第3話 頼れる闇医者
淳吾と海女が立ち直る間も無く、大和の言う『ヤツ』のところへ行くことになった。防護服に身を包み、無言で外を歩く。外には遺体が転がっていて、虫が群がっていた。
「ここだ」
大和がそう言った。そこにはコンテナを改造した小さな小屋のようなものがポツンと立っていた。
「ここにいるの?」
信司は大和を見て言った。
「ああ。ヤツは変人だ。・・だがヤツの頭脳は本物だ」
大和はそういってドアに近づくと、四回ノックした。
「・・ルーク。大和だ」
そう言うとカチリと鍵があいた音がした。大和が中に入っていったので、三人も後に続いた。
中は大和の研究室とさほど変わりはなかった。昨日したように消毒を済ませると、短髪の眼鏡をかけた青年がデスクに向かっていた。そして四人の方を向くと、ニコリと笑って言った。
「話は聞いてるよ。君がヤマトの従弟の信司くん。で、彼が淳吾くん。横に居る女の子は海女さん、だよね?僕の話は聞いてないだろうから自己紹介させてもらうよ。僕は武井路加。誰かがネットで聖ルカ福音記者が何とか言ってて、まあよく分からないけどルークって呼ばれてるんだ。宜しく」
「おいおい、大事なことを忘れてるぞ。お前は闇医者だろうが」
ヤマトの発言に路加は困ったように笑って言った。
「だって、あれを受けたところでダメな医者はダメなんだよ。僕はあんなもの意味ないと思ってね。でも安心してよ。医学部は出てるし」
路加の発言を疑問に思った淳吾が口を開いた。
「ん?でもさ、こんなに目立ったのに闇医者がいるって、すぐバレちまうんじゃないんスか?」
ヤマトが面白がるように笑って言った。
「実際こいつは国にバレてるよ。何で捕まってないか、分かるか?」
「・・ワクチンを開発したのがルークだから?」
信司が右手を挙げて言った。路加がおっ、と言って笑った。
「その通りだよ。実は他にも理由があるんだけど、シンくん、分かる?」
信司は少し考えて言った。
「確か数ヶ月前まで総理は『再発膵がん』だった。治療が難しいがんだった。・・なのに今は政界に元気いる・・・。ルークが、治療を・・・?」
おぉっ、と言って路加は手を叩いた。
「お見事。ニュースをちゃんと見てるんだね。素晴らしいよ。その通り。僕が彼の治療をして成功した。だから国は目を瞑っててくれるんだよ」
「確かに素晴らしい。・・だが、まずこいつらにワクチンを打ってやってくれ。時間がないのはお前も同じだろう?」
路加は肩をくすめて言った。
「わかったよ。ヤマトの分は隣の部屋のクーラーボックスに入れているよ。一本適当にやっといてくれ」
「?ヤマトさんはどうするんスか?」
淳吾が眉をひそめて言った。
「俺は自分で出来るさ。少し医学をかじってたんでな」
そう言うと、ヤマトは隣の部屋へ消えた。
「あの、何でルークさんは全く分かれへんウイルスのワクチンが作れたんです?何で短期間で・?」
ルークは手早く海女に注射を打ちながら言った。
「・・ある人に頼んで国のサーバーを覗かせてもらったんだ。・・・普通の国家の資料があって、一部に何か覆い隠されているところを見つけてね。解析してもらったらウイルスについてのデータがあった」
淳吾が驚いて言った。
「え!?じゃあ国はウイルスの存在を知ってたってことスか!?何で国はワクチンがなかったんスか!?」
ルークはワクチンを打ち終えて首を横に振りながら言った。
「分からない。けど彼女が、・・僕が国のサーバーを覗くのを成功させた人だよ。彼女が言うには、外から接続して、サーバーに誰かが書き込んだ可能性もあるらしい」
淳吾が首を振りながら言った。
「一体何のために?」
「わからないよ。けれどその人が普通じゃない頭脳を持っているのは確かだ。・・誰にも気付かれずに国のサーバーへ接続し、データを加える。その方法は誰にもわからない。・・・その人に目的を聞くしかないだろうね」
信司は二重になった窓から外を見た。
青かった。
いつもどおりに。
空は
青かった。