振舞う者
ラージドラゴンはかなりのスピードで飛行しているようだった。時速200キロ以上を出しながら、風を切っていた。
しかし、籠船の中では、そよ風が心地良く吹く程度の風圧だった。
清太郎はダガーを磨いているセトに尋ねた。
「めっちゃスピード出てますよね?なのに、全然風を感じない・・・。
さっきのミサリサちゃん達の魔法っすか?」
「おー、気づいた?
リサがさっきかけた魔法は、“防風の印”。
どんな強烈な風圧も無効化するんだ。
あれが無けりゃ、この籠船と一緒にバラバラだぜ、俺達。」
清太郎はほぉぉ、と感心した声を出した。
リサがニッコリ笑ってこっちに手を振っている。
クッキーを食べていたミサが恨めしそうにセトを見た。
「ちょっとぉ〜!リサばっかり褒められてさぁ、ず〜る〜い〜!ちゃんとミサの事も褒めてよぉ!」
セトは笑って答えた。
「はは、そうだな。
ミサも凄いんだぞ。
このラージドラゴンが目的地まで飛行してくれるのは、ミサが竜語で命令してくれたお陰だもんな。」
「命令じゃなくて、お願いですぅ〜!セト兄何も分かってないじゃ〜ん!」
リサが横から入った。
「セト兄は分かってるもんねぇ〜!リサの方が魔法が上手いってね。キャハ!」
「違うも〜ん!!ミサの方が上手いもんね!」
セトを挟んで双子がキャアキャア言い始めた。
清太郎は、年始の親戚の集まりをぼんやり思い出した。
(・・・平和だ。クエストって、もっとピリピリムードかと思ったけど、こんなもんなのね。)
その後も、他のメンバーは座って外を見たり、武器を磨いたりしていた。
ネリアナが時折周囲を見渡し、方角や高度の確認をしている。
ミサとリサは水晶玉を出して眺めながら、クッキーを食べていた。
清太郎は、手持ち無沙汰になった。
(こんな感じであと10時間以上乗ってるのか・・・。暇だなぁ・・・というか、椅子もないし・・・。
・・・あ、そうだ。)
清太郎は体内の“蔵”から極太の針金を取り出した。
クネクネと弄びながら構想を練る。
(確かソファーってこう、枠みたいな骨組みがあって、S字スプリングが敷かれてたような・・・。
あとは、背もたれはこんな感じで・・・肘掛は、こう十字に編み込んで・・・。最後に硬いスポンジみたいな繊維を張って・・・。)
清太郎はミニチュアサイズのソファーを作り出した。
座面を指で押してみると、結構な弾力があった。
(なんとなく合ってるかな?・・・よし、ではコレを実物大で・・・。)
清太郎は風呂敷状に変身すると、床に広がった。
清太郎の平たい身体から、生えるようにしてソファーが出現する。1人掛けのシンプルなデザインだ。
清太郎は人型に戻るとソファーに腰掛けた。
表面の布は頑張ってサラサラの手触りになるように、繊維を超極細にして織った布だった。
(ああ、良いわあこれ・・・上手くいった。)
清太郎は視線を感じて振り向いた。
先程まで雑談していたメンバーが、固まってこちらを見ている。
清太郎はソファーから立つと誤魔化すように笑って謝った。
「す、すいません。邪魔ですよね。
すぐ仕舞うんで、気にしないd・・・」
「ソファーだ!」
「ソファー!」
双子が感嘆の声を出して寄ってきた。
座ったり触ったりしている。
「いいなー!ミサも座りたい!」
「すごい!ふわふわ!これリサも欲しい!」
ネリアナが感心したようにソファーに手をかけた。
「凄いわね。こんな物も出せるなんて・・・。
もしかして他にも色々出せたりする?
私もちょっと椅子に座りたいわ。」
「出せますよ!どんなのが良いですか?」
「うーん、そうね・・・このソファーよりもかなり背が高いのが良いわね。周りも確認したいし。」
ガルガンダがネリアナに言った。
「おいネリアナ!そんなもん出したら緊張感が無くなるだろうが。
いつ何時敵に遭遇するかも分からんのに。」
「いいじゃない。
あと10時間以上も地べたに座るのは嫌よ。
現地に着く前に消耗しちゃうわ。
特にリサミサは・・・飽きたらグズるわよ?」
ガルガンダはため息を吐くと、後ろを向いて胡座をかいた。
リサとミサは、清太郎を期待の目で見つめている。
「じゃあ、出しまーす。」
清太郎は風呂敷に変身した。
ズズズ・・・ズズ・・・。
四角いマット状の身体から、ソファーが顔を出す。
脚のかなり長いソファーだった。
脚立のような足掛けがついている。
清太郎がマット状態のまま口を利いた。
「こう言う感じですか?」
「すごいわ!結構大きいわね。
でも、丁度いいかも・・・。
有り難く使わせて頂くわね!」
ネリアナは気に入ったようにソファー座ると、周囲の確認をする。
「・・・すごく良いわあ。
こんなにリラックスしながら、周りが見渡せるなんて最高。」
ネリアナはソファーに深々と腰掛けると、優雅に地平線を見つめていた。
「シュドちゃーん!私達にもぉ〜!」
「早く作ってよぉ〜!」
リサとミサが清太郎を左右から引っ張っている。
清太郎は慌ててソファーを出現させた。
2人掛けの可愛いらしいソファーだった。
繊維を大盤振る舞いに使った、モフモフの感触である。
「やったぁ〜!モフモフだぁ〜!」
「すご〜い!シュドちゃんありがとー!」
双子はソファーに収まると、ご機嫌でお菓子を食べ始めた。
(気に入って貰えて良かったー。
ていうかリサミサは見た目よりずっと子どもっぽいな。
高校生ぐらいに見えるけど、中身は小学生だな・・・。)
遠い目をして薄っら笑っていた清太郎に、セトが小声で話しかけた。
「おい、シュド。
俺にもなんか出してくれよ。
ケツが痛くなっちまったし・・・。
ガルガンダの叔父貴には怒られちゃうかもしんねえけど、俺も移動ぐらいは気ぃ抜きたいぜ。
こんだけ高度がありゃあ、先ず敵なんて出てこねえし・・・。」
ブツブツ言っているセトを、ニヤリと見やる清太郎。
お安い御用で、と言うと鉄のパイプを二本出現させた。
それぞれを籠に固定すると、最後にハンモックを取り付けた。
「お前・・・コレ・・・。
流石にちょっとやり過ぎだろ!
俺もソファーでいいよ。」
清太郎はニヤニヤしながら言った。
「まあまあ、一回試してからでもソファー出せますから・・・。」
セトは乗り気でない態度で、ハンモックに乗った。
スッと横たわる。
顔を空へ向けると、目をカッと見開いた。
「あ・・・良いわこれ。
どうしよう。
すっげー良いかもしんない。
持って帰っていい?」
セトはそのまま降りて来ることはなかった。
数分後には気持ち良さそうな寝息を立てていた。
清太郎は満足してソファーにもたれた。
チラとガルガンダを見る。
先程と変わらず、壁に向かって胡座をかいていた。
両手を胸の前でガッシリと組んでいるが、右手の人差し指が一定のリズムで動いている。
どうやら、気にはなっている様だなと清太郎は思った。
清太郎はスススと近づくと、どうぞ、と言って半畳程の畳と座布団を出した。
ガルガンダはチラと横を見る。
「座布団です。ここに座られた方が、お尻が痛くならないですよ。
・・・俺、戦いとか素人なんで、このくらいしか力になれないっすけど・・・。よかったら・・・。」
清太郎はそれだけ言うと自分のソファーに戻った。
数分後、ガルガンダはしかめっ面のまま、こっそり座布団に座った。
思いがけず座り心地が良かった事は、誰にも言わないガルガンダだった。
次回 トレンさん回です。




