瑞樹、異世界の人にたい焼きを作る。
古道具屋は商店街のメイン通りにあった。
この商店街の人たちは顔見知りが多く、わたしもこの古道具屋の店主、鳥川さんとは、商店街のイベントなどで一緒になったことがある。
「鳥川さん、こんにちは」
わたしは店に入った。
「ああ瑞樹ちゃん。いらっしゃい」
地味だけれども質の良さそうな服を着た初老の男性、鳥川さんがにこやかな笑みを向けてくる。
「こんなものをお客さんからもらったんですけどー」
わたしは鳥川さんに銀貨を渡す。
鳥川さんの目がきらりと輝いた。
「どれ、ふむふむ。へぇ……ほぉ」
鳥川さんが熱心に銀貨を鑑定する。
「どうですか?」
「こりゃ珍しい貨幣だね。本物の銀でできているようだ。……でも、どこの銀貨かはちょっと分からないね。銀として買うから、3000円ってとこかな」
「3000円!」
ひええ、とわたしはちょっとパニックになった。
うちのたい焼きに換算したら、一匹税込みで150円だ。20匹は買える。
あのお客さん、ずいぶんと太っ腹だったんだ!
「それでいいかい」
鳥川さんが聞いてくる。
わたしはコクコクとうなずくほかはなかった。
「まいど、ありがとさん」
鳥川さんがにっこり笑って現金3000円を渡してきた。
「こちらこそ、ありがとうございました」と、わたしはそれを受け取った。
いい気分だ。勝正オヤジに見せたら喜ぶだろうな。
わたしはフフフンと鼻歌を鳴らして、たい焼き屋に戻った。
「おう、どうだったい」
「おやっさん、見てくださいよ」
わたしは3000円を勝正オヤジに手渡した。
「なんだと! こりゃもらいすぎだぁ」
「そうですよね。また来るってお話でしたから、その時にうんとサービスしちゃいましょう」
風変わりなお客だったけど、これだけ出してくれるなら、最高の微笑みでおもてなしできそうだ。
わたしと勝正オヤジは、ときどき来るふつうのお客さんを相手にしながら、あのイケメンさんを待った。
そうしていると。
「ごめん」
来た! 銀貨3000円のお客さんだ!
鎧と兜を相変わらず身につけているのがやっぱり気になるけど。
「あ! お客さん、いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ」
わたしと勝正オヤジは満面の笑みを浮かべた。
「ここのタイヤキがうまいと、仲間に話したら、是非に来たいという流れになってな」
鎧兜のイケメンさんがそう言うと、店の外から元気な声が聞こえてきた。
「隊長、入ってもいいっすか」
「おう、狭いから6人くらいまでだな」
「わかりやしたー」
そうして、これまたキリリとした鎧兜の少年たちが5人入ってきた。
隊長って言ってるってことは、何かのグループなのだろうけど。
わたしはこの人たちに興味が沸いた。
「さっきのお金で大丈夫ですよ。すぐ焼きますから、ちょっとお待ちくださいね」
わたしはいそいそとたい焼きを作り始めた。
大入り満員。
とても気分がいい。
「俺も手伝うよ」
勝正オヤジの加勢もあって、作りたてのたい焼きがすぐに出来上がった。
たい焼き20個。
「みなさんで分けてくださいね」
外にも人がけっこういるみたいだから、このグループはかなり人がいるらしい。
「まいどどうも。皆さんは何の集まりなんですか?」
たい焼きを渡しつつ、勝正オヤジが隊長と呼ばれたイケメンさんに聞いた。
「よくぞ聞いてくれた。我々はグローリアス王国の騎士である」
「はあ」
「今日、たまたまこの隣国タウニーにやって来たのだ。田舎の小国と聞いていたが、なかなかどうしてこんなうまいものがあるとは、文化の面ではあなどれないようだ」
「……おやっさん。ちょっと、今外に出てみてくださいよ」
わたしは勝正オヤジに耳打ちした。
彼らを見送るようにして、わたしたちが店を出ると。
「な……なんだこりゃ」
勝正オヤジがポカンと口を開けた。
そう。さっきわたしが見た、古い西洋風の街並みがそこにあった。
「おやっさん。だからさっき、わたしが言ったでしょ」
わたしは自分の正しさが証明できて、ほっとした。
「隊長、うまいっす」
さっき店に入ってきた少年たちが、たい焼きを頬張ってニコニコと笑っていた。
その数、ざっと15人はいるだろうか。
「おかわりが欲しいやつ!」
イケメンさんが言うと、全員が手をあげた。
「しかたがないな、ジャンケンだ」とイケメンさん。
ジャンケン! こっちにも庶民の遊びがあるみたいで、なんだかほっとした。
「今度来る時にも食べたいな。家族へのみやげにしたい」と、イケメンさんが言う。
「じゃあ、みなさんを今度連れてきてくださいよ。やっぱりたい焼きは出来たてがおいしいんでね」
勝正オヤジがそう言うと、イケメンさんは「それもそうだな」と納得した。
騎士団の人たちは、みんな幸せそうな顔をして、わたしたちに手を振り、去っていった。
「……ここがどこかは分かりませんけど」
わたしは勝正オヤジに言った。
「商売繁盛は、何よりですね」
「おう。見たか、騎士かなにか知らないが、あのうれしそうな顔! 作り甲斐があるってもんだ」
勝正オヤジもニコニコと笑っている。
わたしたちが店に戻り、しばらくすると、またいつもの商店街がそこにあった。