表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Why Don’t You Fight?  作者: 吉本 光
2st Day 混乱の日
5/7

第2話 戦う覚悟

 「本気でそう思っているのか?」

大和は厳しい顔で言った。その中に不安が揺れているのを、信司は見逃さなかった。

「どうしてですか?」

大和は目を細めて言った。

「お前達の家族のことだ」

海女はハッとして目を見開いた。瞳が揺らいでいる。

「だ、大丈夫です。家が遠いし、友達と一緒にいるから大丈夫ってメールすれば・・・」

「無理だ」

大和はそれを遮って言った。

「何でだよ!?俺達は決めたんだ!絶対に世界を、いや、皆の笑顔を取り戻すって!!」

「話を聞け」

大和の目が冷たく光った。情は・・消えていない。

「家族の安否、だな」

信司は大和の目を捕らえて言った。大和がコクリと頷く。

「生き残った人々もいる。病院に感染せずたどり着き、ワクチンを打った人間だな」

淳吾を見た。目の焦点があわず、迷子になった子供のように揺らいでいる。

「どういう・・・ことだよ・・・?」

「ワクチンを打った人々の名前は記録してある。そのデータがさっき届いた」

海女が小さく嘘やろ、と呟いた。

「その中に、二人の両親の名前がなかった」

そういうことだ、と大和が言った。


 海女と淳吾の目が大きく見開かれた。話から悟ったのだ。両親の今を。

「ちょ、ちょっと、待って」

海女が未だに焦点の合わない目をしながら言った。

「アンタらは?アンタらの両親は・・・どうなん・・・・・?」

「とっくに蒸発しちまったさ。シンの両親は火事が起こったとき死んだ。小さかったシンを置いて。」

淳吾が絶望したように頭を抱えた。海女が床にペタンと座り込む。

「戦う覚悟はいい。でも、親がどうなったか、ちゃんと知るべきだ」


 「大和」

信司は苦しみを抱える二人を見つめながら言った。

「何だ?」

「一度二人を家まで送る。それで・・・戦う覚悟が決まれば、またここに来る」

「二人の覚悟が決まらなかったら、お前はどうするんだ?」

信司はぼんやりと部屋の隅にあるゴミ箱を見つめた。そして首を振って言った。

「わからない。忘れたい風景が、消えなくて」

大和が小さくすまなかった、と謝った。信司は手をひらひらさせてそれを制止した。

「いいんだ。きっと、いや、絶対消えないと思うから。いつか向き合わなくちゃいけなかったんだよ」


 どうしたらいい、と淳吾は自分に尋ねた。俺は、どうしたらいい。

―その中に、二人の両親の名前はなかった。―

死んだのかよ、親父も、母さんも。どうすればいい。二人が死んだら、俺に何ができる?

世界を、守れるのかよ?こんなにも、無力なのに?こんなにも・・・・・・。


 嘘や、嘘や、嘘や。そう海女は叫んでいた。名前がない?そんなの、漏れていただけかも。

でも、大和さんの情報は唯一の綱。この綱を疑ったら、進めなくなる。

目を閉じると、家族の顔が浮かび、苦しくなって目を開けると、現実に叩きつけられる。

―両親の名前はなかった。―

大和の声が海女の中でこだまする。

死んでいたら、戦えるだろうか?苦しくて、戦えないと思った。けれども、それと同時に、信司たちと立ち向かいたいという思いもあった。全てが、遠い。こんなに近いのに、けれども、遠い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ