桃太郎は神
連載となっていますが、この後が一緒に出すとややこしいのでわけました。
時は遡り遠い遠い昔のお話。
ある時、大きな桃ではなく比較的普通サイズの桃が山の中を川で下り、平地を川で流され、急な崖を滝で落とされと長いそれはもう途方に暮れるような程の長いときを過ごした。
桃はどこから来たのか? その秘密を探るには時をまたもう少し遡らねばなるまい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時がどれだけ戻ったのかも分からなくなる程の時間を遡り辿り着いたのは人がまだ地球でそれほど活発に行動していなかったため動物達にはまだ平和が保たれ、のどかで、心地よく、そして強者が地球を支配しつつけていた頃。
とある島の大きな大きな神殿に一つの小さな小さな桃の実が生まれた。
その神殿は古くさく、それでも倒れる気配が一切しない程の堂々とした態度で辺りを見回している。人がいない地球で何故神殿があったのか。その理由はここに棲んでいる生き物が関係している。
『――――――』
『ーーーーーー』
人間が使う言葉とはかけ離れた音量と声で会話をする生き物が2匹。会話を訳してみるとこんな事を話している。
『我々の旅はどこまで続くのだろうか』
『我々の星に一度戻ってくる事になるから当分の間は宇宙空間を旅する事になるだろう』
よく見ると様々な所にも同じような生物が歩き回っていた。彼等を人の価値観で表すのなら“エイリアン”という言い方が一番しっくりとくるだろう。頭には小さな小さな角が生えていて皮膚の色は青から赤まで様々だ。角とは言っても鬼のようなくっきりと分かるようなものではない。でかいものでも熊の蹄の半分程でしかない。目はぎょっとした形をしているが実は皆心優しい者達である。
そしてそのエイリアン達が神殿を作り、備えているのは外見は桃で彼等の言う卵である。この桃の名を語るならば“神の卵”と言うのが良いだろうか。生まれるのは人の語る神であり、万力の力を有し、極限までの知識も有し、慈愛の心を誰よりも持つものである。そしてこれを置いて行っているエイリアンこそが人の称える神である。
『では行くとしようか』
『はい』
はもった声が辺りに響いた。総勢で30人程度だろうか。神達はこの日一瞬にして地球から立ち去った。また神がこの地球に降り立つまでは更に1500年程掛かる事となる。
桃(卵)は堪えた。時間と言う名の過ぎ去りし時に対して。800年があっという間に過ぎ、桃(卵)は大きくなり人は行動を活発化し始め、地球の支配までもう少しと言う所まで来ていた。
更に650年という月日を経る事である事件が起こった。桃が島の神殿に訪れた災害によって海へと放り出されたのである。今は人が世界の支配者だと言わんばかりに行動していて人以外の生物はとてもじゃないが生きていける程甘い所ではない。それでも桃は堪えた。世界中を旅する事で様々な地域を知り、様々な生き物を知った。そして着々と成長が進み、普通から少しばかり大きくなった程度の桃になった桃(卵)に危機が訪れる。今まで海を渡り、動物に拾われ、そして捨てられ、川を流れてきたのだが、遂に人の手に渡ってしまった。
このとき神がいなくなってから約1600年が経過していた。そう。1500年を超していたのである。
神は自分達の卵がなくなっている事で相当焦った。神の卵から神が生まれたわけでもなさそうな島で災害の痕跡を見つけると神達は必死で卵を探した。それはもう気が狂いそうな程な労力をかけて……。実は神の卵は後8つ程あったのだが、どれも環境に合わず灰となって消えていった。だが、この地球は違った。環境と適応した神の卵はもう生まれる寸前だった。卵の発する気配でその事を神達は知っていたのだ。
だが、手遅れだった。神の一人が卵を見つけた時もう人間の手に卵が渡っていたのだから。
桃(卵)はよぼよぼになっているおばあさんに拾われ、そのまま家に持って帰られてしまった。神も卵を取り返すのは簡単だが、その際に争い事に発展して卵がもしも割れてしまったら仲間の神に目も当てられない。しかも神達は比較的争い事を好まず、穏便な性格なのだ。そこで神は卵から一旦離れて神達が占拠している島へと急いで戻っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、桃(卵)の方はそんなあれこれがあった事などいざ知らず、おばあさんがそのまま家にもって帰っていた。そして、おじいさんと一緒に割って食おうと大きな包丁を取り出し、切ろうとしたその瞬間、桃(卵)が大きく光り輝き、中から普通の子供より小さな子供が出て来た。
これが世に言う桃太郎の誕生である。
「こ、これは……!?」
「おお……」
感嘆の声をあげ、出て来た子供を反射的に抱きしめる。流石に年が年なせいか腰を痛めたようだが、そこまで重大な事になるものではないようである。
そして、この子供は桃から生まれたので桃太郎と名付けられ大きくなるまで大切に大切に二人に育てられた。桃太郎の成長は誰が見ても目を見張るところがあり、小さ過ぎた体は、3歳になる頃には他の同年代とたいした変わりがないようになりある程度の月日が流れれば小さいながらに大人顔負けの運動神経を身につけた。勉学にも小さい頃から励み、これまた小さいながらに難しい問題も解ける程の天才となった。
そしてまた時は流れ、青年となった桃太郎は最近頻繁に起こっているという鬼の暴行を阻止するためにおじいさんとおばあさんにこんな事をお願いした。
「おじいさん、おばあさん。僕は鬼が許せません。なので鬼の本拠地の鬼ヶ島に乗り込み、鬼を倒してきます」
これまで大事に大事に育ててきた我が息子を危険な所に送り出すのはそう簡単な事ではない。だが、もはや自分の子供(または孫)と何ら変わりない存在の桃太郎からこんな言葉を聞いたら止める事は出来るだろうか。いや、もし止めたとしても正義感が強い桃太郎がそんな事で止まるだろうか。否、止まる筈がない。それを知ってか知らずかおじいさんとおばあさんは進む気持ちではないが子の勇気を称え、きびだんごや旗を作り送り出してやった。
実を言うともう桃太郎の運命は始まっていたのである。
進む度に人とすれ違い、鬼ヶ島の方向を聞きながら着々と目的地へと近づいていった。途中、犬、猿、雉を仲間にして幾日も過ぎた頃遂に海岸線へと辿り着く事が出来たのである。
だが、ここまで来てアクシデントが起きてしまったのだ。アクシデントと言うのは海を渡る事を意味しており、桃太郎達は海を渡る手段を一切持ち合わしていなかった。
流木。
それがこのアクシデントを乗り越える為に使った桃太郎達の材料だった。短い時間で木と木を縄で強くくった。それはとても労力を消費する作業だった。そして全員で力を合わせてなんとかで出来上がった船はとても立派と言えるものではなかった。どちらかと言えば簡素な作りで海を渡るには危険と隣り合わせとなる事が予想されるようなものだった。ほぼ木で作られていて飾り付けは勿論されていなかった。それでも桃太郎達はこの海を越えなければならない。なぜならこうしている間にも人々は苦しんでいるのだから。
少なくとも桃太郎達はそう思っている。
早速海に出た桃太郎達を待ち構えていたのは荒れ狂う波の連鎖だった。海は荒れ、それでも鬼ヶ島に近づけば近づく程嵐は強くなっていく。それでも原形を保っていられるこの船(?)は奇跡だとしか言いようがない。
途中でこんな声も出た。
「一度引き返してまた来よう!」
そんな悲痛な表情で皆に聞こえるように叫んだのは猿だった。そんな意見に誰も販路運する事は出来なかった。いや、一人を除いて反論する事が出来なかった。
「駄目だよ! 後もう少しなんだ。これで引き返しても同じ事の繰り返しだよ!」
反論したのは勿論桃太郎だった。これまた誰も否定する事が出来なかった。自分たちのリーダーである 桃太郎の意見も尤もだったからである。自分たちがここで引き返してもまたここにくる事になれば同じように引き返してしまう可能性が高いからだ。
心と言うのは脆いものである。一度諦めてしまったら再度挑戦してもまた諦めてしまう。その時の気持ちの持ち方で大きく人生が変わって来る。勿論無理を承知で行くのではなく自殺行為にも等しいような行動で動くのが得策とは言わない。ようは気持ちの持ち方で押し切れるか押し切れないかなのだ。生き物の体は脆い。そして心も脆い。だが、一度彼等が集まり力を合わせれば脆いものでも無限の可能性へと帰る事すら可能になる。例えるならばダイヤモンドの原石はまだ光沢が薄い。だが、人が手を加えるだけで他を大きく 凌駕する輝きを持たせる事が出来る。これはダイヤモンドだけでは出来ない事だ。他の人も一緒に力を合わせる事によって出来る事である。
そんな例えを用いたが、桃太郎一行は文句を言わず鬼ヶ島に向かっているようなので心配はいらなかったようだ。
時間は経ち、嵐が強くなるに連れて桃太郎さえも精神を削られていった。そして―――
「くっ、飛び込め!」
桃太郎一行に遂に最悪の時が訪れた。嵐を忘れる程の大きさの波が桃太郎一行に襲いかかった。その大きさは木材を飲み込んで尚、止まる所を知らない程の大きさで桃太郎達の苦難の試練となった。
桃太郎は波に一度飲み込まれながらもなんとか海面へと顔を出し、犬と猿も同様に波を逃れ、雉は嵐のせいで高度が著しく下がっているもののなんとか飛び立ちそのまま鬼ヶ島へと向かった。
ここで終わっていれば桃太郎達は鬼ヶ島になんとか全員一緒に辿り着けたのかもしれない。なぜなら鬼ヶ島までもう数百メートルしかもうないのだから。だが、人生とはそう簡単なものではない。そう、第二波の波が桃太郎達を襲ったのだ。犬、猿は一緒に鬼ヶ島の方向へと流され、それを雉が追った。だが、桃太郎だけは波に呑まれ海の底へと誘われてしまった。
そんな桃太郎達を見ていた一人の神はすぐに桃太郎の元へと海の底まで追いかけた。
そんなあれこれを知らない雉は猿達が流された方向へと進み、鬼ヶ島へと満身創痍ながら辿り着いた。それは犬、猿も同様で砂浜へと辿り着く事に成功した。
彼等はいったいどのような気持ちだっただろうか。きっと生きていたのか、という感じで生きた心地がしない気持ちでいたのだろう。だからこそ彼等は桃太郎がいなくなったことに少しの間気づく事が出来なかった。
時間だけが経ち、猿達は最後の力とばかりに体を起こし、辺りを見回した。3匹が思っている事は全員一致した事だった。
「「「桃太郎は!?」」」
このとき初めて桃太郎と離れた事に気づいたのだ。そして先程の疲れたような生きたような感じがしないような表情とは違う表情で歩き出したがとき既に遅し。
『お前等は何者だ』
見張りの者に見つかってしまったのだ。
突然かけられた声に3匹共飛び上がるように声をかけられた方向へと振り返る。そこにいたのは頭にでかい角ををはやした鬼だった。
「お、鬼!?」
『君たちにはそう呼ばれているね』
全く動じない返事とおっとりした口調に少し警戒を緩めたものの首を振り、否定するように警戒を元のように戻す。
『そんなに警戒しなくても良いよ』
「そんなわけにいくか!」
代表として返事をするように猿は怒鳴るがそれはただ近くの見張りを呼び寄せるだけの無駄足となってしまった。時間が過ぎ、集まってきた数匹の鬼は猿達を包囲するかのように囲み、残りの者で簡単な相談が開始された。そして猿達の神経が切れそうな程なときが流れたとき相談の結果が猿達に言い渡された。
『今、君たちの事について話し合いが纏まった』
とても辺りに響く声で堂々とした声は猿達を一同に震え上がらせた。
『私たちは争いを好まない。君たちは……しばしの間眠ってもらう事にする』
そう言われた瞬間、猿達の意識はすぅ、ととう退いた。
時は少し遡り、桃太郎の方は。
(僕は……何をしていたのだろう? 自分はここで死ぬのか? 死んで良いのか?)
必死にもがくが状況は米粒程も変わらず着々と最悪な方向へと進んでいく。だが、桃太郎の決意は変わらなかった。
(死んでたまるかー!!)
そんな思いを残しながら桃太郎の意識はゆっくりと遠のいていった。もしかしたらそんな桃太郎の決意が奇跡を呼んだのかもしれない。
『神の子!』
その声だけは桃太郎の遠のく意識の中でもはっきりと聞き取る事が出来た。
桃太郎が気を失ってから約4時間程が経過した。
(何故僕は……生きているのか?)
疑問を感じつつも起き上がり、周りを見回す。そこにあるのは神殿のようなもので自分がその中にいる事は分かる。シンプルな作りで全てが清潔感が溢れており置き物が殆どなく馴染みがない所だった。だが、何処か懐かしい感じが桃太郎はしたのだ。まるで昔自分はここに居たかのように。
『目が覚めたか』
「!?」
突然かけられた声に猿達同様飛び上がるように声をかけられた方向へと振り向く。そこに居たのは猿達が見たのと同じく大きな角が生えた鬼だった。
「お、鬼!?」
『慌てないで』
心そのものに話しかけてくるような声は桃太郎の警戒心を緩めた。
『私たちは君たちには鬼と呼ばれている』
それを聞いた瞬間にやはりというかのように鋭い眼差しへと視線を変える。
『警戒はしないで、何もしないから。そうだね……話をしよう』
そう言うと神殿の入り口の方向に向けて歩き出した。それにつられるように桃太郎も後を追うように歩き出した。
『話とは言っても簡単な事だよ。内容は複雑だけどね……。私たちは鬼と呼ばれているけどその実は神とも言われている』
「!?」
目を見開いて表情を一変させるが自分たちは神であると名乗った鬼のせいか喋る事が出来ない。
『そしてね、君もその神の内の一人なんだ』
それを聞いた時桃太郎はこれでもかとでも言うかのように目を見開いた。
この先は始めの方で出て来たような出来事が述べられている。述べられていなかった事と言ったら神達が時が流れる事で角が大きくなった事と今まで桃太郎をずっと観察していたという事だけだった。
家庭での事でこの続きは近々と言う事で……本当にすみません!