雨と傘と私と
一人の少女と、冷たい雨が降る夜の街。これは、そんな帰り道でのひと幕。
帰り道は、いつも雨だ。
「また、こんな時間になっちゃった」
足元で跳ねる水飛沫。水溜まりを揺らす雨粒は、そこに映す世界を歪ませている。まるで、私の心を映しているかのように。
「……帰って誰かが待ってる訳でもないけど」
半透明のビニール傘を打つ雨の音が私の空間に響いて、街の喧騒を掻き消す。
「お母さん、今日も遅いのかな」
プラスチック製のハンドルは冷たくて、肩に軽く乗せたシャフトでさえ、容赦なく体温を奪っていく気がする。
「……はぁ」
街は煌びやかだ。街灯も、お店から漏れる照明も、通り過ぎる車のライトも、チカチカ点滅する信号機でさえ眩しく見える。だけど、そこに暖かみは無い。
温もりを求めて顔を埋めたのは、母がクリスマスプレゼントにと買ってくれた赤いマフラー。私が好きな色は、青なのにな。
「早く帰ってご飯作らなきゃ」
空は、真っ暗だ。そこに星の瞬きは無い。月の輝きも無い。何も無い。ビニール傘越しに見上げた空は酷く不鮮明で、くすんで見えた。
「……最近見てないな、星」
この雨が、あの雲が無ければ、きっとたくさんの星が見えるのだろう。でも、きっと私には見えない。空がくすんで見えたのは、きっと傘のせいじゃないから。
「信号、なかなか変わらないなぁ」
道行く人の足を止める信号機。私の横には、スーツ姿の男性やオシャレな格好をしたお姉さんが、同じように足を止めている。共通しているのは、頭を深く屈めてスマホを覗き込んでいること。
動画を見ているのだろうか、誰かに連絡をとっているのだろうか。つられて私もスマホに視線を落とす。
私がお母さんに送ったメッセージに既読はついていない。この様子だと今晩も一人でご飯を食べることになりそうだ。
「プレゼント、喜んでくれたかな。今日くらいは、一緒にお祝いしたかったのに」
今日はお母さんの誕生日だ。バイト代で買ったプレゼントは、昨日の晩にテーブルに置いておいた。今朝、朝ごはんと共に置かれていたメモには、『ありがとうね』とあったけど……。
信号が青に変わった。けど、周りの人は気付いていない。スマホに夢中なのか、傘に視界を遮られているからなのか。
「……帰ろう」
傘を持ち直して歩き出そうとした時だった。
「あ、いたいた」
「えっ?」
聞き覚えのある声に、思わず振り向く。
「追いつけてよかったぁ。アンタ歩くの早すぎ」
「えっ、なんでお母さん居るの?」
そこには、少し息の乱れたお母さんの姿があった。
「なんでって、そりゃあ娘の誕生日だもん。まぁ私の誕生日でもあるけど」
そしてーー。
「そっか。それにしても、傘も差してるのによく私の事分かったね」
「分かるに決まってんでしょ。赤いマフラーも良い目印になってるし。それよりさーー」
そして、お母さんの首元には、私のプレゼントしたマフラーが巻かれていた。
「なーんでプレゼントのマフラー、私の好きな赤じゃなくて青なのよー」
「ふふっ、私が好きな色だからだよ。お返しっ」
雨は降り止まない。でもーー。
「ほほーん。そんなこと言っていいのかなぁ? そんな生意気言う子には、ケーキ、あげられないぞー?」
星も、月も見えない。それでもーー。
「へー? 今晩は誰かさんが好きなクリームシチューの予定だったけど、ビーフシチューに変更かなー」
傘を打つ雨音すら悪くないと思える程にーー。
「んなぁー! うそうそ! ちゃんとあげるからー!」
私の心は、今、晴れた。
初めまして。作者のFTM2です。
この度は『雨と傘と私と』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
これは、一枚のイラストから生まれた短編小説です。
雨が降る夜の街で、赤いマフラーを巻いた少女が傘を差しているイラストでした。
とてもキレイで引き込まれるイラストでしたが、どこか寂しそうで冷たい印象を受けたので、自分の中でだけでもハッピーエンドにしたくて書いてみました。
彼女達の設定は、色々と考えていました。
ですが、あえて作中に反映させず、短編でさくっと締めたのは、その方が、この作品の余韻を楽しんで頂けると思ったからです。
なろう初投稿ということで、この小説への思い入れが強いのもあり、色々と語りたいところですが、本文より長くなってしまいそうなので、この辺りで。笑
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




