジャングルを照らしている。
木に絡みつく蔦はクネクネと動き、派手な色の花達は花弁をパカパカと開け閉めしている。怪しげな果実が甘ったるい香りを放ち、木々の上では怪鳥達が会話するように鳴いていた。
やや遠くの方では、ピンク色の鱗粉を出す小魚が、群れになって空中を泳いでいる。
ムカデにトンボの羽をくっつけたような魔物は蛇行しながら飛び回っていた。
危険とロマンの匂いが充満するフロアに、清太郎の心は奪われた。
(うおおおおー!!すごいっ!生命に溢れているっ!ホントに地下なの此処!?食えそうな物いっぱいありそう!じゅる!)
清太郎は辺りを物陰に隠れながら散策して回った。
と言っても、5センチのタニシが目立って動く方が難しかった。
蛍光色の蟻の行列や、角が4本あるカブトムシに見つからぬように進む。
小型の魔物でも危険かもしれない。
タニシなぞは食物連鎖のピラミッドの中でも最底辺なのである。
つまり出会う者皆敵なのだ。
そう心構えしていた清太郎だったが、魔物達はまるでタニシに気がついていないようだった。
(俺、もしかして溶け込んでない?いい感じに空気になれてるかもこれ!)
余裕が出てきた清太郎は、更に奥へと歩む。
しばらく進むと、たわわに実った果実が目に入る。
(この変な形の実、食えんの?)
【ジュプレグロ。貴婦人の果実と呼ばれる。果肉には幻覚毒が含まれる。】
(毒あんのかあ・・・。悶えてる時に襲われたら終わるし、やめといた方がいいか。)
【能力“毒する者”の効果により、毒ダメージは軽減される。】
(そ、そういうことなら・・・。ちょっと味見。)
木をよじ登り、逆ハート形の果実にくっつくと、表面を少しだけ吸収する。
(おほ!美味しい!すっごい芳醇!!熟しすぎた洋梨のようだわ。)
視界が一瞬ぐにゃりと歪んだが、大したことなく正常に戻った。
(まあ大丈夫だな!行けるわ。“毒する者”マジナイス。でも、毒するって事は俺も毒作れたりするの?)
【可能。食した毒を複製することが出来る。】
(ほほう。こりゃ戦闘で役立つかもな。練習してみるか。やり方分かんないけど。)
【溶解液と同様に再現可能。】
(そーゆーことね!じゃあ・・・幻覚毒っ!出てこいっ!)
バシャッ!
(おおうっ!めっちゃピンク色!後でザコ相手に引っ掛けてみよー。まあ、俺が一番ザコなんですけどね!)
清太郎は明るく笑いながら、その場を後にした。
(さあて、いきなり魔物相手はキツイので植物全般を攻略していくか。バシバシ食いまくって強くなるよ!俺!)
緊急時に備えて入り口付近に身を構え、手近な草木に溶解液を掛けた。
バッシャアアア!
ジュワア・・・
白煙を上げながら溶ける草花。
木の幹はえぐれ、地面には穴が空いた。
すかさず液の中に飛び込むと、一瞬で吸い尽くす。
(ゲロマズMAX!青汁か!でも“味わう者”で味覚が良いとこ取りになってるのに、なんでこんな青汁なんだ?まあいいか。ビタミン摂取だと思って飲むか。)
1時間後・・・
入り口の周りの風景は一変した。
草花は消え去り、地面は不自然に穴が空きまくっていた。
木々の幹は抉れ、樹皮は溶けてボロボロになっている。
飛び回っていた魔物達は姿を消し、何も動かない、静寂の森と化していた。
余りにジェノサイドすると生態系に影響するかもと思った清太郎は、木だけは残した。
倒木した先に強敵がいて、襲ってきたらヤバイと気がついたのは先程だったが、結果オーライだった。
(いやー、食った食った。まだイケるけど。なんか能力も幾つか取れたし、とりあえず今日はこの辺で帰って寝よう。)
来た道を戻りながら、天の声に尋ねる。
新しく得た能力についてだ。
【奪取能力 “操る者” 獲得。テリアリュートという蔓草の魔法植物より奪取。自身の体から触手を伸ばし、自在に操ることが出来る。】
(あのウネウネ動いてた蔓か!怪しい草だったからあんまり近寄らずに食ったけど、能力持ってたのね。ラッキー!草といえど強い奴だったのかな。)
【テリアリュートの別名は“密林の絞殺者”。蔓で絞め殺した対象を栄養にする。】
(危ねえやつじゃねえか!怖!ウネウネ草怖!)
【奪取能力 “咀嚼する者” 獲得。メサキナという白い花弁の魔法植物より奪取。身体の一部を超硬質化する。主に、食物を取り込む部位が変質の対象。】
(白い花ってあのパカパカしてたコスモスみたいなやつか。危険なやつだったんだ。ていうかこのスキルってつまり“歯が強くなるぞ”だよな!?俺の歯って・・・どこ?)
【口の役割を果たす部分が歯になりうる。】
(ざっくり!まあいいや。次!)
【奪取能力 “守るもの” 獲得。シジマクアの幼体、サナギ状の魔物より奪取。物理衝撃に対する耐性が付く。】
(サナギなんて居たんだ。物理防御アップは美味い!タニシだったら硬くてなんぼでしょ。)
そうこうしている内に異界門のある階層に到着した。
(今日ゲットできたスキルは3つか・・・。すんなりこんなに取れてラッキーだったな。明日から能力検証とかしてこう。おやすみ〜・・・。)
5cmのタニシは眠りについた。