食す者
(むにゃむにゃ・・・ああ〜会社行かなきゃ〜・・・ZZZ・・・)
男は巻貝の中で寝言を言っていた。
周囲は、相変わらずぼんやり光る異界門がそびえ立つだけであった。
暫しの後、男が目覚める。
男はモゾモゾと巻貝から這い出る。
(夢じゃない・・・かあ。)
(なんでこんなことになったかなあ・・・)
天の声が響く。
【仮死状態の肉体から魂が離れた後、時空の狭間から精霊粒子の激流に流され、ニシュドランの貝殻に収納された。】
(へえ・・・仮死状態ねえ・・・仮死状態!?俺死んでたの!?)
【前世の肉体である、セイタロウ タカハシ は消滅済み。現在の肉体に名前は無い。】
(高橋 清太郎、確かに俺の名前だ・・・。うわーマジかよ俺、風呂場で死んでたんだ。過労かなあ・・・。心筋梗塞でも起こしたのかな。)
【死因の詳細は不明。】
(ソウデスカ・・・。まあいいか。転生したとは言え生きてるわけだし。得したんだな俺!他人の召喚に巻き込まれてオマケで生まれた感じでしょ?)
【正解。なお召喚自体は失敗した模様。】
(うわあ、副産物の俺だけ出現成功とか召喚者の人カワイソスw)
清太郎は死んだ事よりも、生きて生まれ変わった事に嬉しさを感じていた。
前世もそれなりに楽しい人生だったが、終わってしまったものは仕方ない。
両親には、先立つ不孝に謝罪の祈りを捧げつつ、目先の事を考え始めた。
(腹減って来たなあ。なんか食えるものないかな。)
【ニシュドランは雑食。苔などを食べる習性あり。】
(苔かよ!そこら中にはえてるじゃん!では早速いただきまーす。)
清太郎は地面に生えている緑色の苔を食べた。口は体の底辺全体らしく、清太郎が苔の上を這うと自然と唾液の様なモノが分泌される。
ジュワジュワと苔が溶け、清太郎の体内に吸収されていった。
(かなり青臭いけど・・・食えなくはないな。しかし、溶かし食べるってすごいな。めっちゃ効率よく栄養摂取出来てる気がする。)
次々と苔を吸収しながら、清太郎は質問した。
(俺に名前が無いとか言ってたけど、新たな名前とか名乗ったほうがいいの?)
【名を持つ者は、名を持たない者に比べて大幅に能力が向上する。】
(へぇ、じゃあ俺もハイパーウルトラニシュドランとかいう名前になったら強くなれたりするの?)
【自身を ハイパーウルトラニシュドラン と名乗るか。是か非か】
(い、いや!ちょっと待って!ひ、非!非でお願いします!流石に名前として名乗るのは恥ずかしい。小学生以下のネーミングセンスだったわ。)
【非として承知。自身の名乗りは生涯一度のみ行える。】
(先に言ってよ!!あっぶねえなあもう!!危うく幼稚センス全開の名前になるとこだったわ。)
清太郎は暫く考えると、結論を出した。
(・・・ゴッドなんてどう?最大級に強くなれそうな名前なんだが。)
我ながら最高の閃きだと自負する清太郎に、天の声は冷酷にも告げる。
【その名は名乗る資格が無い。実行不能。】
清太郎は激しく落ち込む。
(資格が無いって・・・。どうせ俺はタニシだよ。苔食ってるだけのタニシだけどさ・・・。)
清太郎はブツブツと独り言を言いながら苔を食べ続ける。
気がつけば半径1mの面積に生えていた苔を食べつくしていた。
【能力 食す者 獲得】
(おおっ!ニュー能力ゲット!なにこのスキル?)
【食したものの能力が剥奪出来る。剥奪した能力は、奪取能力として再現可能。】
(食えば完コピですか!?よっしゃドンドン食いまくって強くなるぜ俺!)
しかし、見渡す限り苔と岩の空間。清太郎はそれでもめげなかった。それどころか、敵が居ない事をいいことに、食べれるだけ食べ尽くそう。時間の許す限り。と考えていた。
数日後・・・・・
清太郎の生まれたフロアは10m四方の面積に、高さは5m程の広さであったが、今や倍以上の空間面積になっていた。
数日で清太郎が食べたものは、
主に苔、岩、鉱石。
僅かな土、砂、泥。
そして、発光するシメジに似たキノコである。
特に多く食べたのは岩で、食事の9割が岩であった。
ここ数日の清太郎の成長過程を説明しよう。
ーーー“食す者”ブートキャンプ開始直後・・・
(苔モサモサ。ウマウマ。美味くないけど。もうバケツ一杯は食べてる気がする。)
【奪取能力 呼吸する者 獲得】
(よっしゃキタコレ!どんな能力?)
【光を魔力に変換。その際、不の精霊粒子を取り込み、聖の精霊粒子を排出する。】
(あー、つまり光合成みたいなもんか。酸素と二酸化炭素じゃないのね。さすが異世界。で、どう使うの?)
【呼吸する者の発動条件は十分な量の光。現在発動不能。】
(ですよねー。初っ端から残念スキルだった・・・)
1日後・・・・・・
苔を粗方食し終わり、周囲を見渡すが目立ったものはない。
異界門と召喚術式の魔法陣は、一応食べようとしたが、不思議な力で溶かすことができなかった。
足元には岩。
岩の隙間には砂や土。
およそ食べ物には見えないが試さない手はない。
清太郎は岩をしっかりと溶かしてから吸収してみた。
(ううん・・・無味!!逆に食が進むわ!)
怒涛の勢いで溶解と吸収を繰り返していく。
真下に穴を掘るように食べ進める。
二日目にして食べる速度は初日の10倍になっていた。
清太郎はもうノロマなタニシではなくなっていた。
数時間後・・・・・
眼前にキラリと光る何かがあることに気がついた。どうやら何らかの鉱石のようだった。
(おお!なんか出てきたけど。鉱物かな?)
【高純度精霊鉱石。魔力が凝縮し結晶化したもの。】
(宝石みたいなもんかな?食べたいけど・・・もう胃袋が限界だわ。パンパン。いやー、でも限界突破してみようかなー・・・)
【能力 蔵を持つ者 獲得】
天の声がスキル獲得を告げると、今までの満腹感が消え去った。
(おお!お腹、苦しくない!胃拡張的なスキルかな?)
【体内に別空間が構成される。吸収した物体は全て別空間に収納される。ただし、生命維持に必要なものは消費される。取り出し可能。】
(四次元ポケットキター!!これは便利!人類の夢!何でも入るの!?)
【吸収出来る物体なら貯蔵可能。現在の貯蔵物は溶けた岩石、溶けた苔。】
(まあ、溶かして吸収してんだから、液体で入ってて当たり前だよな・・・じゃあ鉱石も溶けて入っちゃうのか。なんか勿体無いな。)
清太郎はそう言いつつも鉱石の溶解に取り掛かる。
かなりの硬さだった。
今までの岩が半溶けのアイスだとしたら、鉱石はとてつもなく溶け難い飴のようだった。
清太郎は気合いを入れてガンガン溶解液を出した。
3日後・・・・・・
清太郎は気合いで鉱石を吸収し終えた。
鉱石の大きさはバレーボールぐらいの大きさだった。
長時間ぶっ続けで溶解液を出し続けた甲斐もあり、溶解液の威力は大幅に上がっていた。
バケツで水をかける容量でバッシャバッシャと溶解液をかけまくり、周囲の景色を瞬く間に変えていく。
溶けた液体の回収は忘れない。
今やダ◯ソンの如く強烈な吸引力で吸収する。
小石程の大きさの体からどうやってこんな妙技が繰り出せるのか、清太郎自身も謎だった。
(お!小さな空洞発見。なんか光るキノコ出てきたわ。イタダキマース。)
バッシャアア・・・ジュンジュワアアア・・・ゴクゴク・・・
(やばい。湿布みたいな匂いする。あかんやつだったかもしれん。)
【テトラシュルーム。精霊鉱石の側に発生する魔法植物。発光する胞子は毒。】
(え!?説明!?遅!!
せ、せめて天の声聞いてから食べれば良かった・・・調子づいちゃっ・・・た・・・)
清太郎は身を巻貝に納めると、猛烈な腹痛に悶えながら眠りに就いた。
【派生能力 味わう者 獲得】
【奪取能力 毒する者 獲得】
(け、怪我の功名・・・やった・・・ぜ・・・)
こうして、清太郎の“食す者”ブートキャンプは終了した。