ep.11【パターン化された覚醒シーン】
輝きが満ち溢れると同時に、僕の視界は闇に転落していた。
――・・・を・・・呼べ
自分の手足すら確認出来ないほどの真っ暗闇の中、誰かが僕に囁いている。
――助かりたいのなら・・・私の名を呼ぶのだ。カヅキ・・・
囁きの主は僕の名前を知っているようで、意味不明の命令を発してくる。
そう、意味不明。何が何だか理解できない。
――呼べ、カヅキ。私の名は・・・
なのに僕は確信している。この囁きの主は、僕にとっての正義の味方だ。
あの巨大でよくわからない恐ろしい影に打ち勝つ力を、この囁きの主は持っているのだ。
・・・ならば呼ぼう。その名前を。そこに救いがあるというのなら、呼ぶしかないじゃないか。
――私の名前は・・・「パン☆ドラ」だ
「呼べるか」
咄嗟に口をでるつっこみ。未知の何かに向かって、よくもまぁ堂々と言えたものである。
この勇気には、我ながらビックリだ。
「・・・ていうか発音できるか。そんな謎の記号を含んだ単語」
どなたか僕に、星マークの正しい発音を教えてください。
目の前に迫る恐怖から僕を救う救いの手が、こんなにも掴みづらいものだとは思わなかった。
――真ん中の星は、「つのだ☆ひろ」の星マークと同じ意味だ・・・
「・・・だから、どんな意味なんだよ!」
何、このデジャヴ。僕つい最近、これと同じ突っ込みした気がするよ?
「つのだ☆ひろ」ここに来てまさかの大流行である。
――楽しげで、可愛い感じで呼んでくれればいいんじゃない?
「キャラ変わってるよ!ていうか、より一層解りにくいよ!」
「・・・のう・・カヅキ殿。とりあえず呼んでやってみてはくれぬか?」
不意に、脇の下からゲノムは語る。
・・・・そういえば僕、ずっと彼女、はさみっぱなしだったんだ。
視界を包む闇のせいで、その姿は確認できないが、この美幼女多分おそらく、今現在、笑いを堪えている。
「とりあえず・・・ぶふぉ・・・言うとおりにせねば・・・くはっ・・・現状は変わらぬ・・・もっふぇ」
このどシリアスな恐怖の中枢にいるらしき存在であるはずなのに、なんという気の緩みっぷりだろう。
半笑いのゲノムの声は、この謎の雰囲気を台無しにする効果を発揮した。
「・・・ああもう!ちくしょう、わかったよ!呼べばいいんだろ!?呼べば助けてくれるんだろ!?」
――うむ・・・その通りだ・・・
半ば自棄になり、僕は言う。現状から脱出するためだ。この際、多少の無理はやってみよう。
・・・ええと、楽しげで可愛らしい感じ・・・ってどんな感じなんだよ。
「・・・パン♪ドラ!」
――・・・惜しい。もうオクターブ高い声で!
僕の精一杯を前に、飛んでくる理不尽なリテイクの声。
「カヅキ殿!ガンバ!」
そして応援するゲノムの幼児声。・・・どうでもいいけど、ガンバは古すぎるよ。お前本当は何歳だよ。
「・・・ちっくしょぅ・・・なんでこんな恥ずかしいこと・・・」
顔面を火のように熱くしながら、僕は再チャレンジを試みる。
「パン☆ドラ!」
・・・あれ?今のこれ、ばっちしじゃない?言えたよ、僕、言えた!
―――・・・次、もうちょっと甘える感じで呼んでみようか
「カヅキ殿っ!今度は『ぱんどらぁ~☆』って言ってみ?『ぱんどらぁ~☆』って!」
・・・そんな僕の会心の一言に、飛んできたのはまさかのリテイクである。
ていうか、なんで意気投合してんだよ。この「リアル世界不思議発見!」どもめ!
「・・・いいから僕を助けんかぁああああい!!」
僕は叫んだ。それは心からの怒りである。
だってなんだか、僕の純真を弄ばれた気が、すごくしたのだ。
――・・・っち。しかたねぇな
「今回はここまでにしておいてやるのじゃ」
そして視界は元の田舎風景へ。
否、目の前にいた筈のあの巨大な化け物の姿がない。
「・・・っ!?」
「リアル不思議発見!ズ」が最後に残した言葉が、若干悪役の捨て台詞っぽかった衝撃すら忘れてしまうほどに、僕は現状に驚愕した。
巨大な化け物はもう、目の前にはいなかった。
僕の左ポケットから伸びる黒い煙に絡めとられ、苦しそうに宙をもがいていた。
『っくそ・・・・まさか・・・キサマ・・・「キボウツキ」かっ!』
影は息も切れ切れに、真っ赤な口を歪ませる。
心なし、全身を覆う闇の色が、薄くなっているような気がする。
『ゲノムめ・・・スデにカワりをツクっていたのだな・・・ニンゲン!』
「・・・っひ!」
宙に浮かぶ邪悪な瞳に睨まれ、僕は反射的に姿勢を正す。
『まさにアワレ!「キボウツキ」となりしモノ、スデにオノレにあらず!ゲノムのテにオちたそのミを、ノロうがいい!』
そう言って、化け物は消えた。
まるで青空に溶けるように自然に、化け物の姿は透きとおり、そこら一帯に分散し、消滅した。
そしてそれと同時に、化け物を覆っていた煙は、黒く宙を舞い、シュルシュルと音を立てて、僕の左ポケットへと戻って行く。
「・・・な・・・」
咄嗟に左ポケットを抑え、僕は乾いた喉を震わせた。
「なんなんだよ・・・コレ」
ヘナヘナと、僕の腰から下は砕け落ちる。
「あいたっ!」
僕に抱えられていたゲノムは当然、僕の膝と共に地面に打ち付けられる形に。
「酷いのじゃ、カヅキ殿!座りたいのなら、その前にわしを開放してくれぬと・・・」
鼻を真っ赤にして、その小さな拳をプンスカ振り回す目の前の幼女。
その姿は相変わらず、大層可愛らしい。でももう、僕は騙されない。
・・・ゲノムはどうも、ただの人間ではないらしい。
「・・・お前、何者なんだよ・・・」
今更ながら、僕は問う。
「そんなこと。わしにもさっぱりわからぬわ」
困ったように首をかしげ、ゲノムは答える。
そうこれこそが、僕と、謎の記憶喪失美幼女ゲノムとのファーストコンタクトだったのだ。




