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雨と傘と私と

作者: FTM2
掲載日:2025/10/13

一人の少女と、冷たい雨が降る夜の街。これは、そんな帰り道でのひと幕。

帰り道は、いつも雨だ。

「また、こんな時間になっちゃった」

足元で跳ねる水飛沫。水溜まりを揺らす雨粒は、そこに映す世界を歪ませている。まるで、私の心を映しているかのように。

「……帰って誰かが待ってる訳でもないけど」

半透明のビニール傘を打つ雨の音が私の空間に響いて、街の喧騒を掻き消す。

「お母さん、今日も遅いのかな」

プラスチック製のハンドルは冷たくて、肩に軽く乗せたシャフトでさえ、容赦なく体温を奪っていく気がする。

「……はぁ」

街は煌びやかだ。街灯も、お店から漏れる照明も、通り過ぎる車のライトも、チカチカ点滅する信号機でさえ眩しく見える。だけど、そこに暖かみは無い。

温もりを求めて顔を埋めたのは、母がクリスマスプレゼントにと買ってくれた赤いマフラー。私が好きな色は、青なのにな。

「早く帰ってご飯作らなきゃ」

空は、真っ暗だ。そこに星の瞬きは無い。月の輝きも無い。何も無い。ビニール傘越しに見上げた空は酷く不鮮明で、くすんで見えた。

「……最近見てないな、星」

この雨が、あの雲が無ければ、きっとたくさんの星が見えるのだろう。でも、きっと私には見えない。空がくすんで見えたのは、きっと傘のせいじゃないから。

「信号、なかなか変わらないなぁ」

道行く人の足を止める信号機。私の横には、スーツ姿の男性やオシャレな格好をしたお姉さんが、同じように足を止めている。共通しているのは、頭を深く屈めてスマホを覗き込んでいること。

動画を見ているのだろうか、誰かに連絡をとっているのだろうか。つられて私もスマホに視線を落とす。

私がお母さんに送ったメッセージに既読はついていない。この様子だと今晩も一人でご飯を食べることになりそうだ。

「プレゼント、喜んでくれたかな。今日くらいは、一緒にお祝いしたかったのに」

今日はお母さんの誕生日だ。バイト代で買ったプレゼントは、昨日の晩にテーブルに置いておいた。今朝、朝ごはんと共に置かれていたメモには、『ありがとうね』とあったけど……。

信号が青に変わった。けど、周りの人は気付いていない。スマホに夢中なのか、傘に視界を遮られているからなのか。

「……帰ろう」

傘を持ち直して歩き出そうとした時だった。

「あ、いたいた」

「えっ?」

聞き覚えのある声に、思わず振り向く。

「追いつけてよかったぁ。アンタ歩くの早すぎ」

「えっ、なんでお母さん居るの?」

そこには、少し息の乱れたお母さんの姿があった。

「なんでって、そりゃあ娘の誕生日だもん。まぁ私の誕生日でもあるけど」

そしてーー。

「そっか。それにしても、傘も差してるのによく私の事分かったね」

「分かるに決まってんでしょ。赤いマフラーも良い目印になってるし。それよりさーー」

そして、お母さんの首元には、私のプレゼントしたマフラーが巻かれていた。

「なーんでプレゼントのマフラー、私の好きな赤じゃなくて青なのよー」

「ふふっ、私が好きな色だからだよ。お返しっ」

雨は降り止まない。でもーー。

「ほほーん。そんなこと言っていいのかなぁ? そんな生意気言う子には、ケーキ、あげられないぞー?」

星も、月も見えない。それでもーー。

「へー? 今晩は誰かさんが好きなクリームシチューの予定だったけど、ビーフシチューに変更かなー」

傘を打つ雨音すら悪くないと思える程にーー。

「んなぁー! うそうそ! ちゃんとあげるからー!」

私の心は、今、晴れた。


初めまして。作者のFTM2です。

この度は『雨と傘と私と』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


これは、一枚のイラストから生まれた短編小説です。

雨が降る夜の街で、赤いマフラーを巻いた少女が傘を差しているイラストでした。

とてもキレイで引き込まれるイラストでしたが、どこか寂しそうで冷たい印象を受けたので、自分の中でだけでもハッピーエンドにしたくて書いてみました。

彼女達の設定は、色々と考えていました。

ですが、あえて作中に反映させず、短編でさくっと締めたのは、その方が、この作品の余韻を楽しんで頂けると思ったからです。


なろう初投稿ということで、この小説への思い入れが強いのもあり、色々と語りたいところですが、本文より長くなってしまいそうなので、この辺りで。笑


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。



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