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西へ向かう者

お久しぶりです。


テノーサスは二日酔いで真っ青になっていた。

ひどい胸やけを堪えながら、早朝の甲板へ向かう。


「ううっ・・・き、気持ち悪い。

胃は空っぽなのに、まだ吐きそうだ・・・。」


ドアを開けると、冷たい潮風が顔を吹き付けた。

手摺りにしがみつきながら、ヨロヨロと移動する。


水平線がキラキラと輝く、美しい朝の海だった。


ひゅうひゅうと鳴る潮風が、テノーサスの気分を爽やかにさせる。


「やはり・・・あの巻貝は不吉の予兆だったんだな・・・。」


あの不思議な巻貝の夢を見てからというもの、テノーサスの顔は真っ青か真っ白にしかなっていなかった。


昨晩は、慣れない酒を飲んで真っ赤になっていたが、結局、飲み過ぎて真っ青になっていた。


ガチャリとドアの開く音がする。


船長のタリーズが、パイプを咥えながら甲板へ降りて来た。


顔色の悪いテノーサスに気がつくと、豪快に笑いながら背中を叩く。


「おうっ!テノーサス様!昨日は旨い酒が飲めましたな!」


「あ、タリーズ船長。

昨晩はお世話になりました。


私、何か失礼をしましたでしょうか・・・。

飲み過ぎたようで、あまり覚えてなくて・・・。」


「ガッハッハッハ!!そうでしたか!楽しんで頂けた様で、良かった良かった!


私の事はタリーズで結構。


失礼な事など何もありませんよ、テノーサス様。」


テノーサスはホッとした様子だった。


船長に旅の具合を尋ねると、嬉しそうに答えた。


「まあ、あと1週間は掛かりますなぁ。


目的地のヤコナゴ港に着くのは。


それまでは、どうかごゆるりと過ごして下さい!

また怪物が出たときゃ、よろしくお願いしますよ!

魔術士先生!ガッハッハ!」


船長はテノーサスの背中をバンバン叩きながら笑った。

衝撃によろめきながらも、愛想笑いをするテノーサス。

額には冷や汗を掻いていた。


船長はパイプを一息吸うと、思い出したように尋ねた。


「そういえば昨日、港へ着いたら西へ向かうと言ってましたが、何処まで行くんですかい?」


「え!?私そんなこと言ってましたっけ!?」


「ええ。使命を果たすは西の都とか、なんとか・・・。」


テノーサスは己の失態にショックを受けた。

何てことだ・・・。泥酔していたとは言え、極秘の任務を自ら言いふらしてしまったのか、と。


「西と言えば、武術の里が多くありますな。


後は・・・やはり最古の迷宮リテラルでしょう!


しかし、最近は立ち入りが規制されているらしいようで・・・。


やはり魔術士様はああいう所で修行なさるんで?」


「あ、ああ、そうです!

まあ、色々と寄り道しながら、修行の旅ってトコです。

しかし、タリーズさんは色々とお詳しいのですね。」


船長はフフンと鼻を鳴らした。


「船乗りは、旅先で色々と話しを聞きくもんです。主に酒の席で、ですがな!ガッハッハ!


そうだ、冒険者ギルドにも知り合いが居るんで、是非紹介しましょう!」


「い、いえ!そこまでは!・・・魔導士は、一人旅が基本ですので!」


テノーサスは焦った様子で答えた。



そんなテノーサスのポケットには、タニシが身を潜めていた。

船長とテノーサスの会話に聞き耳を立てている。


(なーんかワケありっぽいなあ。この魔法使い君は。・・・まあいいや。

港までの付き合いなんだし。


ていうかさっき、最古の迷宮ラビリンスリテラルって言ってたな。


うーん、俺が居たのは、確か第7迷宮・・・?とか言ったな。名前が無いとかなんとか。


リテラルではないだろうな・・・。

なんか関連性無いのかな?


・・・あーあ。そういう細かい事がパパっと分かればなあ。割とすぐ戻れそうなんだけど・・・。

まじで天の声カムバック!!)


清太郎は天の声の帰還を祈ったが、相変わらず天の声の気配は感じられなかった。


(・・・やっぱ居ないかあ・・・。


マジ謎だが仕方ない。

集められるだけ情報集めて、自力で迷宮ラビリンスまで行くか。


しかしなあ・・・ポケットの中でひたすら待ってるだけで、俺が居た迷宮ラビリンスについて都合良く話聞けるのかな・・・。


・・・マジでどうしよう。)


清太郎はポケットの中で途方に暮れていた。


テノーサスはまだ船長のお節介を必死に回避している。


「あっ・・・タリーズ船長!私、魔物避けの加護でもかけましょう!」


「おお!それはありがてえ!

テノーサス様のご加護なら、さぞや強力だろう。」


テノーサスは船の先端に急いで駆けていった。


大海原を一望する。

テノーサスは両手を掲げると、大きく息を吸った。


「大いなる海の女神よ、水と風の精霊よ、我らの船を護り給え。

テラリアス・ミトス・ナオ・モフォルテ。リアーナ・イサナ・テア・グラッシニコス。エナトーナ・マリアナ・カジャナクア・ミサモリア。」


テノーサスの呪文が唱え終わると、船全体が一瞬、ほのかな光に包まれた。


甲板にひゅうひゅうと吹いていた風は穏やかになり、まるで春の日の優しい気候に変わった。


波の揺れは静かになったが、船の速度は上がっているように見える。


航海を快適にさせ、更に、魔物に襲われる危険を下げる中位魔法が、完璧に行われたのだった。


タリーズ船長は、目を丸くして拍手喝采をしている。


テノーサスはくるりと振り返ると、船長に向けて笑顔を見せた。


「これまた、すげえもん見せて貰いましたぜ!


何回か魔術士の加護は受けた事があったが、こんなにもあったけえ光に包まれたのは、テノーサス様が初めてだ!

あんたやっぱりすげえ魔導師様だ!

ガッハッハッハッハ!」


「いや、本当に、それ程でもありません。

お師匠様達に比べたら、まだまだです。」


若い僧侶は謙虚に答えた。


タニシは目を伸ばしてその光景を見ていた。


おお、と小さく関心の声を漏らす。


(完全に船内の空気が変わったな。


びゅうびゅう吹いてた風は何処へやら。

暖かなそよ風が吹いてるわ。


人間が使う魔法って、結構凄いモノなのかも知れないな。)





こうして、テノーサスの加護魔法を得た貨物船は、無事に6日間の船旅を終えた。


クラーケンに襲われたのが遠い昔に思える程、何事も無くヤコナゴ港に到着した。


船長は、自慢気にクラーケンの足を港へと運び込んでいる。

集まって来た港の人々に、声高に武勇伝を語り始めた。


港が盛り上がる中、テノーサスは船長と船員に礼を言い、港を後にした。


貨物船の船乗り達は、皆で僧侶を見送った。


中には熱い涙を流す者までいる。


「また一緒に旅してくれよお!魔導師様ぁ〜っ!!」


「俺たちゃいつでも歓迎だぜ!テノーさs・・・あいてっ!!」


船長ゲンコツが飛ぶ。


「馬鹿ヤロウ!!

名前は呼んじゃならねえと言われただろうが!


・・・どんな危ねえ仕事か分からんが、達者でいろよ。

俺達の魔導師様よ・・・。」



テノーサスは足早に街へ行く人混みに紛れた。


もちろんポケットには、小さなタニシが入っている。

テノーサスは気付かない。


清太郎は、目を潜水艦の潜望鏡のように伸ばし、ポケットから外を覗く。


(おお!ここがヤコナゴの港か!


人多!!めっちゃ賑わってるじゃん!

ああー、市場とか楽しそ〜・・・。


いやいや、そうじゃない。

迷宮への手掛かり、探さないとだわ。


なんだかなあ〜。

何処の誰に聞けば良いんだかなあ・・・。


そういえば、船長が冒険者ギルドがどうとか言ってたな。

冒険者と言えば色々危ない所とか行ってるだろうしなぁ。

迷宮も、魔術士の修業の場とか言ってたし。


とりあえず冒険者ギルドへ行きたいけど・・・。)


清太郎が思案している間に、テノーサスは港の市場を早々と抜けた。


港街と城下町の中間に当たる、商店街区画を歩く。


白い煉瓦造りの街並みは、中世ヨーロッパを連想させるものだった。


しかし、地球ではあり得ない光景も多く溢れている。


馬車を引く麒麟に似た獣は、頭が二つあり、角は5本であった。

上空には飛竜が悠々と飛んでいる。

革製の武具のようなものを付け、人間が騎乗しているようだった。


肉屋の店主は熊そのものである。

白いエプロンを纏い、肉包丁を手に客と話していた。


隣の靴磨きの露店には、身長80cmほどの小人達が忙しく靴を磨いている。

椅子に踏ん反りかえって磨かれている紳士は、どう見てもトカゲがスーツを着ていた。


人間も多く居るが、殆どがヨーロッパ系の顔立ちや、肌の色であった。


昼時の商店街は賑わい、人々はそれぞれの生活を楽しんでいるように見えた。


テノーサスは周りを殆ど見ず、顔を下に向けながら歩いている。


清太郎は、全身を駆け巡るワクワク感に、身震いを起こしていた。

堪らずポケットから飛び出す。


(うっっっぽおおおおおおおお!!!


ファンタジーワールドきたあああああーーーー!!


魔法の街!!意味わからん生物!訳わからんモノ!!獣人もいる!うっほおおおーいい!


俺は今!最高にワクワクしてるぜぇーーっ!!)


清太郎は甲冑の衛兵に踏まれそうになったが、滑るように回避した。

夢中で町中を見渡す。


テノーサスはあっという間に居なくなってしまった。


清太郎はテノーサスが消えていった方を見やり、少し黄昏た。


(じゃあな・・・タダ乗り魔術士さんよ。


短い付き合いだったけど、なんかちょっと面白い経験もさせて貰ったし、タコも美味かったんで心ばかりのサプライズをしたぜ!


いつかポケットに手を入れてくれた時、気づくといいなあ。)


清太郎はテノーサスのポケットに、自分の貝殻と同じものを一つ制作し、置いてきたのだった。


(まあ・・・あんなに目の色変えて、ガン見する程の貝殻フェチだったからな。


きっと大切にしてくれるだろう。)


清太郎は商店街を人知れずウロチョロ走り回る。

看板の字や記号はさっぱり読めなかった。


屋台で焼いている肉がかなり気になったが、その先の小さな店を見て閃いた。


(服屋だな。

あれ・・・。シャツにズボンに・・・何だあれ?

水着?

マントとローブと・・・ローブか・・・。


いいね。)


清太郎はハンガーに掛けられたローブにくっ付いた。


瞬時に変身トランスフォームする。

ローブがムクムクと膨らむ。


清太郎は人型になった。

150cm程の背丈に、トレンそっくりの顔立ちである。


背中のハンガーをそっとはずし、店主の死角から裏路地へと消えた。


(よし・・・とりあえずこれで、人間としてウロウロ出来そうだな。

フードで顔はハッキリ見えないし・・・。)


清太郎は路地に座っていたフルーツ売りのお婆さんに話しかけた。


「すみません、冒険者ギルドは何処か、教えて頂けますか?」


うとうとしていた老婆は、はっとして答えた。


「え?冒険者ギルドかい?

それなら、あの高い塔がそうだよ。


それより、お一ついかがかぇ・・・ありゃ?」


老婆の前には、確かに小柄なローブ姿の男が居たが、一瞬で姿を消していた。


清太郎は、老婆が指し示した塔に着いた。


入り口の門は開け放たれており、甲冑や武具を纏った人々で賑わっていた。

掲示板には沢山の紙が貼られ、皆、吟味する様に眺めている。


清太郎は、人の間を縫う様に通り抜けると、ギルドの中に入った。


明るい雰囲気の酒場だった。

昼間から酒を飲んでいる連中も少なくない。


屈強そうな男達が、エールビームを煽りながら、武勇伝を語っている。

隣のテーブルでは、耳の尖った白人が地図を広げ、数人でルートの相談をしている。

赤い牙を持つ黒豹を、自慢気に連れている女性。

燃えるナイフでジャグリングを見せる道化。


清太郎の脇を、「ちょっと失礼」と、子供くらいの身長のハゲ親父が通る。

両手には大量のショートソードを抱えていた。


中央のカウンターでは、金刺繍のジャケットを着た闘牛が冒険者の対応をしていた。


若い冒険者が持ち込んだ布袋から、戦利品を出して査定している。

小さな虫眼鏡で黒い石の表面をじっと観察している。


「ギリギリ可、というところだな。


残りは隣のカウンターで査定する。」


闘牛は石を袋に戻すと、ガゼルの頭部をした女性に手渡した。


「おいおいっ!

ギリギリ可ってなんだよ!

俺たちゃ苦労して炭鉱跡の奥まで潜ったんだぜ!?」


「笑わせるな。

この鉱石はどう見ても最深部で取れた物じゃない。

浅い層でなら幾らでも取れそうだがな。


ゴネるならしっかり仕事してからにしろ!次!」


若い冒険者は、まだ何か言いたそうだったが、渋々カウンターを移った。


ガゼルの女性が「6番の方、どうぞ」と言うと、カウンターの上にある板に光る文字が浮かぶ。


(あ。市役所とかと一緒のシステムだ。


ていうかすげえな!!

思ってた以上にギルドだった。


ゲームで見たのよりずっと活気あるし・・・。

うーん、ワクワクするわあ。堪らんわあ。見てるだけで飽きないわあ。


一日中ここに居れそうなんだけど・・・。


そんなことしてる暇ないから、さっさと手掛かり見つけないとな。)


清太郎は、様々な種類の酒瓶がギッシリと置いてあるバーカウンターを見た。


酔っ払いの小男がバーテンに話かけていた。

眼帯を両眼に付けたショートボブの女性バーテンは、小男の口説きを半ば無視している。


(あのおっさんが話しかけ易そうだな。

単独で飲んでるのあの人だけだし・・・。

もう大分出来上がってるみたいだな。)


清太郎は小男の隣に腰掛ける。


小男は呂律の回らない口調で清太郎に怒鳴った。


「ああん!?なんだテメエは!?

俺の隣に座りたきゃ、一言言いやがれってんだ!」


清太郎は内心ニヤリとした。


(キタ!


大体こういう絡みだと思った!


ふふ・・・酔っ払い相手にヨイショすることなど、俺にとっては造作のないことだぜ!)


清太郎は、会社の接待で培った社畜スキルを最大限に生かした。


「いやあ、すみません。

しかし、あなた程、実力を隠していらっしゃる人は居ないと感じましてね。


・・・相当な手練れであられる。」


小男は少し気を良くした。


「ああ〜ん・・・てめえ・・・わかってんじゃねえか・・・へへへ。


蛇手のゲルートって言やあ、盗賊の中でも有名だからなあ。ヒック!」


清太郎は冷静に小男を観察した。

使い込まれた装備。

顔の古傷。

装飾の目立つダガー。


(このおっさん、盗賊崩れか。

・・・ヨシ。行けるな。)


清太郎は感激した様子でゲルートを讃える。


「なんという幸運!!裏の盗賊頭と謳われた、あの

蛇の王ゲルートに出会えるとは!!誇り高き盗賊の勇者に乾杯!!」


清太郎は山を張って、デマカセを声高に言った。


効果は抜群だった。

ゲルートの機嫌は最高潮に達した。

大声で笑うと、清太郎の肩に手を回し、「盗賊の栄光に乾杯!」と叫んだ。


「うおいバーテン!・・・この御人にエールだ!ヒック!

あんたも・・・盗賊だったのか?えぇ?


へ、蛇の王とは、また・・・ギャハハ!!

俺も偉くなったもんだな・・・ヒック!!


あんたにゃ特別に、お、俺の、影の偉業ってやつを聞かせてやろう・・・ウハハハッ!ヒック!」


清太郎は内心かなりホッとしていた。


一歩間違えれば殴られそうな大ボラであったが、ゲルートからすると満更でも無かったようだ。


(チョロい!!

ハイパー適当な事抜かしてコレだよ!


・・・よし。


そこそこおっさんの好きに話させてから、迷宮の本題を聞くかな・・・。)


ゲルートは上機嫌で武勇伝を語り始めた。


清太郎は調子良く聞いている。

相槌のタイミングなど、聞き手に回る接待話術は完璧だった。



清太郎は、まさかこの後、ゲルートの自分語りが3時間以上続くとは思っていなかった。






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