別れる者
お久しぶりでございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
大穴が空いた岩肌は、まだ細かい石をパラパラと散らしていた。
砂埃舞う中、一行は迷宮の入り口が開かれた瞬間を目撃していた。
ネリアナは地面に膝から崩れ落ちると、顔を覆った。
「・・・ガルガンダ。
偶然、壁に光る穴が開いただけって言って。」
ガルガンダは首を横に振った。
「追い討ちはかけたくないが・・・。
最悪が口を開けたみたいだな、この穴は。
さっさと、階段ないし扉の有無を調べて、ギルドへの報告を急ぐべきだ。」
清太郎は目の前で空いた大穴を見つめていた。
薄暗い谷底に、暖かな光を注ぐ穴は、まるで天国への入り口のようであった。
清太郎は堪えきれず、ガッツポーズをする。
苦笑しながらセトが言った。
「シュド、お前だけだな。純粋に喜んでるの。
俺らは、これから大忙しだぜ・・・。」
クルリと清太郎が振り返る。
「俺も、なんか出来る事あったら、協力させて下さい!
でも、友達を探し終わったら・・・に、なっちゃいますけど。」
ネリアナがフラつきながら言った。
「そうね・・・シュドは、迷宮を探索する事が目的だものね・・・。
とにかく、中の様子を見ましょう。」
歓喜する清太郎を先頭に、一行は岩肌に開いた穴へと入って行った。
ピチャン・・・ピチャン・・・
穴の中はトンネルになっていた。
岩肌は湿り気を帯び、水が滴る音が時を刻んでいた。
セトが前方の暗がりから、何かを見つけた。
「おい、階段だ。
降り階段があるぞ。
かなり深そうだな・・・。」
一行は階段を覗きこんだ。周囲の空気が、ひゅうひゅうと階段へ吸い込まれていた。
古い垂木で組まれた階段は、ヌメヌメとした苔を纏っている。
ミサが杖の先から、ボンヤリと光る火の玉を出した。
ふうっと息を吹きかけると、階段をふわふわと漂い始めた。
火の玉は、階段を照らしながら、ゆっくりと降りて行く。
一同、光の行く先を見つめながら、その長さを感じていた。
ネリアナがボソっと呟いた。
「地下層型迷宮・・・。」
ガルガンダが続ける。
「第一、第二迷宮と同等の構造だな・・・。
階段から既に、入り口とは異質の空気を感じる。
この下は恐らく、迷宮の地下一階。
此処とは別世界だ。」
ネリアナはすっくと立ち上った。
「信じたくなかったけど、もう降参よ。
ギルドに至急、連絡を取らないとね・・・って、んん!?」
双子は、既に水晶玉を取り出して、宙に浮かせていた。
水晶玉はキラキラと美しい光を映し出している。
「ネリ姉、この階段の近くだと、魔法使えるみたいー。」
「しかもぉ、とっても使いやすいよぉー。」
双子は上機嫌に杖を振ると、小さな星屑を辺りに振り撒いている。
「きゃは!そうなの!
ちょっとの力で、いっぱい魔法が使える感じー!」
「きゃはは!そうそう!ふしぎー!楽しー!」
きゃあきゃあと騒ぎながら杖を振っている双子を、呆気にとられた様子でネリアナは見ていた。
ガルガンダも驚いた様子だった。
「まさか、魔術師狂わせの地で、こうもすんなり魔法が使えるとは・・・。迷宮の力は未知だな。」
宙にふわふわと漂う水晶玉には、頭を抱えたモロフォードが映っていた。
ギルドのオフィスに座って居るようだった。
水晶玉の中のモロフォードが顔を上げた。
「それで・・・存在したんだな、迷宮。
しかも・・・。
よりによって・・・終焉の谷底に・・・。」
ネリアナは目を丸くした。
「モロフォード!?
いつの間にギルドと繋がってたの・・・!?」
モロフォードは眉間のシワを深くしながら言った。
「すぐに応援隊を送る。
それまで、お前達は迷宮を死守しろ。
帝国に迷宮の存在を悟られるな。
以上だ。
・・・それと、シュド。
ご苦労だった。
ギルドの金を使い込んだ分の働きをしてくれた様だな。
お前がギルドに来なかったら、帝国に先を越されていただろう。」
そう言うと、モロフォードは水晶玉の中から姿を消した。
ネリアナは、置いてけぼりを食らったような顔をしていた。
しかし、すぐにメンバーの前に居直った。
真剣そのものの顔で、指揮を称える。
「そういうわけで、現時点より探索任務から新迷宮の隠蔽任務へと移行するわ。
みんな、今からが肝心よ。宜しく頼むわ。」
おう、と男二人が息を合わせて応える。
双子はコクリと頷くと、何やら呪文を唱え始めた。
洞窟全体に、薄い虹色の膜が、うっすらと掛かった気がした。
「もしかして、もう隠し終わったんですか?この場所。」
清太郎がセトに問う。
「まあな。外から見れば、この洞窟の入り口は見えない。だろ?ミサリサ。」
双子はえっへんと言わんばかりに胸を張る。
ガルガンダが、油断の無い眼差しで、外への出口を見つめて言った。
「・・・だが所詮気休めだろう。
帝国の戦士や魔術師とて、鈍ばかりではないはずだ。
見破られた時の備えが、俺達だ。」
ガルガンダはそのまま清太郎に問うた。
「おい、シュド。お前はこのまま下に潜るのか?」
清太郎は目を輝かせて頷いた。
「もちろんです!この下にトレンさんが居る筈なんで・・・迎えに行きます。
でも、皆さんとのお別れが寂しい・・・。」
セトが大笑いして清太郎の背を叩く。
「お前はほんっと素直な奴だな!
・・・ささっと行って、早く帰って来いよな。
お前の創り出す風呂、ウチの叔父貴がもう好きで好きで!・・・また入りたいんだってよ。」
ガルガンダは少し照れたようにムッとしたが、他のメンバーは笑った。清太郎もつられて笑う。
「ははは・・・。ありがとうございます、皆さん。
じゃあ、荷物をお返ししたり、色々ありますんで・・・ちょっとそこらで待ってて下さい。」
清太郎を残し、メンバーは周辺の見回りに出て行った。
清太郎は蔵から全員分の荷物を出し終えると、ふっと閃いたアイディアに少しにやけた。
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数十分後、ネリアナが階段前まで戻ると、声を失った。
階段前のスペースは四角い部屋になっていた。
中央には低い焚火台が四つ、階段を囲む様にメラメラと炎を上げていた。
部屋全体を装飾する様に造られた柱は、荘厳な風貌であった。
四隅には、大きな甕に水がたっぷりと貼られている。
ネリアナはゆっくりと歩いて回った。
奥には、五つの小部屋があった。全員の荷物と共に、ベットやソファなどが置かれていた。
更に、左手の壁には観音開きの扉があった。
ネリアナは扉に駆け寄ると、ギイと開いた。
湿った熱気が顔にかかる。
「シュドったら・・・」
ネリアナが微笑んでいると、ガルガンダとセトが部屋の入り口で声をあげた。
「な、なんなんだこれは!?どうなってんだ!?
だだの穴倉が、ものの2、30分で・・・」
「ネリアナ、あいつは!?」
「・・・もう行ったみたいよ。あなた達にお土産を置いて行ったわ。」
セトがそうか、と少し残念そうに言った。
双子が小部屋の中で、もふもふーっ!!、と歓喜の声を上げている。
ガルガンダが観音開きの扉を開け、特大の五右衛門風呂を前にして呟いた。
「帰ってこなかったら、連れて帰るまでだ。」
次回、清太郎「めちゃくちゃ腹減ったンゴ・・・おや、こんなところに迷宮1階が・・・。」
迷宮1階「存在ごと喰らう・・・だと・・・!?」
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