終焉に潜む者
遅くなりました。
ブックマーク数が50件を超えました。
ありがとうございます。
本編最後に清太郎のイラストを追加致しました。
たくさんの御アクセス、ブックマーク、御感想、コメントをありがとうございます。
パチパチと枝の燃える音がする。
焚き火を囲みながら、清太郎達一行はスープを啜っていた。
探索は4日目の夜を迎えている。
一行は、8つの谷のうち4つを探索し終えた所であった。
メラメラと燃え盛る焚き火を見つめながら、清太郎がポツリとが呟く。
「なかなか見つからないもんですね・・・。迷宮。」
「フライホース渓谷から始まり、ハイマウンテンの谷、スピア絶壁の谷間・・・。
今日はタケオン峡谷で、明日は・・・。」
セトが指折り数を数える。
ネリアナが焚き火を棒で突きながら言った。
「明日は、ギザの谷よ。別名、終焉の谷底。
この任務の山場ね・・・。
彼処では、ミサリサの魔法が使えないから・・・。」
清太郎は首を傾げた。
「え?魔法が使えないんですか?
じゃあ水晶玉でライブ中継も見れないし、絨毯にも乗れないって感じですか?」
セトがスープをチロチロと舐めながら答える。
「ライブ・・・なんだって?
とにかくそうだな、写影魔法や飛行魔法は勿論、ほとんど全ての魔法は駄目だな。
終焉の谷底では、魔法が上手くコントロール出来なくなるんだ。」
リサとミサが眠そうな目でセトを見た。
「明日はミサ、おやすみするー。」
「リサもー。だって彼処じゃ、なぁーんにも出来ないもん。」
双子は欠伸をしながら、ダラけきった態度をとっていた。
バサリ、と男湯のテントが開く。
ガルガンダが、全身から湯気を放ちながら出て来た。
上半身裸のまま、肩からタオルを掛けている。
「おい、お前達。もう寝なさい。
明日は出番が無くとも行かねばならんのだぞ。
おお、シュド。なかなかいい湯だったぞ。」
はぁーい、と眠そうな返事をした双子は、就寝用のテントに入って行った。
ネリアナがふふ、と笑う。
「ガルガンダったら、あなたの作るお風呂が相当気に入ったみたいね。
こんな短期間であの人の警戒を解くなんて、すごいことなのよ。」
清太郎は少し照れながら、チラとガルガンダを見た。
ワニ皮の雄々しい背中には、無数の古傷が残っている。
しかし、双子を見送るその横顔は、どこか穏やかであった。
ガルガンダは、焚き火を囲うベンチに腰掛けると、神妙な面持ちで話し始めた。
「昨日までは、本当に安全に恵まれた。
初日のフライホースの渓谷は、元々穏やかな場所故、目立った危険は無く探索出来た。
ハイマウンテンの谷は、大型の魔物の生息地だったが・・・。
セトの斥候の甲斐もあり、上手く回避することが出来た。
スピアの絶壁は、飛龍避けの魔法で安全確保出来たし、ここタケオン峡谷でも、敵との遭遇は無かった。
しかし、だ。
明日のギザの谷は、今までとは話が違う。
彼処は魔術師狂わせの地と言われる、魔法を一切寄せ付けない場所だ。
リサミサの魔法で、効率的に探索出来くなるのは言うまでもない。
さらに、魔力に異存した行動が、極端に出来なくなる。
シュド、お前の“蔵持ち”能力や、物を創り出す能力も該当だろう。」
清太郎は冷や水を掛けられたような顔で言った。
「ええ!?マジですか!?
俺、この能力無かったら唯のタニシに逆戻りですよ。
うわぁー。お荷物になるんだ俺・・・。」
ネリアナが清太郎の肩を叩きながら言った。
「大丈夫よ。
私達獣人は、魔力に頼らないで特技を発揮出来るの。
今のパーティ編成は、ギザの谷対策で組まれたメンバーでもあるのよ。
探索要員の私とセト。
戦闘要員のガルガンダという構成。
明日の探索中は、ガルガンダの側から離れない様にね。
彼処は東の帝国との境。
帝国の者と遭遇する可能性があるわ。
最も迷宮が存在して欲しくない所だけど・・・。」
清太郎はコクコクと頷きながら、以前、モロフォードから聞いた話を思い出していた。
「迷宮イコール国力、かあ・・・。
取り合い合戦になるかもですよね。
リディアナ国と東の帝国とで。
国境のど真ん中に迷宮って、最悪パターンなんですね。」
ネリアナは厳しい顔で頷いた。
翌日・・・。
一行はタケオンの地を後にすると、東へと移動した。
険しい山道を、ひたすら早足で歩いていく。
探索も5日目となれば、ハードな登山も段々慣れてきた清太郎であった。
立春のような気候は過ごしやすく、森は緑に溢れていた。
しかし・・・。
一行が目的地のギザへと近づくにつれ、風景は変化していった。
緑は減り、灰色の大地が広がり始める。
木々は枯れ、草は生えず、土にすら生気がない。そんな寂しい山の風景になって来たのだ。
タケオンを出発してから数時間。
一行は、遂にギザの谷へと到着した。
「す、すげえ・・・。色が一個もない。
モノクロの世界みたいだ・・・。」
清太郎は、空すら灰色に染めるギザの大地を見渡していた。
眼前には、巨大な裂け目がある。
清太郎は、周囲にそよぐ風に背中を押されるように、裂け目に近づいて行った。
セトが清太郎の肩を掴む。
「覗くのはいいが、気をつけろよ。」
清太郎は頷いた。膝を着き、四つん這いになると、崖から裂け目を覗いた。
ビョオオオオオオオ・・・。
耳元で風の勢いが増す。
裂け目の幅は数十メートルはあるようだった。
底は真っ暗でよく見えず、清太郎は更に身を乗り出す。
ガッ!
途端、後ろから足首を掴まれると、ズルズル引きずられる清太郎。
振り返ると、リサとミサが杖を構えて呪文を唱えている。
!?という顔をしていると、双子の杖がカッと光り、清太郎に眩い閃光を浴びせた。
清太郎の開ききった瞳孔は収束し、冷や汗がドッと噴き出した。
ーーーーーーーーーーー
気付けば清太郎は地面に寝かされていた。
「ん・・・な。
何・・・が、お、起こったの・・・?」
ガルガンダが清太郎の声に気がつくと、皆を呼んだ。
メンバーが清太郎の周りに集まる。
ネリアナが心配そうに呼びかけた。
「シュド、あなた・・・。大丈夫?」
清太郎は、ネリアナの肩を借りながら、ゆっくりと体を起こした。
清太郎は頭痛を感じながら、ふっと周りを見た。
周囲は相変わらず灰色の風景だが、空は青く澄んでいた。
清太郎は不思議そうな顔をしながら、皆の顔を見た。
「あれ・・・?
すいません、なんか・・・もしかして俺、倒れてました?」
ぼんやりする清太郎に、ネリアナが経緯を説明する。
「覚えてないのね・・・。
シュド。あなたは、ギザの谷に到着した直後に、急に走り出して・・・裂け目に突進して行ったのよ。
セトが一瞬で追い付いて、飛び降りようとするあなたを止めてくれたから良かったけど・・・。
正気じゃない様子だったから、リサとミサが魔法で意識を封じてたの。」
清太郎は訳がわからなかった。
「いや、俺は走ってもないし、飛び込もうともしてないですよ・・・?
でも谷に着いた途端、裂け目が何となく気になって見に行こうとはしました。
途中セトさんに、気をつけろよって言われて・・・。あれ?セトさんでしたよね?俺の肩叩いたの?」
セトは呆れたように言った。
「ハハ・・・お前・・・何言ってんだ?
俺はそんな悠長に制してないぞ。
お前、崖に向かって一直線にダッシュしてたぜ?
こっちも猛ダッシュして、羽交い締めにして止めたよ。
馬鹿野郎、何考えてんだ!ってね。
そしたらお前、白目向いて暴れ出したから、なんかの錯乱呪文でもかけられたかと思ったよ・・・。
・・・もう大丈夫なのか?」
は、はい、と自信無さげに答える清太郎に、ガルガンダが言った。
「此処が何故、終焉の谷と呼ばれているか、その身を持って知ったな。
ギザの谷では、何故か野生の魔物が落下死することがよくあるのだ。
なんの前触れもなく、急に谷へと飛び降りる。
命の終焉を誘う何かが、この場所には住んで居るらしい・・・。」
ガルガンダの語りに、メンバー全員が寒気を感じた。
清太郎は青い顔で崖を振り返る。
「で、でも俺は野生の魔物じゃないっすよ?
もう幻見ながら無意識で飛び込みたくないんですけど・・・。」
ネリアナがハッと気がついた様に言った。
「シュド・・・。あなた、正式な名前がまだ無いから、野生の魔物扱いになるんじゃない?
・・・そうよ、それだわ!あなた、まだ野生の魔物なのよ!」
リサとミサも納得したように頷いた。
「だから影響受けるんだね!私達、平気だもんね。」
「ミサもリサも、名前あるもんね!」
ガルガンダが呆れた様に言った。
「お前達はそもそも人間だろう・・・。
魔物の様に、終焉の毒気に当てられはしない。
・・・兎に角、先を急ぐぞ。
この深い谷を、底まで調べねばならんのだ。」
一行は荷物を背負い直すと、崖の近くで降下の準備を始めた。
ネリアナが命綱を腰に巻き、岩壁をリズミカルに駆け下りる。
あっという間に、ネリアナの姿は暗闇へと飲み込まれた。
数分後・・・。
クイッ、クイッ、クイッ・・・。
真っ暗闇の谷底から、3回、ロープが引っ張られた。
「どうやら谷底へ降りた様だ。
我々も降りるぞ。」
ガルガンダを先頭に、残りのメンバーがロープを伝い、谷底へと降り始めた。
ガルガンダは双子を背負いながら、一歩一歩岩の窪みに足を掛ける。
続いて清太郎、セトの順で岩壁を降りて行く。
清太郎は蜘蛛型に変形しようとこっそり試みたが、どうにも触手が絡まってしまい断念した。
(本当に何にも出来ないんだな。ここだと・・・。
さっきは謎のトリップして自殺未遂しちゃうし。
これ以上、リアルお荷物にならないようにしなきゃ・・・。)
清太郎は、ぐっと気持ちを引き締めた。
数分かけて降りて行くと、松明の明かりが下に見えた。
小さな点の様に、ガルガンダとネリアナが見える。
「あっ!ネリアナさん達だ。
あそこが底かぁ。
ふう・・・。結構疲れるなあ。魔力上手く使えない影響かな?
でも、もうすぐだ・・・・・ん?」
松明の明かりとは別に、複数の光が目に入った。
ガルガンダとネリアナの松明とは距離があるものの、徐々に近づいている様に見える。
清太郎が嫌な予感を感じた、その瞬間。
シュンッ!!
清太郎の真横を、何かが高速で通過していった。
セトが危険を察知し、垂直の壁を猛スピードで駆け下りて行ったのだった。
「ガルガンダ!!蜘蛛だ!!
デカイぞ!!!」
セトの叫ぶ声が谷底に響き渡る。
清太郎は岩から足を離すと、一気にロープを滑り降りた。
「シュド!ミサリサを頼む!」
ガルガンダが叫ぶと、後ろからミサとリサが飛び出して来た。
即座に清太郎の背後に回り込む。
ギィイン!!ギャイン!!ギャイン!!
暗闇から襲い来る蜘蛛の爪を、セトとガルガンダが受け流す。
激しい金属音が谷底に響いていた。
清太郎は暗闇の中、なんとか戦場から双子を連れて遠ざかろうとしていた。
しかし、松明の明かりだけでは、戦闘の全貌は疎か、足元すら全く把握できなかった。
(クッソ!!何が起きてんだ!?
真っ暗で何も見えねえ!
こんなに見えないもんか?
ていうか、なんでいきなり、あんなデカそうなのが・・・)
清太郎がオロオロしていると、背後のミサが言った。
「シュドちゃん、大丈夫だよ。」
リサも落ち着いた声で続ける。
「ここに降りた時から、何か来るって感じてたから。
おじいちゃんもネリ姉も、準備出来てたよ。」
へっ!?っと間抜けな声を出す清太郎。
双子は声を揃えて言った。
「それに、みんな強いから、大丈夫。」
「ほ、ほんと・・・?」
それから、清太郎がミサとリサの言葉を信じるのに、長い時間はかからなかった。
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ブックマーク数50件達成致しました。
皆様、誠にありがとうございます。
これからも本小説をよろしくお願い申し上げます。
次回こそ、迷宮発見。




