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スターダスト コネクション ⅩⅦ

作者: 奏 倫太郎

登場人物


ジェイファースト インスペイダー

私立探偵 戦闘のエキスパート

クレアに友情以上の感情を抱いているが、血に染まった過去を持つために彼女を拒絶する。



クレア ノートン

捜査1課の若い刑事

ジェイを愛するが、裏社会で生きる彼の足手まといを気にして身を引いた。



ガブリエル ハスクバーナ

捜査1課課長 警部

ジェイとは旧い付き合いで、部下のクレアとジェイの間を気にかけている。



メアリー ハスクバーナ

交通管理課課長 警部

ガブリエルの妻で、ジェイとクレアの自称姉貴分。



ケイ

ジェイの助手 戦闘用ロボット

普段はお気楽能天気だが、時に深い言葉を放つ。



アラン アズナブール

捜査1課の刑事 プロファイリングの専門家



 まるで漆黒のベールに覆われたかのような暗闇の中、クレアは立っていた。

 どちらが前か後ろかも分からず、何も見えない闇の中にひとり佇んでいた。

「誰?誰かいるの?」

 何の返事もない。音も光もかねてきけされた闇の中。

 果てしなく歩き続けていると、ある男の顔が浮かんできた。

「どこ?どこにいめるの?」

 果てしない闇の中、クレアは歩き続けた。

「助けて……」

 クレアはそうつぶやいた時、目の前に光が差した。

 その光の中、男が背を向けて立っている。

 紺色のスーツに濃い茶色の髪。

 その男の背中に向かってクレアは走り出した。

「待って!」

 男はゆっくりと振り返った。

「!」

 クレアは男の名を呼ぼうとした瞬間、光がすっと消えた。

 そして男の姿も消えた。

 クレアは再び闇の中にひとり取り残された。

 そして目が覚めた。

「夢……」

 見慣れた部屋の中、クレアはゆっくりと起きた。そして枕に触れた。

「私……また泣いてたんだ……」



 スターライト シティに朝が訪れる頃、捜査1課のメンバーも動き始める。

 この街に犯罪が絶える事はない。そして彼等に安息の時はない。

 捜査1課の新人捜査官、クレア ノートンも例外ではない。いや、もう彼女を新人扱いする者はいない。屈強な男たちに混じって働くクレアに周囲は少しずつ信頼を寄せるようになった。

 当初は理想と現実のギャップに悩む事も多かったが、元々洞察力が高く努力家なのだろう。今では事件解決に繋がる行動をとる事も少なくない。

「クレア、少し休憩しないか?」

 彼女の直属の上司、ガブリエル ハスクバーナは心配していた。

 クレアの仕事に対する情熱が、やや過熱すぎると感じていた。

 そしてその原因が、ガブリエルの知人で私立探偵のジェイファースト インスペイダーにあると確信していた。

「大丈夫です、もう少し聞き込みしてきます。」

 そう言うとクレアはデスクを離れようとした。

「あっ!」

 慌てているのか、クレアは自分のバッグをひっくり返してしまった。

 散らばったバッグの中身を懸命に拾い、バッグに納めるとクレアは部屋を出ようとした。

「おいクレア、落とし物だぞ!」

 ビニールケースに入った封筒をガブリエルは拾った。

「それは!」

 淡いオレンジ色の封筒に、ガブリエルは見覚えがあった。

 かつてジェイを愛した娘の、ジェイへの想いを込めた手紙。

 その手紙を、クレアは常に持ち歩いていたのだ。

 クレアは一瞬ためらったが、封筒を受けとりバッグに丁重に納めるとそのまま車に乗り込み、署を出ていった。

 ジェイとの間に何かがあった。しかしそれが何なのかはガブリエルにはよく分からなかった。ただ、あの事件からふたりの様子が変わったのは確かだ。

 一ヶ月前、

 ジェイを狙撃した女を、ジェイが射殺した事件。

 市街地から少し離れた空き地で、ジェイと女が撃ち合いをしていた場所にクレアもいた。

 クレアの証言でジェイの正当防衛は証明されたが、なぜクレアがあの場にいたのか、曖昧な答えしか返ってこなかった。そしてジェイとクレアに何が起きたのかも明確な答えはなかった。

「課長……」

「……」

「課長、どうしましたか?」

「えっ?あっ、アランか?」

 デスクに座って考え込んでるガブリエルに、部下のアラン アズナブールが声をかけた。

「いやなに、ちょっとな……」

「クレアの事ですか?」

 プロファイリングを専門としているアランは、ガブリエルの考えを見抜いていた。

「ん、まあな……」

 もっともクレアの頑張りすぎる行動に違和感を覚えているのはガブリエルだけではない。捜査1課の共通した想いだ。

「そういえばアランはクレアを食事に誘ったそうだな。」

「ええ、結果はご覧の通りですが……」

 そう言ってアランは苦笑いをした。

 ガブリエルは思いきって聞いてみた。

「アラン、君はあのふたりをどう思う?」

「クレアはジェイに好意を持っているのは確かです。ただ今の彼女の気持ちは複雑、というより葛藤しているようですね……」

「そうか……」

「ジェイに関しては、この私にもさっぱり解りません。」

「だろうな……」

 すると今度はアランが真面目な顔でガブリエルに訊ねた。

「課長は以前から、あのふたりを頻繁に逢わせようと画策してましたね。なぜですか?」

「いやなに、結構お似合いなんじゃないかなってな。」

「それだけですか?」

「そうだな……」

 ガブリエルはアランにプロファイリングされている気分だった。

「あのふたり、似てると思ってな。」

「クレアとジェイ、ですか?」

 アランは少し意外な顔をした。

「真面目で一途で真っ直ぐで、頑固で不器用なところがな。」

「クレアはともかく、ジェイが、ですか?」

「そう思わないか?」

「……」

 アランは困惑していた。アランにとってジェイは今まで接した事のない未知な存在だった。

 幼い頃から兵士として訓練され、壮絶な人生を送ってきたジェイは、どんなタイプにも当てはまらない。

 そんなジェイを何度となくプロファイリングしてきたが、彼の思考は非常に読み取りづらかった。正直なところ、何を考えているのかアランには分からなかった。

 そんなジェイとクレアが似ていると言われて、アランか戸惑うのは無理らしからぬ事であろう。

「アラン、プロファイリングは有効な手法だ。しかしそれだけに頼っては本質を見逃してしまうかもしれないぞ。」

「まあ……最近はそれにも自信が揺らぎそうですが……」

「まあいい、とにかく今はクレアをサポートしよう。いいな?」

「あっ、はい、承知しました。」

 クレアとジェイが似ているという件は納得いかなかったが、クレアのサポートは必要だとアランも実感していた。

 ガブリエルとアランは、それぞれの持ち場に戻っていった。



「ふん……」

 古い雑居ビルの中にあるインスペイダー探偵事務所で、ジェイはコーヒーを淹れていた。

 何度かコーヒーメーカーの温度や水量を調節しているが、今一つ納得行く出来ではないようだ。それでも諦めたのか、淹れたコーヒーを不味そうに飲んでいた。

 いつ頃からコーヒーを飲むようになったのだろう。

 初めて飲んだコーヒーは苦くてとても飲めるものではないと思った。それがいつの間にか飲めるようになり、今ではないと物足りなくなっていた。

 あまり出来の良くないコーヒーを飲みながら、ジェイは大きめのマグカップに目をやった。

 クレアが用意した、クレア専用のカップ。

 星の形を模したキャラクターの、手作り感のある大きく可愛らしいカップだ。

 クレアがここに来ると、このカップにコーヒーを半分淹れ、そこにミルクを加えて彼女は飲む。

 ジェイの素性に疑問を感じ、その実態を探るように事務所に足蹴に通うようになったのが始まりだが、いつの間にか自然と会話をするようになり、やがてコーヒーを飲みながら他愛のない会話を楽しむのが日常的になっていた。

 そんなクレアをジェイも始めは疎ましく思っていたが、回を重ねるうちに自然と接するようになっていった。

 ジェイはカップの中のコーヒーを眺めていた。

 毎日飲むコーヒーと、クレアが重なった。

 ガチャ、

 不意に事務所の扉が開いた。

「おはようジェイ!起きてる?」

 勢いよく入ってきたのはクレア、ではなかった。

「メアリーか……」

「あら?なによ!そのガッカリした顔は~?」

 スターライト シティ署の交通管理課課長で、ガブリエルの妻メアリーだ。

「何しに来た?」

「あら?用がなけりゃ来ちゃいけないの?」

 ジェイは無言だった。そんなジェイを見て、メアリーはため息をついた。

 ジェイとクレアの様子が今までと違うと、メアリーもガブリエルやケイから聞いていた。それが思っていた以上に覇気がないジェイにメアリーは驚いていた。

「私もコーヒーもらっていい?」

「ああ……」

 メアリーは奥にある戸棚のカップに目を移した。

「あら?このカップかわいい!」

 メアリーはカップのひとつに手を伸ばした。

「それは!」

「えっ?なあに?」

 メアリーはクレアのカップの隣の普通サイズのマグカップを取った。

「いや、何でもない……」

 メアリーはコーヒーサーバーのコーヒーを注ぐと、そのまま飲み始めた。

「何これ?美味しくないわね~!」

「……」

 メアリーは立ったままコーヒーを飲みながら、ジェイを見ていた。

「あのかわいいカップ、クレアのでしょ?」

「……」

 メアリーはわざと明るい口調で言った。

「ねえ、クレアとケンカでもしたの?」

「……」

「仲直りしたいなら、私が手を貸すわよ。」

「……」

「ジェイ?」

「……」

 メアリーは初めてジェイと出会った頃を思い出した。

 生きることに否定的な、まるで死に場所を探しているようなジェイ。

 まるでその頃に逆戻りしたかのようなジェイに、メアリーは困惑していた。

「そうだジェイ!ちょっとケイを借りていい?」

「ああ……」

 メアリーは見回したがケイの姿は見えない。

 パン!パン!

 メアリーは手を2回叩いた。

「お~いケイ~!出ておいで~!」

「はぁーい!」

 上の階からケイが階段を駆け下りてきた。

「おお~!ケイ~!」

「メアリー久しぶり~!」

 そんなケイを前に、メアリーは笑顔で迎えた。

「ケイ~!お手!」

「わん!」

「よーしよし、いいコだ~!」

「きゃんきゃん!」

 ふざけてじゃれあっているメアリーとケイの前で、以前なら「お前は犬か?」と突っ込みを入れたりしているはずのジェイは無反応だった。

「えっと……ちょっとケイを借りていくわね。」

 それでもジェイは無言だった。


 メアリーはケイを連れて、近くのバーガーショップに入った。

 テーブル席に着くと、早速メアリーはケイに尋ねた。

「ねえ、ふたりに何があったの?」

「うーん、それなんだけど、あたしにもよく分かんないのよね~。」

 ジェイのパーソナル・ウェポンであるケイは、ジェイの生体データを記録しているため、遠距離でもジェイの居場所を正確に感知している。しかし何を話したかまでは分からなかった。

 それでもケイはこう言った。

「たぶん、あれは離婚ね……」

「離婚って……まだ結婚もしてないわよ、あのふたり!」

「だからね、離婚に相当する事が起きたって事。」

「つまり……破局?」

「そうそれ!」

「ちょっ、ちょっと待って……」

 メアリーの頭は混乱していた。それを落ち着かせるためにメアリーはコーラを一気に飲み干した。

「それだとおかしくない?あのふたり、付き合っていたって事?」

「付き合っていたと思う?」

 少し考えてから、メアリーは首を横に振った。

「メアリーも知っていると思うけど、クレアちゃんは恋愛経験がほとんどないと思うの。」

「そうね……」

「だからジェイに対しても、本当は好きなんだけど自覚してないままずっといたと思うのよね。」

「確かに……」

「でも、何かのきっかけで、ジェイに対する恋ゴコロに気づいたとしたら……」

「そうか、そこから一気に想いが爆発して、ジェイに激ラブ状態になったと!」

「でもそれを根本から否定されたら……」

「根本から否定って……何?」

「それはわからないわ……」

 メアリーは考え込んでしまった。状況は少しづつ分かってきたが、一番肝心な部分が分からないままだった。

「ところで、ジェイはどうなの?やっぱりクレアと同じって事?」

「ジェイの場合は、クレアちゃんの百倍面倒ね……」

「うーん……そうかも……」

 構わずケイは話し続けた。

「ジェイはまず恋愛そのものを理解してないのよね。自分自身には恋愛する感情がないと思っている。そう思い込んでいる。」

「ふむ……」

「でも、真面目で真っ直ぐで少々無茶をするクレアちゃんと接しているうち、彼女を守ってやりたいという感情が芽生えた。」

「うんうん、クレアの場合はそこで恋愛している自分に気付き、認めたけれど、ジェイは認めていない……」 

「というより、認めたくないという想いがあるんじゃないかと……」

「えーっと、リンダだっけ?ジェイか地球にいた頃に、ジェイを好きになった娘を死なせてしまった事件って……だとすると面倒ね……」

「ジェイは今でも、自分は幸せになるべきではないと思っているんじゃないかと、あたしは見ているの……まったくバカよね……幸せになっちゃいけない人間なんかいないのに……」

「ケイ……」

 そう言うケイの眼は、寂しげに見えた。

「まるでケイは、ジェイのお母さんね……」

「ほんっとに世話のかかる息子だわっ!」

 そう言ってふたりは笑った。

「そろそろ行くわ、ありがとうケイ。」

「おなかの赤ちゃんはどう?」

「順調よ!あとひと月したら産休に入るから、それまでしっかり働かないとね!」

「赤ちゃんかあ……いいなあ……」

「ケイ……」

 子供が産まれるメアリーを、まるでケイは羨望の眼差しで見ているようだった。

 ケイは本当に不思議だ。

 殺戮破壊兵器のAIでありながら、その人間臭い言動には時々驚かされる。時々経験豊富な年長者と話しているように錯覚する事がある。本人はデータの蓄積と言っているが、ケイと話していると彼女がロボットである事を忘れてしまう。

 メアリーは署に戻った。

 事務所に戻る途中、ケイはポツリと呟いた。

「ジェイ……あなたは恋をしていい……幸せになっていい……だってあなたは……人間なんだから……」



 バァーン!

 スターライト シティ署の地下にある射撃練習場に銃声が響き渡る。

 実弾射撃しているのはジェイだ。

 扱いの難しいリボルバー式でありながら、ジェイの正確な射撃は相変わらずだ。

 その隣で射撃しているのは捜査1課のアラン アズナブールだ。

「相変わらず見事な腕前ですね、ジェイ。」

 アランは扱いが容易な練習用のレーザー式拳銃を使っている。それでも腕前はジェイには遠く及ばない。

「ところでジェイ、あなたはなぜクレアを拒絶するのですか?」

「何の話だ……」

 バァーン!

「私なりに分析しました。ジェイ、あなたはクレアに特別な感情を抱いている。そうですね?」

「理由を話せ。」

「実はあの夜、私はクレアと一緒でした。」

 バァーン!

「クレアと食事をした後、あなたはクレアと出会った。そうですね?」

「何が言いたい?」

「ジェイ、あなたはあの後、自分を狙撃した女と一緒だった。そしてあなたと女は対峙した。クレアを交えてね。」

「それで?」

「恐らく女はクレアを盾にあなたとの決着を望んだ。違いますか?」

 バァーン!

「そして結果的にあなたは女を射殺した。問題はその後です。あなたはクレアの気持ちに気付きながら、彼女を振った。そうですね。」

 バァーン!

「あなたはこう言ったのではないですか?『俺とは棲んでいる世界が違う』と……」

「それで?」

「クレアはそれで身を引いた、私はそう見ています。」

 バァーン!

「どうでしょう?私の分析は?」

「それなら俺の行動も、お見通しだな?」

 ジェイは突然、銃口をアランに向けた。

「ジェイ!何を?」

 銃口を向けられたアランは真っ青な顔をしていた。

「アラン、お前のプロファイリングは見事だ。たが状況判断はまだ甘いな。」

 そう言ってジェイは空になった弾装を見せた。

「俺のS&Wは6発しか入らない。そして既に6発撃った。それが分かってたなら、そんな情けない顔はしない……」

「くっ……」

「気にするな、次から気を付ければいい……」

 そう言ってジェイは射撃場から立ち去ろうとした。

「おっ、ジェイ、いいところで会ったな。」

 廊下の手前でガブリエルと鉢合わせとなった。

「ジェイ、お前を逮捕する。」「なに?」

 いきなりガブリエルはジェイに手錠を掛けた。

「か、課長!?」

 アランは目を丸くして呆然とした。

「さあ、事情徴収だ。取調室まで来てもらおう!」

 そう言ってガブリエルはジェイを連行していった。

 残されたアランは呟いた。

「読めない……あのふたりは……」



 スターライト シティ署の取調室に、ジェイとガブリエルが対峙して座っていた。

 取調室は窓のない狭い部屋で、小さいテーブルと椅子がふたつ、そして片面に大きな鏡が取り付けてある。これはマジックミラーになっていて、隣の部屋から様子を見られるようになっており、当然ながら監視カメラも複数常設してある。

「どういうつもりだ、ガブ……」

 取調室でようやく手錠を外され、ジェイは恨めしそうに睨んだ。

「悪く思うな、あの時の状況を詳しく聞きたくてな。」

「狙撃した女を殺した件なら、十分過ぎるほど説明したはずだ。」

「いや、まだ肝心な話を聞いていない……」

「何を話せと言うんだ……」

 ガブリエルは身を乗り出してジェイに迫った。

「単刀直入に訊く、クレアと何があった?」

「その話か……」

 ジェイは大きくため息をついた。

「クレアとは何もない。今までも、これからも……」

「だったらなぜ、何度となくクレアを助けた?」

「その前にガブ、お前に聞きたい事がある。なぜそこまで俺とクレアに関わる?お前はしつこいくらい俺とクレアを一緒にしたがる。なぜだ?」

「そうだな……」

 ガブリエルは少し考えて話した。

「何となくな。」

「何だと?」

「最初はそうだった。何となくお似合いなんじゃないかなと思っていた。特にクレアはジェイに興味があったようだからな。」

「今は、違うのか?」

「メアリーも言ってたが、お前たちふたりは出逢うべくして出逢ったと確信している。」

「だからなぜだ!」

「お似合いだからさ、似た者同士で……」

「ガブ!俺がどれだけの命を奪ったか忘れたのか?俺の体と心は血まみれだ!俺と一緒にいたら、アイツも血で汚れる!」

「ジェイ!」

 ガツッ!

 ガブリエルはジェイをぶん殴った。

 反射的にジェイは両腕でガードしたが、ヘビー級のボクサーに匹敵するガブリエルの拳を喰らい、ジェイは椅子ごと吹っ飛んだ。

「俺も軍隊と警察で、いっぱい血に汚れた!クレアもそうだ!アイツも警察官の道を選んだ以上、これから血で汚れる!」

 床に倒れたままのジェイの襟首を、激昂したガブリエルは掴み睨み付けた。

 普段は穏やかで陽気なガブリエルが、まるで別人のようだ。

「クレアは血で汚れる度に悲しみ、苦しむだろう。それを支えてやれるのはジェイ、お前だけだ……」

「警部!やめて!ジェイ!」

「クレア?」

 突然扉が開き、クレアが飛び込んできた。そしてガブリエルの腕を取り押さえた。

「クレア、お前に言っておく……確かにジェイは裏社会の人間かもしれない。しかしそれが何だってんだ?お前は警察官だろ?警察官に表も裏もない!犯罪から人を守るのが警察官の役目だろ!棲んでる世界が違うって言われたくらいでビビってんじゃねえ!」

「警部……」

「それからジェイ!クレアはもう一人前の警察官だ!お前が思ってるよりずっとタフなんだ!俺の部下を見くびるんじゃねえ!」

「……」

 ガブリエルの熱い演説に、ジェイもクレアも黙り込んでしまった。

 ジェイはクレアに向かって言った。

「クレア……」

「ジェイ!血が!」

 ジェイの口元にうっすら赤い血がにじんでいた。

 すかさずクレアがハンカチを当てる。それをジェイは抵抗することもなくじっとしていた。

「少し唇が切れただけだ……隣の部屋で見ていたのか……」

「警部が凶悪犯の取り調べをするから来いと……」

「凶悪犯か……」

 ひと月ぶりに会ったクレア。

 ジェイの心の奥に、何かが灯った気がした。

「クレア……」

「えっ?何?」

「元気そうだな。」

「うん……まあね。」

 クレアもジェイの言葉に、特別な気持ちが沸き上がっていた。

「ジェイ……クレアはな、リンダからの手紙をいつも大切に持ち歩いてるんだ。」

「リンダの……」

「俺はな、大事な親友と、かわいい部下に幸せになってほしいんだ……それだけだ……」

「警部……」

「職権乱用だぞ……ガブ……」

 その時、

「管内に208発生!捜査部は54地区に急行せよ!」

 暑内にアナウンスが流れた。

 「おい!話は後だ!行くぞ!」

 ガブリエルが叫んだ!

 ジェイもクレアも途端に仕事の顔つきに変わった。

 3人は現場に向かって走った。



 翌朝、

 ジェイの探偵事務所のある雑居ビルの前に、クレアは立っていた。

 まだ気持ちの整理はついていない。それでもこのままではいけないとクレアは思っていた。

 クレアは淡いオレンジ色の封筒を見つめ、呟いた。

「リンダさん……私に勇気を貸して……」

 ビルの中に入ろうとした瞬間、大型バイクが近づいてすぐそばに停まった。

「あら?クレア!おはよう!」

「メアリーさん!おはようございます!」

 赤と白の派手なバイク用スーツに身を包んだメアリーは、ヘルメットを外してバイクを降りた。

「ガブから聞いたわ。ジェイに会いに来たの?」

「ええ、まあ……」

「じゃあ私はまた今度にするわ。」

 そう言って再びヘルメットを被ろうとしたメアリーにクレアは言った。

「あの……できれば一緒に入ってくれませんか……」

「そうねぇ……いいわよ。」


「おっはよージェイ!起きてるー?」

「ああ……」

 コーヒーメーカーを調節しているジェイは背中を向けていたが、何かに気づいたように振り返った。

「クレア……」

「ジェイ……おはよう。」

「……」

「……」

「おはよう……」

「……」

「おっはよークレアちゃん久しぶり~!」

 いきなり背後に忍び寄ったケイは、後ろからクレアに抱きついた。

「きゃっ?ケイ!おはよう!久しぶりね!」

「うれしいー!またクレアちゃんが来てくれた~!」

「ちょっとケイ!やめて!くすぐったい!」

「やっとジェイと付き合う気になったのかな?」

 メアリーの問いに、クレアはジェイに聞こえないように小声でふたりに言った。

「私……ジェイが……好きです……」

「クレアちゃん……」

「……」

「でも、しばらくジェイとは少し距離を置いたほうがいいと思っています。」

「どーして?」

「うまく説明できないけど、今はその方がお互いのためにいいんじゃないかと……」

 クレアの言葉をひとつひとつ確認するように聞いたあと、メアリーは言った。

「自分の心に正直なら、私もそれでいいと思うわ。」

「それじゃあ毎日ここに来てくれるのね!」

「いや……毎日はちょっと……」

「ねえねえジェイ聞いて~!!これから毎日クレアちゃんここに来てくれるって~!」

「いや、毎日というわけでは……」

 ジェイは再び振り向いて、顔をしかめてみせた。

「好きにしろ……それより飲むか?コーヒー。」

 再びジェイに聞こえない小声でメアリーは言った。

「ったく……アイツはいつになったら正直になるんだ?」

「でも、ああ見えて今日のジェイはご機嫌なのよ~。」

「え~!あれでか~?」


「相変わらず苦いコーヒーね!」

 ひと口飲んでメアリーは文句を言った。

「でもまあ、この間のよりはマシかな。」

「そりゃどうも……」

 クレアは専用の大きなマグカップに半分だけ注がれたコーヒーに口を付けた。

 その苦さに顔をしかめながら再び飲もうとするクレアに、ジェイは温めたミルクの入ったグラスをそっと差し出した。

「我慢するな……」

「ありがと……」

 漆黒のコーヒーに白いミルクが注がれると、ふたつの色が渦を巻き、やがて混じり合って明るい茶色に変わっていった。

 そして明るい茶色のコーヒーをひと口飲むと、クレアは自然に笑みを浮かべた。

 そしてジェイに感想を告げた。

「うん、ドブ川の水よりマシね。」



 to be continue~!


 お待たせしました!

 前話で別れたジェイとクレアでしたが、ガブリエルの活躍で再び近づいたようです。安心しましたか?私も安心しました。

 そしてケイの意味深なセリフもありました。

 とはいえ、今回も書き上げるのに時間がかかってしまいました。

 そしてこの後は最終回に向かって書きます。

 今のところ、残り3話で終わらせる予定です。

 そして再構成して正式に連載小説という形にしたいと思います。

 でももうちょっと書いていたいなあ……

 書いてて構想が膨らむんだもの……

 という訳で次回も読んでいただければ幸いです。

 ありがとうございました。



 次回予告!


「あなたは……だれ?」

 クレアの前に現れた謎の男。

「そうだな……ジェス……とでも名のっておこうか……」

 その男の圧倒的な力に、ジェイは心も身体も傷つき倒れてしまう。

 そして明らかになる驚愕の事実。

「まさか……ジェイが……」

 ジェイとクレアの運命は?

 次回 スターダスト コネクション

 お楽しみに!


※内容は変更になる場合もあります。


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