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animato  作者: 奏多悠香
1/5

オレと御曹司

本編29話~36話辺りを津野課長から見たお話です。

 社食で彼女と昼飯を食っていると、「追う超絶イケメンと逃げ惑う凡人」のうわさが耳に入ってきた。


「企画の嘉喜さん、またあのイケメンから逃げてるらしいよ」

「え? なんか付き合い始めたって話じゃなかった?」

「ね。ただの噂だったのかなぁ」

「だといいよねぇ、チャンス!」


――おいおい。

 心の中でツッコミを入れる。

 付き合ってようが付き合ってまいが、とりあえずイケメンは嘉喜に会いにこの会社に来てるんだぞ。その時点でチャンスなんてどこにもないだろうが。

 隣に座る彼女に目をやると、面白そうな表情で茶をすすっている。


「嘉喜さん、楽しいことになってるのね」

「ああ。そうみたいだな」

「気になる? 嘉喜さんのこと」


 彼女は湯呑を盆の上に置きながら尋ねてきた。

 彼女はいつだって涼しい顔をしているので、表情から感情が読み取れない。

 もちろん全く気にならないと言えば嘘になる。だがそれを彼女に対して口にしていいものか。

 俺はごくりと生唾を呑んだ。


「あら、おびえなくてもいいのに。別にいまさら心配してないわよ」


 さらりと言われると余計に怖いのはなぜだ。

 嘉喜には触れないでおこう。


 ……と思ったのだが、昼休みも終わるころになってデスクに戻ると嘉喜が一人バランスフードみたいなのをもそもそと食べていて、その姿はどことなく哀れを誘う。


 終業後、デスクでため息をつきながら伸びをする嘉喜の姿を見て思わず声をかけてしまった。


「お前、倉持常務と付き合ってるんじゃなかったのか。何で逃げてるんだ」

「課長には関係ありませんよ。放っておいてください。吉井さんに怒られても知りませんよ」

「あいつはそんなことで怒るようなやつじゃない」

 ……いや、怒るかもしれないが、それを口には出さない。だから余計に怖いともいえる。


「あーはいはい、ごちそうさまでーす。じゃ、お先に失礼します」


 嘉喜はめんどくさそうに言い捨てて、また変な格好をして会社から帰っていく。今日は黒髪のカツラに黒縁の眼鏡だった。あれで真面目くさった顔で「お疲れ様でした」なんて言われてもなぁ。


 しばらくパソコンの前に座っていたが、あまり仕事がはかどらないのであきらめて帰ることにした。



「津野さん」

 会社を出たところで後ろから聞き覚えのある声がかかり、振り返る。

「倉持常務」

 前に商談で会って以来か。俺が彼を見て全く驚いた様子を見せなかったので、倉持常務は苦笑いをした。

「ハル……嘉喜さんは……もう帰りましたか」


 男の俺から見ても端正な顔立ちをしている倉持が眉根を寄せて唇を噛むと、なぜだかやたらと同情心がわいてくる。


「ええ。家に行ってみたら会えるんじゃないですか」

「どこに雲隠れしているのか、家にいないんですよ」

「えっあいつ、家に帰ってないんですか」

「そのようですね。それにあまり頻繁に家に押しかけるのもはばかられて」


 頻繁に会社を訪れるのも憚られてしかるべきだけどな。そう思うが、男の意気消沈ぶりを見るとそんなことを言おうという気は沸いてこなかった。


「よかったらこれから飲みませんか」


 気が付くとそう言っていた。

 倉持常務は意外そうな顔で俺を見た。


 あー、この人も知ってんだな。俺が嘉喜に惚れてたこと。まぁ当然と言えば当然か。なんというか、気まずいな。


 返事の代わりに倉持常務がうなずいたので、よく行く個室の居酒屋に向かった。


「それじゃあ……」

 目の前に置かれたビールのグラスを掲げてはみるものの、何と言って乾杯すればいいのかわからず逡巡してしまう。

「……お疲れ様です」

 そう言ってグラスを合わせてから、もしかしてこれだと「嘉喜を追いかけまわしてお疲れ様です」と聞こえてしまっただろうかと一瞬ひやりとした。

「お疲れ様です」特に不快感を見せることもなくそう返ってきたのでそっと胸をなでおろす。


 お互いにそこそこ酒も進んだところで、切り出してみることにした。


「嘉喜とは喧嘩でもされたんですか?」

 御曹司は首を横に振った。


 わからんってことか。

 これほどのいい男だし、嘉喜が前に言っていた感じだとかなりモテるようだから、もしかして浮気でもしたのかと思ったが、そういうわけではないのだろうか。


「津野さんは、ハル……嘉喜さんから何も聞いていませんか」


 そうか。俺が飲みに誘ったから、もしかして何か知っているのかもしれないと思ってついて来たのか。申し訳ないことをした。


 今度は俺が首を横に振る番だ。

「そうですか……」

「ハルカ、で構いませんよ。嘉喜さん、なんて呼ばなくても」


 つーか、さっきから「ハルカ」って呼び掛けて途中で「嘉喜さん」にシフトチェンジしやがるんで、「ハルカキさん」とかいうけったいな呼称ができあがってんだよな。


「嘉喜に対して特別な感情を抱いていたこともありますが、今は一部下として接していますから」


 そう言ってやると倉持常務がビールをぐいと飲み、「そうですよね、すみません……顔に出ていましたか」と問う。

「何がですか?」

「いえ。ハルカは津野さんをとても慕っているし、もしかして津野さんに何か相談をしているんじゃないかと思ったら……その……」

「思ったら……?」

「相談をしている内につい……ということもあるかもしれないと。そんなことを考えていたので、今日津野さんをお見かけした時に思わず反射的に呼び止めてしまったんです」


 おいおい、何だこれは。俺に嫉妬か。呼び止めたのは探りを入れるためか。絶対浮気なんかしてないじゃないか。この男。


「相談をしている内につい……ねぇ。それはご自分の経験からですか」


 真面目に話を聞いているのがあほらしくなったのでちょっと意地悪な質問を投げかけてみることにした。だってこいつら、どう考えたってお互い大好きじゃねぇか。

 酔いも回ってきて、相手が大口の取引先の常務だってことなんかすっかり頭から消えていた。


 ぐっという変な音がして御曹司が盛大にむせる。

 図星か。


「今は……今は誓ってそんなことはありませんが」

「今は、ねぇ」

「若い頃の話です」

「今も若いじゃないですか」

 30代になったばっかりくらいだろ、この人。

 その年齢で「若い頃」とか。37歳に喧嘩売ってんのか。

「でも本当に、ハルカと付き合い始めてからは、誓ってそういうことはありません」


 焦って必死に取り繕う姿を見ているとこっちがくすぐったくなってくる。

 俺に誓ってどうするんだよ。


「もう嘉喜に対して特別な感情は一切抱いていませんからそういう方向での心配はご無用ですが、それでもあいつが社会人一年生の時からずっと面倒を見てきた上司と部下という関係は変わりませんから、傷つけないでやってほしいとは思います」


 まぁ不要だろうが一応釘を刺しておくと、倉持常務は酒ですっかり充血した目を鋭く光らせながらうなずいた。


「もちろん苦労を掛けたり、意図せず傷つけてしまうことはあるかもしれませんが、浮気とかそういったことで泣かせることは絶対にしません」


 まぁ、これなら大丈夫だろう。

 こういうときに「未来永劫決して傷つけない」とか言うやつは怪しい。そんなの無理だろうが、とツッコミたくなる。

 そう思ってから俺はこっそりとため息をついた。

 まるで兄貴だな。嘉喜に以前「お兄ちゃんになってほしい」みたいなことを言われたことがあったが、今の心境はまさに兄貴が妹を思うそれだ。


 結局、嘉喜がなぜ逃げ回っているのかは全くわからず、唯一の収穫は、嘉喜が倉持常務の誕生日パーティーで急に怒り出したらしいということだけだった。


「飯がね……作ってあったんですよ。これが、まずいんですよ。見た目はめちゃくちゃうまそうなのに、どうやったらこんな味になるのかってくらいまずいんです。そんなのが大量に用意されてたんですよ、部屋に帰ると。部屋の飾り付けまでしてあって。これがまた、へったくそなんですよ。幼稚園児の七夕飾りみたいなのがカーテンレールにはっつけてあって。あの、折り紙っていうんですか。あのぺらっぺらの紙に『お誕生日おめでとう!』って一文字一文字書いたやつがセロハンテープでカーテンにつけてあるんですけど。布にセロハンテープって、あんまりくっつかないんですよ。だから俺が部屋に帰った時には『誕生めでと!』になってたんですよ。指紋がべたべたついたセロハンテープ見てたら不器用なのに一生懸命作ったんだなっていうのが伝わってきて、何かもうたまんないっすよ。誕生日にもらったCDもね、かけてみたら思い出の曲なんですよ。おおざっぱでそんな細やかなこと思いつきそうもないのに、俺の気持ちの変化にものすごく敏感で、慰めてくれたんですよ。ピアノ弾いて。その曲なんですよ……」


 一人称は俺だし、言葉遣いは砕けまくっているし、この人こんなキャラだったんか。


「……なんで、嘉喜だったんですか?」


 自分だって好きだったくせに、と言われればそれまでだが、何となく聞いてみたくなった。あいつはいい奴だが、いわゆるイイ女かと問われたら十秒くらいは答えに詰まる。典型的なイイ男なら、典型的なイイ女を好きそうなもんだが。


「……津野さんは、どうしてですか?」


 質問に質問で返すとはけしからん、と思いつつも、口が勝手に答えていた。


「生き生きしてるから、ですかね」


 新人で配属されたときの嘉喜の使えなさといったら、群を抜いていた。

 「ぷれぜん?」何それ美味しいのとでも言いたげに返ってきた言葉に、頭を抱えたこともあった。

 聞けば、小さい頃からピアノばっかり弾いていて、お勉強の出来は中の下、音楽史や音楽記号には詳しいが、ワードだエクセルだパワポだと言われたら頭が爆発しそうになる、ということだった。「あ、イタリア語ならちょっとわかります、譜面の記号が主にイタリア語なので、ダ・カーポとか」と言われたときは、なんでこんな奴が採用されたのかと本気で不思議になった。

 だが、いざ仕事を教えてみると、とにかく素直なやつだった。

 「間違えました! ごめんなさい!」「わたしのミスでご迷惑をお掛けして申し訳ありません!」「失礼します、ここがわからないのでお手すきのときにご指導お願いします!」「ありがとうございます!」、そういう言葉がためらいなく出てくる奴だった。そんなの当たり前だと思うかもしれないが、近ごろの新人は(というあたりに寄る年波を感じるのは気のせいだ)それすらできない奴が圧倒的に多い。失敗が怖いのか、自分を過信しているのか、空気を読もうと気を使いすぎているのか。「出来ないなら出来ないと言え、わからないなら聞け、失敗したら謝れ、指導するのも責任とるのも上の仕事だ」という当たり前を叩き込むのに随分と時間がかかる。

 だが嘉喜はその点、出来ないことを自覚しているから謙虚で貪欲で、みるみるうちに成長していった。

 舞台で度胸を培われたおかげか、物怖じしないのもよかったし、なんだかんだ言っても芸術方面の感性はやはり優れているらしく、プレゼン資料の――内容はともかくとして――見映えだけは素晴らしいものを作ってみせた。企画という部署柄か個性派揃いだったこともあって、同僚たちにも可愛がられていた。

 もちろんドデカいミスを思いっきり叱ったこともある。そんなとき、凹みはするが腐ることもいじけることもなく、次の朝にはやけに気合いの入った顔でミスの原因と今後の対策を滔々と語るような、変なやつだった。

 それから、特にうまくもない社食の昼飯を誰よりもうまそうに食う姿も印象的だった。


 懐かしいことをひとつひとつ思い返しながらも、俺はそれを口には出さずにおいた。嘉喜のことは完全にふっきれている。だが、一応大事な思い出だ。この彼氏と共有するのが惜しいと思う程度には。


「俺は……」


 倉持常務はゆっくりと言った。


「よく友達にも聞かれるけど、わっかんねぇんですよ」


 よく聞かれるのか。わっかんねぇのか。酔いすぎだぞ。


「この歳までチャラついてた俺が急に落ち着いたのが意外らしくて、聞かれるんすよ。だから考えてみたけど、全然わっかんねぇんす」


 真剣な付き合いを意外がられるほどのチャラつきというのは、たぶん相当なものなんだろう。嘉喜は大丈夫なのか。ちょっと不安になってきた。


「なーんか妙に肩に力が入ってるっていうか、鼻息荒く生きてるのをかわいいなと思ったり……料理できないくせに突然思い立って怪しげなものを作り始めたり、映画観て感動して鼻水垂らしながらむせび泣いたりするんすよ。そんな女の子、初めて見たんすよ。俺、高校生の従妹いるんすけど、そいつよりも幼いっていうか……子どもか、みたいなツッコミ入れたくなることが多くて、そのせいか、いないと寂しくなるんすよ……」


 すっかり酔いの醒めた俺は、愚痴テイストのノロケ話を聞きながら少し安心していた。

 よかった。ちゃんと嘉喜のダメなとこ、知ってんだな。

 いや、俺、どの立場からそんなこと思ってんだ。彼氏なんだから俺なんかよりずっと色々知ってるはずだろ。


 自分にツッコミを入れながらそんな話を2時間以上聞いたところで酔いつぶれた御曹司がテーブルに突っ伏したので、妙な飲み会は強制的にお開きにした。

 よれよれの御曹司をタクシーにぶち込んでからふーと息を吐く。

 かっこわりぃなぁ、あの人。

 最後の方、正直何言ってるかわかんなかった。

 だがそれほどまでに人を好きになれる男を、なぜだか少しかっこいいと思ってしまう自分がいる。


 あー、吉井に会いたいな。


 そう思った瞬間、携帯が鳴った。

「おう。どうした」

 電話の主は、つい今しがた会いたいと思ったその人だった。

『今どこ?』

「今まで取引先の人と飲んでた」


 嘘はついてないぞ。余計なことを言ってないだけだ。


『ふーん、そう。嘉喜さんが逃げ回ってる理由、わかった?』


 冷水を頭から浴びせかけられたような気がした。

 あいつ、魔女か。


『そんなことで怒んないわよ』

 彼女はふふふっと笑いをもらす。

「なんか知らんが、御曹司のノロケ話聞いて終わった」

『そう。ごちそうさまって感じね。私いつものバーにいるわよ。来る?』

「おう」


 決して言葉が多いわけじゃないが、彼女も嘉喜のことを心配しているってことが俺には分かる。俺は一発大きな伸びをしてから、大切な人の下へと急いだ。




 それから少し経ったある日の終業後、受付からの内線に俺は短く答えた。

「あ、俺の客だ。通して」

 その後も逃げ惑う嘉喜を見かねて、俺は受付に「今度倉持商事の常務が見えたら俺に内線回して」と言っておいたのだ。

 ほどなくしてフロアに倉持常務の姿が見えた。俺に向かって深々と一礼する。こないだのこと、どこまで覚えているんだろう。後半はほとんど覚えてないかもな。


 まだ常務の登場に気付いていない嘉喜はデスクに向かって何か作業をしている。俺は御曹司に片手をあげ、そっとその場を辞した。


 これで何とかなるだろう。

 というか、何とかしろよ。百戦錬磨なんだろう。


 その後、百戦錬磨と嘉喜は無事婚約したらしく、しばらく嘉喜は地面から数センチ浮かんで見えるくらい幸せそうだった。



「牡丹の花に朝露がついてたら、やっぱり手折りたくなりますかね」


 ある日、昼に社食で偶然一緒になった嘉喜が突然つぶやいたので、俺は眉をひそめた。


「なんだ、急に。俺は牡丹がどんな花かも知らん」

 隣で彼女がくすりと笑う。

「あら、花の話じゃないわよ。例え話でしょう? 美人が泣いたらってことよね?」

「そうです」

「それで新、どうなの?」


 本心の見えにくいこの涼しい表情。


「うーん。美人が泣いてたら、ね。手折るかはわかんないけど……まぁ、慰めたくはなるかもなぁ。っていうか、手折るってどういうことだ。どうした。浮気の心配か」


 浮気の心配なんかねぇよ、と言ってやりたくなった。


「いえいえ、本気の心配です」

「あら、あのどこそこの御曹司さん?」


 だから、ねぇって。本気はお前にだ。あれで「ほかに本気で好きな人ができました」なんて言われたら俺は人間不信に陥る。それくらい、あの時のあの人は本気だった。


「そうです」

「本気じゃしょうがないわね」

「そうですよね」

「嘉喜さんは? どうしたいの? 諦めるの?」

「うーん。あきらめるって言うのも違うって言うか……一応婚約者ですし、多分結婚はすると思うんですけど……あ、今の話、内緒で」

 嘉喜と仲の良い実藤が現れて、嘉喜はあわてて言葉を止めた。

「誰にも言わないわよ。何かあったら話聞くくらいできるわよ。それしかできないけど」

 彼女が嘉喜にそう言った。


「なんだかんだ言って、ほっとけないな」

 嘉喜がいなくなった後でからかうようにそう言うと、ふっと笑って「あなたもね」と返された。




 その後も何となく嘉喜の様子を気にはしていたものの、逃げ惑っているときと違って派手なアクションがないのでうまくいっているのかどうかよくわからなかった。


<嘉喜さん、魂抜けてる。今日3人で飲みにでもどう?>

 彼女からそんなメールを受け取って終業後に嘉喜を観察していると、一人で百面相をしながら何か考え込んでいる様子だった。たしかに魂抜けてるな。気付かなかった。

 同じ部署で仕事をしていても気付かないのに、フロアも違う彼女はなぜ気付いたのだろうか。やはり、魔女か。


<たしかに魂抜けてるな。飲み、連れて行こう。あの居酒屋で待ってて>

 彼女にそう返信し、嘉喜に声をかける。

「お前、気付いてるか。ここ、お前の家じゃないぞ」

「か、かちょっ!」

 嘉喜はずいぶんと驚いたらしく、椅子が悲鳴を上げた。

「仕事終わったか」

「終わりました。残りは明日やります」

「そうか。じゃあ早くパソコンの電源落とせ。飲みに行くぞ」

「えっあっはい」

 もたもたしている嘉喜のカバンを持って歩き出す。



「で、まだ悩んでるみたいね?」

 彼女が枝豆をつまみながらそう言った。

 何かちょっと威圧感あるんだよな。

「悩んでるっていうか……悩みたくないっていうか……」

「どういうこと?」

「私、すこぶる能天気な性格なんですよ」


 ああ、それはもう、間違いない。


 明らかに俺は用無しなので、二人のやり取りをぼんやりと聞いていた。ガールズトークとか女子会ってやつは、こういう話を延々と続けるのだろうか。だとしたらすごいな、女って。


 彼女が盛大なため息をついたので俺はふっと連れ戻される。


「距離のことを言ってるんじゃないわよ。あなただって身に覚えがあるでしょう。逃げ回ってたじゃない。顔を合わせるのが怖くて逃げてたんでしょう? 相手だって、そういう瞬間くらいあるかもしれないじゃない」


 珍しく彼女が少し強い口調で話している。


「いやぁ、あの人はそんなのないですよ。いつだって自信満々で、怖がったりしないですよ」


 そんなわけねぇだろ、と心の中で思いながら俺は冷めた声で「へぇ」と言った。

 途端に嘉喜がはっとしたような顔をして押し黙った。


 やべ、ちょっと冷たすぎたか。


「課長、私明日、たぶん会社休みます」


 突然立ち上がってそう言うと、風のように去っていく。その背中に「りょうかい」というと、彼女と顔を見合わせた。


「『ほっとけないな』って言うんでしょ」

「それでお前は『あなたもね』って返すんだろ」

「ご名答」

「それにしてもあいつ、明日会社休む気かよ。後で倉持常務に電話してやろう。『手加減はいりませんよ』って」


 俺がため息をつきながらつぶやくと、彼女は声を上げて笑った。




本編で書ききれなかった(実は忘れていた)、課長と真吾の裏話です。イメージが壊れてしまったらごめんなさい(^_^;)

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