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最果てのセカイ  作者: 喪須田 範太
巻ノ壱 鈍銀(にびぎん)の杖を抱える者
22/38

12月9日-1-11月29日-日常を終わらせると言う事は……

 窓から差し込む冬の温もりに一瞬たりとも気を許してはいけない。気を許したら最後、魂を抜かれて、気付いたら職員室という名の地獄で、先生と言う名の悪魔が手ぐすね引いて待っているのだから……とは、ロースケの言。

 まさしくその通り、今日は一時限目から無暗に心地良い太陽の温もりが、夢の世界の扉を何度か開きかけていた。

 相変わらず胸の痣が痛んだ。その痛みと言う名の蜘蛛の糸を伝い、辛うじて意識を繋いでいる状況。全く持って余談を許さない状況だった。香那女先生は松葉杖を突きながらも、鋭い目で教室を見渡し、テスト前の要点をまとめつつ、授業を進めている。教室は来る期末テストの為か授業中はいつもよりも張り詰め、みんなは各教科の教師が言う言葉を一語一句漏らさないように耳を傾けていた。


 しかし、こういう時の無駄な行動と言うのは全く持って何故こんなにも楽しい物なのだろう……僕は焦りの中で何故か昨日はゲームに嵌り、よりにもよって徹夜を慣行してしまったのだ。後、もう十分……五分……、結局、その十分は今朝まで来る事はなかった……

 睡魔が囁く度にハカナが僕の肘を小突く。

 いや、本当は何も考えない時間を作るのが怖かった。多分、何時も通りベットに入ったとして、一端思い出したテレビの前での殺人事件は、隙があったら僕の頭の中を支配しかねない勢いだった。明確に僕等に関わる物だと示す物は何も無い。だけど、直感が囁く。目を反らすなと……

 だから極力、中毒性と娯楽性が強いゲームを眠くなるまでやりこんだ。何も考えることが出来なくなる程疲れれば、短い睡眠時間でも熟睡出来るかもしれないと踏んだからだったのだが、それが今頃になって効果を現すとは……授業中の睡魔を耐えるのは本当に至難の技だ。瞬きをしたその一瞬ですら油断ならない状況なのだから。


「もぅ……せっちゃんってば、だから一緒に勉強しようって言ったのに」

「うう……ほんと……今回ばかりは反省してるよ……朝は大丈夫だと思ったんだけどなぁ……」


 肉体の限界というか、精神の限界は三時限目が終わる頃に訪れた。突然目の前が真っ暗になり、気がついたら保健室でハカナがあきれ顔をしながら僕に小言をついていた。


「カノちゃんとか少し見習いなよ……あんなに夜遅くまでちゃんと勉強してるんだよ? 学年トップでもだよ? 」

「んー。今日はゲーム機片付けてハカナと一緒に勉強するよ……折角の冬休みに補修なんていやだし……」

「うん。そうと決まったらちゃんと寝ててよね? ノートはとっておくから……突然倒れるんだもん……先生だって心配してたんだよ? 大体せっちゃんは……」


 叱られているのに何故か心地良い。

 ハカナは段々僕達の母親に似てきた。言葉遣いだって、目を瞑って聞いたらそれこそ勘違いする程に……


「分かった……分かったよ。これ以上リピートされたら僕泣いちゃいそうだから……」

「ほんっとに……もぅ……」


 そう言ってハカナは僕の肩に布団をかけ直した。


「お昼休みには迎えに来るから、ちゃんと大人しくしててね? 」


 その言葉に対して僕は黙って目を閉じた。


 辛うじて頷いたと思う。


 とにかく、眠りに落ちるのはあまりにも一瞬の出来事で、そこら辺の記憶は定かではない。次に目を開けたら、ちゃんとテスト勉強をしよう……




――十一月二十九日

 今日はバスケ部の練習試合があるため、何時もより早くお爺さんの家へ出向いていた。道場は何時も冷え込んでいたけれど、今日の冷え方は底冷えと言うに相応しく、体の芯から冷え込む様だ。空は何処までも澄み渡り、雲一つ無いと言うのに……こんな日は決まって良くない事が起こる。


 気を付けなければ……今日の夕暮れ時は、大禍時になりそうだ……


「ハカナよ……反応があった。禍ツヒトが降りたようじゃ……」


 お爺さんはそう言って、魔針盤――魔力を検知する方位磁石の様な道具――を眺め、呟いた。

 私は木刀の素振りを一端止め、お爺さんの方へ向き直ると、険しい表情をしているのが目に入って来る。

 表情の理由は簡単だ。前に倒した禍ツヒトから、それ程時を置かずして、新しい禍ツヒトが降りた事に、大きな災いの兆しを感じたからだ。本来なら、新しい禍ツヒトが現れるまで、半年から一年は間が空く、今回はそれを覆した形となったと言う事は、世界の何かがずれている事を表している。

 更に悪い事に、もう一つの禍ツヒトの影が、魔針盤に映し出されていた。


「はい……おじいちゃん……わかっています……私なら大丈夫」

「……うむ、今回は、まぁ手こずることは無いと思うがくれぐれも注意して行くのだ……すまぬ……器さえあれば……こんな事には……」


 虚神家に代々伝わる、魂に宿す『器』、禍ツヒトを葬り去る時、彼等が残す記憶を納める為に作られた記憶領域の事で、お爺さんが言う器はそれを指していた。ある意味、一つの才能の様な物だ。

 それを持っていない私は、擬似的に器を作り出して対処しているのだけど、術式を受け付けない体質の私には、それを成し得る為に薬と私自身の記憶を触媒として、強引に記憶領域を作り出す。お爺さんが「すまぬ」と言う理由は、術式の危うさと、その為に生じる苦痛を強いる事だと言う事、そして、記憶を失う事のつらさを知っての事だ。それは、私達の母さんが禍ツヒトに殺されてしまった事で、周りの人から母さんの記憶が失われてしまった様を目の当たりにしたお爺さんにとって、殊更堪えるのだろう。

 しかし、それを今更思った所で、どうしようも無い。『器』は、刀に選ばれなかった、せっちゃんに宿ったのだから。


 それに私は思う。


 思い出よりも、未来を見たいと。


「おじいちゃん。私なら大丈夫だよ」


 その言葉を聞いたお爺さんは、私の目を見返す。言葉は無かった。だけど、私の事を凄く心配してくれている事は良く分かる。私にはそれだけで十分だ。

 お爺ちゃん達が、過去に犯しかけた過ちを繰り返さないなら、私はそれで十分だ……




「到着しました……」


 タクシーの運転手が、上の空だった私に声を掛ける。

 言いながら振り向いた顔は、どことなく優しい面立ちが、目尻のシワのせいで、尚更優しそうな雰囲気を醸し出す。型遅れの眼鏡は、上品な銀縁で、しかし、眼鏡の奥の眼光は人の心を射貫く鋭さを持っていた。

 彼も又、虚神家の血を引く人間だ。


「ありがとう、宇須那(うずな)さん」

「いえ……それよりも、お嬢様、お顔の色が優れない様ですが……」

「私なら大丈夫だよ。お爺ちゃんも宇須那さんも少し心配しすぎだよ……」

「しかし……」

「いいの。それよりも、事が済んだらお願いしますね? 」

「……心得てます。くれぐれもお気を付けて……」


 私が一つ頷くと、タクシーのドアが開かれる。冷たい風に頬を撫でられ、私は一瞬首を縮めた。竹刀を入れる袋でカモフラージュされた白鞘を改めて強く握りしめ、雪の上へ一歩ふみだす。私を乗せていたタクシーは音もなくその場から、予定の場所まで移動を始めた。

 車を降りると夕焼けが鮮やかに血を思わせる様に紅く、時間が経つに従って空の彼方から夕焼けの赤が勢いを増して青空を浸食して行く。冷たく張り詰めた空気の中、私は大きく息を吸い込んだ。

 学校帰りの学生の中にその人を見つけるのは容易く、私は直ぐさま対象の後を歩き始める。三十代前半と思われる彼女の足取りは重く、疲れた表情で歩き続けていた。

 途中の交差点で赤信号に足止めをされ、待ち時間の間に胸ポケットから次の営業先を書いた手帳を開く。営業周りなのだろう、随分気を遣う仕事なのか、次の営業場所を確認すると、溜め息を漏らしていた。ふと、話に花が咲いた女子学生が横に並ぶと、手を休めて、懐かしげにその様子を眺めては、昔の自分を思い返していたのか、心なしか表情が柔らかくなる。

 しかし、右の首筋からは、禍ツヒトの核が露出し、僅かだが妖気を放っていた。十一月の終わり頃に見た物とは比べる事すら出来ない程小さく、か弱かった。妖気は鮮赤(せんせき)ではなく、黒みを帯びた赤……と言うよりも、僅かに赤みを帯びた黒色で、どことなく違和感を感じたのだけど、それは間違い無く禍ツヒトの物だった。

 無防備な背中を目の前に、一刻も早く事を済ませたい自分をなだめつつ、機会を待つ。日本人を切るのは初めてだ。同じ土地に住む分、流れ込んでくる記憶は恐らく今まで以上に私に強い影響を与える事を覚悟していたのだけど、それでも、時間が経つ毎に、彼女を見れば見る程に、躊躇してしまうかも知れない自分が居た。


 情が沸く前に、やらなきゃ……やらなければ、せっちゃんが……


 信号が変わり、人混みが流れ始める。私は意を決し、彼女へ近づき、奥歯に仕込んだ丸薬をかみ砕く。人目が多い、でもそんな事は関係無い。鯉口を鳴らしてしまったら、僅かな時間とは言え、世界から切り離される私を認識出来るのは、刀の力の源と同種の禍ツヒトだけになるからだ。


 交差点の真ん中で足を止める。それでも私を避けて人混みは流れ続ける。鯉口を鳴らすまでも無く、まるで、私がここに居ないかの様に誰も私を気にしてはいない。

 静かに鞘袋を紐解き、柄の辺りを握りしめ、鯉口を鳴らした。

 辺りの時間の流れは急速に勢いを失っていき、私の体は痛みと熱と、漲る力で充実していく。空気が体にまとわりつく様に重い。


 後三歩……二歩……


 その時、彼女が私の気配に気付き、振り向く。


 目が会ってしまった……


 化け物でも見つけたかのような怯えた目で私を見ている。私は奥歯をかみしめ、その目を睨み付けた。

 そうでもしなければ、見逃してしまいそうな私がそこにいたからだ。だから、私は鬼になった。

 大きく足を踏み出し、体が刀の妖気で満たされている内に、私は鞘から刃を弾き出す。赤い菖蒲(アヤメ)の様な花びらが一枚、宙を舞った。いや、それは花びらの形を成した禍ツヒトの欠片だった。それは抜刀してから鞘に収まるまでの僅かな間に、地面に着くことなく溶けて消えた。


 私はそのまま振り返る事無く、人混みに習い歩き続ける。背後で彼女の倒れる音が聞こえ、それから少し間を置いて、賑やかだった喧噪は悲鳴に切り裂かれた。


 強烈な頭痛が私を襲う。禍ツヒトの記憶が、収まる場所を探して私の中を這いずり回っている。遠目に宇須那さんのタクシーを見つけると私は足を速めた。


 おかしい……いつもより何かがおかしい……


 そう思っていると、私の様子に気付いたのか、宇須那さんは急いでタクシーを降り、此方に向かってくる。交差点を渡り終えた所で私の記憶は途絶えた。


 遠くに光が見える。

 ああ……これは夢……かな……いや、彼女の記憶……


 光を抜けると、彼女の母親と父親が笑いかけていた。私の記憶にもある風景……あまりにも鮮明で懐かしくて、胸が締め付けられた。

 熱を帯びた眩しい木漏れ日、むせ返る様な芝生の香り、蝉の鳴き声に紛れ、綾女(あやめ)と呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。彼女は綾女と言う名前だったのだろう。

 自宅の庭で、小さなビニールのプール、父親は膝まで水につかりプールのなかで彼女と遊んでいると、活発そうな母親に水をかけられてしまった。どうやら庭の木に水をやってて誤ってかけてしまったようだ。綾女さんが笑うと父親も母親もつられて笑って、とても楽しそうだった。


 これは……初恋の記憶だろう。

 学校の下駄箱の前で誰かを待っている。手に持っているのはチョコレートの様で、多分バレンタインデーなのだと思った。貰った男の子は嬉しそうだったのだけど、そんな男の子の表情も見ないまま、その場を立ち去ってしまい、男の子は呆然とその場に立ち尽くしていた。


 高校の受験らしき風景、綿入れを羽織り、見覚えのある数式、覚えきれない苛立ち、私も私自身の経験としてよく知っている。綿入れは私も良く知っているアニメのキャラクターの絵が入っていた。作りが少し雑な所を見るに、多分自分で作ったのだろう。

 電気ストーブが足下に置かれて、写真立てにはあの男の子の写真が入っている。ココアの香り、気分転換につけたラジオからは当時の流行の曲がながれていた。


 そして始めての挫折……

 大学の合格発表……彼女の番号は張り出されなかった。落ち込む彼女を少し白髪交じりの父親が肩を抱いて「次があるさ」と言ってくれた。心が救われた気がしたけど、なぜかその優しさを素直に受け入れる事が出来ず、数日は部屋に引きこもっていた。あの男の子の写真は机の上から姿を消していた。


そうして、延々と彼女の歴史が頭の中で映し出されていった。


 せっちゃんに似たあの子を切った時に見た記憶は、どれも私の日常から離れている物で、ある意味、その事に私は助けられていた。

 だけど今回は違う。言葉も考え方も、彼女の記憶全てが、私の心を強く揺り動かす。

そして私は、この人を殺してしまったのだと、改めて実感した。平凡で、平和で、僅かな幸せをつかみかけた彼女を私がこの手に掛けてしまった……

 私が正義と信じて行う事は、人殺しと何ら変わりは無いのだろうか、夢の中で自問自答し続けた。


 随分と長く眠っていたように感じられたが、それ程時間は経っていなかった。後部座席の窓から、煙草を吸う宇須那さんの背中が見える。時計は事が済んでから一時間も経っていなかった。

 軽い目眩を覚えながらもタクシーのドアを開き、地面に足を付ける。それを見て、宇須那さんは携帯灰皿に煙草の火を押しつけ、パタンとたたんだ。


「もう、大丈夫なのですか? 」


 私は一つ頷く。


「せっちゃんが待っているから。私、いかなきゃ」

「では、セツナ様のアルバイト先まで……」

「いいの。何か少し、歩きたい気分だから」

「しかし……」

「大丈夫だよ。でも、ありがとう」

「……はい……」


 心配そうに私を見送る表情は、私のお祖母さんにそっくりだ。

 しかし、私はその表情が、禍ツヒトを狩る者が居なくなるかも知れない不安なのか、それとも私の事を心配しているのか、今は分からなくなってしまっていた。


 夜になると、一度考え始めた事が殊更私の頭を支配した。明かりを消し、暗闇の中で一人、天井を見上げながら脳裏に焼き付いてしまった、綾女さんの今際の際の表情を思い出す。

 人を見る目では無く、化け物を見る様な目つき、私は化け物になってしまったのだろうか……

 何度振り払おうとしても、払いきれなかった。

 居たたまれなくなった私は、枕を抱え、せっちゃんの部屋をノックする。中から気のない返事が返ってくると、どこかホッとした。

 私は、聞いているのか居ないのか分からなかったけど、身近で明るい話題をと、恋愛話を持ちかける。正直、恋愛話は好きでは無い。

 それでも、せっちゃんが話に乗ってくれると、私は饒舌になってしまう。


 なぜだろう……


 こんなに楽しく話しているのに、恋愛話は何処か切ない。胸の奥がチクチクと痛い。

 気がついたら私はせっちゃんのベッドで寝ていて、せっちゃんは、毛布にくるまって、ゲーム機のコントローラーを握り締めながら眠っていた。体を起こしながら眠っている為、バランスを崩しそうになる度、体がピクリと反応して状態を維持するのは、さすがだと思った。


さすがせっちゃん……どこでも寝れるね……


 暖房のタイマーが、延長を促す。私はベッドから降りると、暖房のボタンを押し、せっちゃんの膝に頭を下ろした。

 今は滅多に無い膝枕のチャンスだ。起きている時は恥ずかしがって絶対にやってくれないけど、膝枕は心地よくて何時もやって欲しいって思う位、心地良い。


「ん……」


 せっちゃんは体のバランスを崩すと、私の足に頭を落とした。


「んがっ……」


 鼻を思い切りぶつけたのにも関わらず起きる様子は無い。さすがだ……

 兄姉で違いに膝枕をしている様子に何となく滑稽で、おかしくて、思わず笑いがこぼれる。そうして私はようやく眠りにつく事が出来た――




「ハカナ? ハカナ!」


 昼休みも半ばだった。

 僕は寝苦しさを覚え、胸元に目をやるとハカナが僕の元で突っ伏して眠っていて、かわいそうだと思いつつも空腹を満たしたい欲求から起こさざるを得ない状況にいた。


「はーかーな!」

「ん……んん? 」

「んーじゃなくてさ、起こしてくれなきゃ……ああ……もうパン売り切れたかなぁ……」

「そう言うと思って買っておいたよ。せっちゃんの好きな奴」


 ハカナは眠そうな目を擦りながら笑った。朧気ではあるけれど、夢の中で見た様な気がするハカナの悲痛な表情がどことなく重なる。


「この前せっちゃんにコロネ買って貰っちゃったから、そのお礼だよ」


 そう言って紙袋を取り出した。唐揚げバーガーとイカフライバーガーの匂いが保健室の中で広がった。僕は保健室で食べ物の匂いは不謹慎な気がしたのだが、それでも好物の匂いはたまらない物がある。


「今から教室はちょっとアレだし、学食いこうか? 」


 僕はハカナをつれて学生食堂の隅でオレンジジュースとコーラを買って陣取り、ハカナが取り出した紙袋を開いた。粗野で、爽やかで甘いソースの匂いが胃を刺激する。唐揚げバーガーとイカフライバーガーは女子には人気がいまいちだったが、男子生徒には兎に角人気絶大で、普通にこれを手に入れるのは至難の技だ。購入しようと思ったら、昼休みが始まった瞬間、教室を出ないと先ず手に入れる事は出来ないはずで、要領を得た僕ですら三回に一回は購入に失敗する。

 まぁ、ハカナは僕よりずっと足が速いので、多分、へまはしないだろうけど、それでも授業終了と同時に教室を駆け出る姿を想像すると、今までそんな事が無かったからか、想像した姿と何時もの生活態度のギャップが滑稽で思わず吹き出しそうになった。


「どうしたの? せっちゃん? 」

「いや……さ、やっぱり授業終了と同時に教室抜けたのかなって思って……」

「そうよ? こう見えても私、やるときはやるんだから!噂には聞いていたけど凄かったよ……カノちゃんも居たんだけどね、カノちゃんなんて普段見せないような必死な顔しててさ、それでも男子を押しのけて二つずつ位買ってたみたいだったよ」

「ええ? カノがいたんだ? 」

「うん。あと、ろー君は一番だったよ。授業サボって売り出すの待ってたみたい……」

「ははっ。あいつは学校自体サボっても昼飯時は何故かあそこにいるからなぁ」


 それを聞いてハカナは肩をすくめた。


「ふふっ……ろー君らしいね。ゴメンね? 今日はお弁当つくれなくって……」

「いや、良いよ。試験前だしさ、僕も少し頑張らないとなぁ……」

「ホントだよ……せっちゃん!」

「ん? 」

「がんばろうね!? 」


そう言って笑ったハカナの顔は相変わらず寂しかった。

おかげで何とか午後の授業は寝ずに済んだ。ハカナは時々僕を監視するようにして此方をチラチラと見ていたが、睡魔に襲われていないのを確認すると嬉しそうにして教科書に目を落とした。

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