遊び人の本音
昼休み。
「日向様ぁ〜」
腕に、胸元に、香水の匂い。
両サイドからぴったり挟まれる。
「今日の放課後、空いてます?」
「パーティー、絶対一曲くださいね?」
「んー?俺さー、予約多いんだよねぇ」
笑いながら肩を抱く。
軽く頬をつつく。
「嫉妬しちゃう?」
「します!」
「可愛いね〜」
くすくす笑い声。
いつもの光景。
軽い男。
遊んでる男。
それでいい。
視線の先。
廊下の端で、ひよりが立ち止まってる。
女子たちに押されて、少し困ってる。
目が合う。
すぐ逸らされる。
(あー、ひよりそれはダメ)
「悪い、ちょっと俺抜けるね〜」
「え!?」
「どこ行くんですか!」
「うーん、秘密」
ひよりの前に立つ。
「なに、避けたでしょ?」
「…避けてないよ」
ちょっと拗ねてる。
可愛い。
「妬いちゃった?」
「だから違うって!」
顔が赤い。
あーもう。
「こっちおいで」
中庭へひよりの手を引く。
「俺と1曲踊ろ?」
ひよりは困惑した表情を浮かべる。
「俺が転んだら責任取ってね?」
「何の?」
「うーん、全部?」
にやっと笑う。
ひよりが固まる。
可愛いなほんと。
「最近さ」
距離を詰める。
自然に腰に手を回す。
「海里と夜練してるでしょ?」
びくっとする。
「昼は伊織と?」
図星。
「で、俺は?」
軽く言う。
でも内心、ちょっと本気。
ひよりが慌てる。
「なに、急に!?」
「照れてんの?」
顔を近づける。
鼻先が触れそう。
ひよりが息を止める。
(やべ)
引きすぎると逃げる。
一歩戻す。
「冗談」
俺はケラケラ笑う。
ひよりをくるっと回す。
ひよりがよろけて、俺が抱き止める。
「日向お兄ちゃん、チャラい…」
「知ってるよ」
耳元で囁く。
「でもさ」
少しだけ低く声を落とす。
「俺、本気出したら一番タチ悪いよ?」
ひよりが目を丸くする。
その反応が楽しい。
でも。
「本番」
軽い声に戻す。
「最初は形式上、決められた令嬢達と踊る」
「うん」
「でも、その次俺と踊って」
「…順番でしょ?」
「順番とか関係ないよ」
少しだけ強く言う。
ひよりがじっと見る。
真っ直ぐ。
その目、やめてくれ。
「日向お兄ちゃんと踊ると、楽しいから」
その一言。
全部崩れる。
「……そう?」
笑うしかない。
俺は遊び人。
女の子は可愛い。
囲まれるのも嫌いじゃない。
でも。
ひよりが他の奴に真剣な顔向けてるの想像したら。
正直、面白くない。
「なぁ、ひより」
わざと低い声で名前を呼ぶ。
「俺にハマったら抜けらんないよ?」
冗談みたいに言う。
でも少しだけ本音。
ひよりが笑う。
「じゃあ、ハマらないようにする…」
「ひどいな〜」
笑う。
軽く。
もう、だいぶハマってる。
踏み外してるのは。
多分、俺の方。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は日向メイン回でした。
軽くて、距離が近くて、誰にでも優しい。
遊び人のように見えて、実は一番器用な人。
でも器用だからこそ、
本気になったときが一番怖いのかもしれません。
ひよりにとって日向は「楽しい人」。
けれど日向にとってひよりは、少しずつ“楽しいだけでは済まない存在”になりつつあります。
笑っているのに、
ちゃんと踏み外している。
さて、本番までの時間はまだあります。
次に動くのは誰でしょうか。
軽い男の本気は、
案外いちばん深いのかもしれません。
引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




