第1章 出発
丘を降りてまっすぐ北に進んだ先にある、城下の町・セルレア。
町の南部にある市場で買い物を済ませたエマは、最北の住宅街へ向かった。
住宅街は栄えていた市場とは違い、誰も居ないかの様に静かだった。
エマはその静寂の中をコツコツと靴音を立てながら歩いていたが、やがて一軒の小さな煉瓦で出来た家の前で立ち止まった。
「ただいま〜ッ」
木のドアを開けて中に入ると、ロッキングチェアに座りながらだらけて居る女性がエマを見た。
「あらお帰りー。買って来てくれた?」
その女性は、エマとは違う紫色の綺麗な長い髪を持っていた。
「…母さん、暇だったんなら自分で行ってよ…」
家の中でダラダラしている母親を見てエマは溜め息を吐いた。
自分を女手一つで育ててくれた母・リナヤには感謝しているが、少しばかり子供の扱いが酷くないだろうか…。
そう思いながらリヤナに買い物カゴを手渡し、自室に行こうと階段を昇ろうと足を掛けた時。
リヤナが
「あ、」と何かに気付いた様な声を出した。
「何?」
エマは階段を昇るのを止めて、リヤナに向き直った。
「今日は飛びに行かないの?」
リヤナの問いにエマが頬を膨らませる。
「…母さんが『門限は4時ね☆』とか言ったんでしょ」
エマが買い物を頼まれたのは3時過ぎ。今は既に5時になろうとしている。
「そうだったかしら?…まぁでも、今日は寄り道したとはいえお使い頼まれてくれたし」
リヤナはロッキングチェアから下りて帽子掛けからキャスケットを取ると、
「良いわよ、飛んで来ても」
にっこりと笑いながらエマに向かって投げた。
「―本当!?(丘に行ったのバレてたんだ…)」
エマはそう言ってから、ドアを開け
「いってきまーすッ!!」
家を飛び出して行った。
「…いってらっしゃい、エマ」
リヤナはドアが閉まってから、独り言の様に言った。それから、
「…ジル…」
まるで話しかけるかの様に、呟いた。
最近寒いですね。
そんな訳でコタツで書いてます。
いや〜寒い。