第二十三話
きらめくお日様。真っ青な空。
暑い日が続くとはいえ、既に十月。時折吹く風は、それなりに涼しい。
日差しに照らされれば、鬱蒼と折り重なる木々の葉も、森の宝石箱へと変化する。
風が吹く度にキラキラ揺れる、木漏れ日の一つ一つがとても綺麗だ。
「うーん。今日もええ天気じゃのぉ」
額から頬へと流れおちる汗も、爽やかな視界と合わせて見れば、実に健やかで、良い物である。
輝く水色の瞳を嬉しげに細め、ゲノムは天を仰いだ。
「・・・ふぁ」
心地よさのあまり、だらしなく開いた口元からは欠伸が零れ出る。
「よし・・・あと少しじゃ。もう直に完成する。カヅキ殿もさぞかしお待ちかねじゃろうて。急がねば・・・の」
そう呟いたゲノムは、エヘンと咳払いを一つ。
土に汚れたアルフィーの頭部を、改めて被り直し、目の前にある壁・・・もとい、その下で口を開けている大穴に向かい合った。
時刻は既に八時。
ゲノムが侵入に成功してから、はや一時間といったところである。
校内を巡回する人間の多さに、舌を巻いたゲノムは、この一時間、ひたすらにトンネルを掘り続けていた。
それはつまり、人間一人が通るに不自由しないサイズの、校内と外部をつなぐための通路だ。
校内の出発地点は、最も巡回の少ない中庭に決定。ここから最寄りの道路までの道のり、およそ三百メートル。
・・・いくら神がかりとはいえ、ゲノムがこの作業に苦労しないわけがなかった。
「さーて、もうひと踏ん張りじゃ♪」
一見、穴掘りを楽しむ幼児の姿にしか見えないゲノムだが、その身体は既に疲労困憊。
アルフィーだって、もとの白さを忘れて、すっかり泥んこになってしまっている。
トンネル堀の道中、ゲノムが誤って警備員の巡回する校庭に頭を突き出してしまうことがあったが、
泥だらけのゲノムを見た警備員たちが、抱いた感想は皆一緒。
「うわぁ。でっかいモグラだなぁ」
こう表現されてしまうほどに、高級テディベアは台無しになってしまっていたのだ。
「ふふ・・・カヅキ殿も、このトンネルには感激するじゃろうなぁ」
頭のてっぺんまで土につかり、ゲノムは笑う。
ゲノムには記憶がない。自分が何者なのかもわからない。
ただ唯一、自分のことで断言できることがあるとすれば、それはカヅキに寄せる好意だろう。
ゲノムはカヅキのことが好きだった。
カヅキは、身寄りのない自分を拾ってくれた人間であるし、性格も素直で面白い。
それになにより、カヅキと一緒に居る時、ゲノムは奇妙な安心感を覚えていた。
ずっと昔から会いたかった人にようやく出会えたような。自分の真の保護者に出会えたような・・・
ゲノムがカヅキに対して感じるものは、そういった感覚なのだ。
カヅキと一緒なら、あの恐ろしいアシアト共も怖くない。
カヅキと一緒なら、なんでもできる気がする。
「んっせ、んっせ♪」
だからゲノムは、疲れ切った体に鞭打ち、頑張る。
「カヅキ殿のためなら~えんやこら~♪」
謎の応援歌を歌ったりもする。もう、最強だ。
そんなこんなで、かかること五分。
ゲノムはついに、麹町中学校発、路地裏のゴミ捨て場行きのトンネルを貫通させた。
あとは、穴の上に、底のないポリバケツを置いて、完成だ。カモフラージュも完璧である。
「さて・・・あとはカヅキ殿を呼びに行くだけじゃが」
テディベアの姿のまま、ポリバケツの蓋の上にちょこんと座り、ゲノムは呟く。
「・・・カヅキ殿は・・・どこじゃ?」
きょろきょろと首を動かしてみるが、ここから確認できる範囲にカヅキはいないようだ。
少し遠出してしまったのかもしれない。
――・・・仕方ないのぉ。
泥だらけのアルフィーの裏で、ゲノムはそっとため息。
次の瞬間には気合い一発、空高くジャンプし・・・そのままふわり浮かび上がる。
「待っておれ!カヅキ殿!」
既に、先程カヅキから受けた注意など頭にないらしい。
泥だらけのくせ、律儀にテディベアの態勢を整えたゲノムは、そのままふわふわと空中移動し・・・
世界の神秘的な光景の一つとして、通行人の目に止まり続けたのだった。
・・・
はい。ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
本日はここで打ち止め・・・ですね。はい。
スランプ中にしては・・・頑張ったほうでございます。
時間がたって読み返した時に荒が見つかる可能性あるんですが、
少しでも楽しんでいただけたなら幸い。
次回更新は未定です。
スランプ中ゆえ、テンション次第で書けたり書けなかったり・・・
いやもう本当マジで、
こんな作者を応援してやるぞって方、
いいから続き読ませろよって方
一言コメントとか、評価とかしていただけるだけでかなりテンション違います。
どうぞどうぞ、よろしくです。
ではでは、次の更新でお会いしましょう!