閃く者
「どう?美味しいだろ?更にこう、ちょっと火で炙るとだな・・・。」
枝先に刺さった野球ボール大のマシュマロが、表面をプスプスと焦がしている。
その様子を食い入るように見つめているのは、迷宮妖精のポタルであった。
「ほら、出来たぞ。食べてみな。」
清太郎はマシュマロが刺さった枝をポタルに渡した。
ポタルはまじまじと焦げ跡を観察すると、そっと口にした。
「!!お、美味しい!!」
「だろー?炙りも中々乙だろ。
チョコレートがあれば、チョコフォンデュにしたり出来るんだがなあ。
これがまた、美味いんだよなー・・・。」
だらりと涎を垂らしながら、清太郎は空想に耽ってる。
ポタルは清太郎の話に頷きもせず、ひたすら炙りマシュマロに没頭していた。
清太郎がポタルに食べさせているのは、以前ヤコナゴの街で大量に買ったお菓子だった。
マシュマロによく似た菓子だが、大きさは大人の拳大であり、弾力はスーパーボール並みに高かった。
しかし、重さはほとんど無く、歯で噛めばフワリと柔らかい、摩訶不思議な食べ物だった。
ポタルはマシュマロボールを頬張りながら、清太郎を見た。
「外の世界には、こんなに美味しい物があるんだな。お前、変な奴だけど、ちょっといい奴じゃないか。」
口の周り中、マシュマロだらけになりながら、モフモフと話し続ける。
「で、なんでこんな場所にいるんだ?
迷宮の魔物なら普通、決まった階層に住んでる筈なのに。」
清太郎は、マシュマロボールをチリチリと炙りながら答えた。
「それがさあ、この前、友達と逸れちゃってね。
探しに来たんだ。
ポタルは管理人なんだろ?最下層って何階なんだ?」
ポタルは、マシュマロを食べる手を一瞬止めた。
「最下層?最下層まで行く気?
今は多分、地下90階ぐらいが最下層だけど・・・。」
清太郎は頭に?を浮かべながら言った。
「多分ってなんだよ。
よく分からないのか?
管理人って言っても、結構いい加減なんだな。」
ポタルはバッと立ち上がった。興奮しながら答える。
「いい加減じゃないさ!
ていうか、いい加減からかなり程遠い程、色々決まりがあるんだ。
僕の管轄は、地下1階から地下40階までだから、それ以降の深い場所の事までは、詳しく分からない・・・。
地下40階以降は、兄さんと姉さんの管理ゾーンなんだ。」
「へえー。兄弟でやってるのか。
じゃあその兄さんか姉さんに、迷子の苗人がいないか確認して貰えねえかな。頼むよっ!!」
ポタルはあからさまに嫌そうな顔をした。
「む、無理に決まってるだろ!
得体の知れない奴からのお願いなんて、聞いてもらえる訳ないよ。
それに、今、僕はそんな余計なことしてる場合じゃないんだ。
早く地下1階の状態をなんとかしないと・・・ああ!また怒られる・・・!!」
清太郎は頭を抱えるポタルを遠い目をして見ながら、肩を落とした。
「随分深刻なんだな。
なんか本当、悪いことしちまったみたいで、ごめん。
でも、何でそんなにダメなんだ?
地下1階の魔物が強いのが。」
「それは・・・・。」
ポタルは、はぁ、とため息を吐くと、浮遊する雲にもたれた。
「何でお前みたいな、得体の知れない奴に説明しようとしてるんだろう・・・。
しかもお前は、僕が手間暇かけて作った階層をめちゃくちゃにした奴なのに・・・。
ああ、僕はどうかしちゃたんだあ・・・。」
ポタルは、頭を抱えて泣きそうな声を出している。
清太郎は体内の蔵からティーポットとカップを取り出すと、熱い茶を淹れた。
トポトポと注がれる茶から、湯気が立ち込める。
「まあまあ、いいじゃないか。
これも何かの縁だろ?
落ち込まないで話してくれよ。」
ポタルは、出された茶に目を落とす。
ほんのり甘い茶を啜る内、ポタルはポツポツと語り始めた。
「お前にこんなこと話しても、どうしようもないけどさ・・・。
地下1階はこの迷宮の中で、最も弱い魔物の集まりでなきゃならないんだ。
地下1階から地下2階、地下3階、地下4階、と、階層が深くなる毎に、魔物を強くしていって・・・。
最終的に、最下層に迷宮最強の魔物を住まわせる決まりなんだ。
兄さんは、魔力のバランスが一番大切だって言ってて・・・。
だから、全部の階層と辻褄を合わせる為にも、地下1階は最弱の魔物じゃないt・・・。」
「なんだ!そういう事ならさ。」
ポタルが説明し終わる前に、清太郎が口を挟んだ。
「地下1階はそのままにして、地下2階からまた強くして行きゃいいじゃないの。
そうすりゃ地下1階は、直さなくて済むじゃん。」
ポタルは、信じられないという顔で清太郎を見た。
「え!?
でもそしたら、39階分を作り直しじゃないか!
それに今、地下1階の魔物が、地下50階の魔物と同じぐらい強いから・・・。
地下40階になると、地下90階の魔物と同じ強さになっちゃうよ!そんなn・・・」
「そもそもな、ポタル君よ。」
清太郎は、ポタルの話を遮るように切り出す。
「タニシ一匹にめちゃくちゃにされる程度の迷宮作って、君は満足なのかっていう話なんですよ。
兄さんが姉さんがって言っててね、自分がやりたい事出来てますか?あなた?
この世界には、迷宮が幾つもあるって話じゃないか。ええ?
胸張って言えるかい?他の迷宮に。
ここが僕が作った迷宮です!って。
タニシ一匹の進入も、易々と許しちゃうぐらいの、緩〜い迷宮ですがって、言うんですか?あなた。」
ポタルは、清太郎の言葉に貫かれたかのように、硬直していた。
清太郎は、静止するポタルをじっと見つめながら思った。
(あ・・・ふざけたこと言いすぎたかもしれん。
良く知りもしない癖に、煽るような事言っちゃった。
・・・あかん、ポタル君の権限で瞬殺されたりとかしたらどうしよう。
ていうか、どこ見てんのポタル君。急にフリーズするとかマジ怖いんですけd・・・)
「・・・・・・・それだ・・。」
ゆっくりとした口調で、ポタルが呟いた。
え?という顔をする清太郎に構わず、ポタルは奮い立つように言った。
「それだよ!!
兄さんも姉さんも、この迷宮を、最も偉大な迷宮にしようって言ってた。
だったら、最初から強〜い魔物を住まわせて、兄さん達をあっと言わせればいい!!
そうすれば・・・皆、もっと僕のことを認めてくれる!
修行の足らないグズポタルなんて、もう言われなくて済む・・・!!」
ポタルは、自らの素晴らしい閃きに、闘志を漲らせている様だった。
清太郎はやる気を燃やすポタルを見つめつつ、遠慮がちに声をかける。
「あの・・・とっても気合いの入ってる所悪いんだけど、俺のお願いは・・・。」
ポタルはクルリと振り返り、清太郎を見た。
先程までのジメジメした雰囲気は一切無い、やる気と希望に満ちた目をしている。
「勿論、叶えてやるさ。何とかして。
ただし、僕の計画が終わってからだ。
さあ、行こう!
シュドにも手伝って貰うからね。
何たって、発案者だ!」
ポタルは、清太郎の貝殻を片手で掴むと、そのままフワリと飛行し始めた。
「!?
俺も付き合う感じなの!?」
清太郎は触手を地面に伸ばして抵抗しようとした。
しかし、ポタルの飛行スピードは蜂の様に速い。
伸びた触手は、虚しくも宙をヒラヒラと舞った。




