第1話 2つのニュース
東京医科大学病院は実際に存在しますが、全く関係ありません。
信司は日が昇ってすぐに目を覚ました。不安で、どうしても眠ることができなかったのだ。淳吾と海女の前では冷静でいてみせたが、本当は一番心細く、叫びだしたかった。最後にここに来た時に大和からもらったノートパソコンは今も健在で、環境も整っていたから、インターネットに繋ぐことができた。カバンをごそごそと探り、iPobからイヤホンを抜き、パソコンに接続する。そしてニコニコ動画にアクセスし、最後にアップされたニュースを見る。
―どういうことでしょうか!?次々と、人々が倒れていきます。なんらかの病魔が我々に牙を剝いたのでしょうか?
―こちらは東京医科大学病院前です。ごらんのように、大勢の方々が、医師の診察を受けようと押し寄せています。
どれも分かりきった事だらけだった。死亡した人数も分からない。インターネットは大して役に立たないようだ。
しばらくすると、淳吾と海女が起きてきたので、簡単に情報を伝えた。2人は何も言わず真剣に話を聞いた。
「そんなことなってるなんて・・・。どないしたらええんやろう・・・?」
と海女は小さく呟いた。これからについてああでもないこうでもないと話し合っていると、大和が強張った表情をして戻ってきた。
「ヤマト」
大和は疲れた表情をしてため息をつくと、ぽつりぽつりと話し出した。
「・・いいニュースと悪いニュースがあるが・・・。どちらから聞きたい?」
「いいニュースから頼むよ」
信司がそう言うと、大和は頷いて言った。
「ウイルスに対抗できるワクチンができた。だが、注射をしなければ意味はないし、そのワクチンは弱いから、整った環境でなければ何にもならない」
信司は淳吾と海女の顔を順に見ると言った。
「悪いニュースは?」
ワクチンは様々な医療機関で製作され、ウイルスの騒ぎは沈静化されていった。しかし、今度は次々に人が動物に襲われるという事件が発生したという。動物園の檻は何者かに破壊され、動物は狂ったように人間を攻撃する。これが全世界で発生しているそうだ。
「そんな・・・」
「私達、どうしたらいいんですか!?」
うろたえる淳吾と海女を、大和が手で制した。
「とりあえず、まずワクチンを接種しよう。知り合いがいる。そいつに頼めばいいだろう。そこまで歩かなきゃならないが・・・。それが済めば、お前達は好きにすればいい。家に帰ってもいいかもしれない。・・安全な場所なんて、もうなくなっちまったからな・・・」
淳吾と海女が暗い表情になった。信司が顔を上げて言った。
「俺は、真実を知りたい」
淳吾がえ?と言った。
「どういうことだ?シン?」
「そのままだ。俺は何故こうなっているのか、真実を暴く。そして・・・どうにか道を探し出すさ」
私も、と海女が言った。
「私も、どうなっているのか、知りたいです!皆を、皆を助けたい!!」
「俺だって・・・怖いけどさ・・。でも、それでも知らなきゃならないはずなんだよ!!」
初めてだった。こんなにも、心が通ったのは。これを思い出すと、今もふっと笑ってしまう。