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四章 その壱

 王の子は十歳になると母親のいる本宮や後宮から離され、王子宮おうじのみやへと居を移される。それから十五で成人と認められるまで、原則的に教育係と世話係としか交流を持てない。政治的に利用されることを防ぐためである。

 王子たちは王子宮に住まう五年間でありとあらゆる教育を受け、王太子以外の王子は成人後の身の振り方を自ら考えなければならない。王族と認められるのは基本的に正室から産まれた子のみで、側室の子は王太子にならない限りは貴族止まりだ。

 ここにも龍の恩恵はあり、正室も側室も第一子は男児であることがほとんどで、女児はごく希だ。そのため、過去の王太子の多くが正室の長子であった。

 ヤマトには側室の産んだ一人しか子がいなかった。初めから正室を持たず、側室に男児が産まれた後は、役目は果たしたとばかりにその側室も後宮から出した。

 ヤマトの唯一の子、王太子マサトは広い王子宮を、護衛官兼補佐官のアキラと二人だけで使っていた。


「どうして見つからないんだ。探し方が甘いんじゃないのか!」

 アキラからの報告を受け、マサトは感情を爆発させた。どれだけ大きな声を上げても、マサトをたしなめられる人間はここにはいない。アキラは、慣れた様子で表情一つ変えずに淡々と答えた。

「龍の花嫁は月氷司(つきおりのつかさ)の管轄です。あまり大々的には探せません」

「ぼくの龍の花嫁だ。自分で探して何が悪いんだ!」


 王に男児が産まれると、一つのお触れが国中に出される。

 ──向こう二年間、水色の目を持った女児を産んだ者は、直ちにその子を王に差し出すべし。

 水色の目は龍の花嫁の証だ。王子と龍の花嫁は一対の存在で、一人の王子に対して数人の候補の女児が産まれる。特殊能力を持って産まれた候補たちは王城に集められ、その力の使い方や国の歴史、礼儀作法などを教えられる。そして、花嫁候補はそれぞれが十七の年に儀式を受け、一人の花嫁が選ばれることになる。

 龍の花嫁の力は甚大だ。高波を起こして侵略者の船団を沈め、大地を緩ませて兵の足をからめ捕る。過去には木や草花を生き物のように自在に操ってみせた花嫁もいたという。その力を国と民の守護のためだけに使う龍の花嫁は、時と場合によっては王よりも称えられる。

 今年十四歳になったマサトには花嫁候補がいなかった。

 王の命だということと、花嫁候補の母親には莫大な報奨金と栄誉が与えられるということもあり、通常花嫁候補は王子が二歳になるまでに親によって王城に連れてこられる。もし、親が娘を手放すことを拒み隠していたとしても、存在に気付いた周囲の人間が通告し、迎えに来た役人によって親から引き離された。

「王子と花嫁候補の年齢差は最大で二つ。そして、花嫁候補が儀式を受けられるのは十七歳の年だけ。どんなに遅くてもぼくが十九の年までに現れなかったら終わりだぞ!」

 抑えられない苛立ちをぶつけるように、目の前にあった扇子を補佐官に投げつけるが、武芸に優れた護衛官でもあるアキラにあっさりと受け止められてしまい、マサトの苛立ちは増した。

 花嫁候補が現れないせいで、王太子としての資質を疑っている人間がいるのもマサトは知っていた。ただでさえ、母は平民出身の側室。血統を重要視する貴族の一部は最初からマサトを認めていない。彼が一番恐れているのは、父である王までがそう考えてしまうことだった。

「武鎮省の大臣がお目通りを願いたいそうです」

 いつの間に出ていたのか、部屋の外からアキラが声を掛けてきた。本来なら、まだ成人前のマサトに高級役人である大臣は会うことはできない。だが、龍玉国には政に係わっている王族はヤマトしかおらず、成人前だがマサトも王太子として央竜の統治などにかかわらざるをえなくなり、特別に面会も許されていた。

 先程まで行われていた御前会議の内容はアキラから聞いている。大臣の用件は予想できた。

「わかった。接見の間に通しておけ」


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