送迎は誰の役目?
西園寺家で迎える、はじめての朝。
目が覚めた瞬間、天井の高さに一瞬だけどきっとする。
(あ、そうだった……ここ、豪邸だった)
制服に着替えてダイニングへ向かうと、すでに全員揃っていた。
……早い。
「ひより、よく眠れたか?」
「うん、玲央お兄ちゃん」
玲央お兄ちゃんは静かに頷く。
「初日は緊張で疲れやすい。無理はするな」
伊織お兄ちゃんが淡々と付け加える。
「固いって。ひより〜、楽しもうよ」
日向お兄ちゃんがにこっと笑う。
「トースト、もう一枚いる?」
蒼お兄ちゃんが優しく聞いてくれる。
「……牛乳」
海里お兄ちゃんが無言でコップを差し出した。
朝から過保護が渋滞している。
朝食を終えて玄関へ向かった瞬間、私は固まった。
黒塗りの車が三台、並んでいる。
しかも全部エンジンがかかっている。
「えっと……?」
「ひより、こっちだ」
玲央お兄ちゃんが当然のように一台のドアを開ける。
「待って。今日は俺が送るって言ったよね?」
日向お兄ちゃんがすぐに割り込む。
「合理的に考えれば僕が適任だ」
伊織お兄ちゃんが冷静に言う。
「初日は緊張するよね?僕が隣にいるよ」
蒼お兄ちゃんが穏やかに参戦。
「……同じ学年なんだけど」
海里お兄ちゃんがぼそっと言った。
私は車と兄たちを見比べる。
「みんなで一緒に行けばよくない?」
ぴたり、と全員が止まる。
「それは却下だ」
玲央お兄ちゃんが即答する。
「どうして?」
「ひよりの送迎は重要な役目だからだ」
全員が頷く。
そんなに大事?
「じゃあ順番制にする?」
私が提案すると、一瞬だけ真剣な空気になる。
「……初日は俺だ」
玲央お兄ちゃんが静かに決める。
「帰りは俺ね〜」
陽気に日向お兄ちゃんが言う。
「迎えは僕が」
淡々と伊織お兄ちゃんは言った。
「放課後は僕が案内するね」
蒼お兄ちゃんは微笑む。
「……俺だって」
海里お兄ちゃんが小さく言った。
母は玄関でにこにこしながら手を振る。
「仲良く順番にしてあげてねぇ」
順番制、らしい。
結局、今日は玲央お兄ちゃんの車に乗ることになった。
門をくぐり、白く大きな校舎が見えてくる。
「ここが、西園寺学院」
車が止まる。
同時に、左右から他の車も滑り込んできた。
ドアが開く音が重なる。
そして――
ざわっ。
「玲央様……!」
「伊織様もいる!」
「日向くん!」
「蒼くん!」
黄色い声があちこちから上がる。
気づけば、校舎前に自然と人の列ができていた。
左右に分かれた女子生徒たち。
まるで花道。
「……なにこれ?」
私が小声で言うと、
「非公式だ」
伊織お兄ちゃんが静かに答える。
「ファンクラブ」
日向お兄ちゃんがあっさり言う。
「気にしなくていいよ」
蒼お兄ちゃんが微笑む。
「……無視しろ」
海里お兄ちゃんがぼそっと言った。
五人が自然と私を囲う位置に立つ。
ざわめきが一段強くなる。
「え、誰?」
「あの女何者?」
「囲われてる……」
囲われてる?
「行くぞ、ひより」
玲央お兄ちゃんが歩き出す。
花道の中を進む。
左右から視線が突き刺さる。
でも、不思議と怖くない。
前も横も後ろも、お兄ちゃんたちがいる。
職員室前に着くと、先生たちの視線まで集まる。
「西園寺ひよりです。今日からよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「では、教室へ案内しますね」
担任の先生が言う。
その前に。
「ひより」
玲央お兄ちゃんが呼ぶ。
「緊張しなくていい」
伊織お兄ちゃんが小さく頷く。
「楽しんで」
日向お兄ちゃん。
「無理しないこと」
蒼お兄ちゃん。
「……」
海里お兄ちゃんは無言だ。だが表情は柔らかい。
胸が少しあたたかい。
「いってきます」
私が言うと、五人が同時に頷いた。
先生に案内され、教室の前に立つ。
深呼吸。
扉が開く。
「今日から入る西園寺ひよりさんです」
一歩前に出る。
視線が一斉に集まる。
「西園寺……?」
「理事長の?」
「じゃあ、怜央様たちの…?」
ひそひそ声。
「西園寺ひよりです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
静まり返る教室。
西園寺学院での生活が、いよいよ始まる。
まだ知らない。
この名前が、どれだけ特別なのか。
この花道が、祝福だけではないことも。
ただ一つ言えるのは――
どうやら私は、思っていたよりもずっと守られているらしい、ということ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ついに西園寺学院へ登校しました。
送迎問題は思った以上に大きな問題だったようです。
そして、非公式ファンクラブの存在も明らかに……。
ひよりはまだ状況をよく分かっていませんが、学園ではすでにかなり注目されているようです。
五人の兄に囲まれて歩く花道。
守られている安心感と、少しだけ混ざるざわつき。
この先、甘いだけでは済まない空気もあるかもしれません。
とはいえ、しばらくはほのぼの甘めで進む予定です。
推しのお兄ちゃんは決まりましたか?
引き続き、見守っていただけたら嬉しいです。




