蒼穹の一閃ーー陸海軍共同戦闘機・蒼龍
昭和十六年十二月八日。南雲機動部隊は真珠湾に向けて北太平洋を南下していた。
その中に、一群の新鋭戦闘機が並んでいる。陸軍と海軍が共同で開発した単座戦闘機――その名も「蒼龍」。
最大の特徴は、陸海軍が従来別々に求めた性能を、一つの機体にまとめ上げた点だった。
航続力は隼に匹敵し、空母運用能力は零戦に等しい。そして武装は機首に十三ミリ機銃二門、翼内に二十ミリ機関砲二門を備えていた。
従来ならば陸軍は隼を、海軍は零戦を使うところだが、いまや両軍パイロットは同じ機体に搭乗し、同じ訓練を受け、同じ整備部品で戦える。
蒼い龍が空を翔ぶとき、日本の航空戦力はかつてない統一を手にしたのだ。
◇
「第一中隊、編隊を整えろ!」
機上の無線から、隊長機の声が響いた。
真珠湾攻撃の護衛にあたる蒼龍隊は、九七艦攻と九九艦爆を護るべく雲間に展開していた。
パイロットの一人、陸軍少尉の加藤文隆は深く息を吐く。
彼は本来ならば隼に乗るはずだった。しかし陸海軍共同戦闘機計画により、今日の彼は海軍航空隊所属の仲間と肩を並べ、空母「赤城」の飛行甲板から飛び立ったのだ。
「陸の若造、ついてこれるかよ」
隣を飛ぶ海軍飛曹長が、にやりと笑う。
加藤も負けじと応じた。
「心配ご無用。貴様こそ、敵機を見失うなよ」
軽口を叩いた瞬間、索敵班の声が飛び込んできた。
「敵戦闘機、来るぞ! 三時方向、高度四千!」
編隊の視線が一斉に向けられる。そこには、星条旗を掲げたP-40が数十機、鋭い爪を光らせて迫ってきていた。
「迎撃開始! 護衛機を突破させるな!」
指揮官の号令とともに、蒼龍隊は一斉に機首を振った。
◇
急降下してくるP-40の群れ。重厚なアリソンエンジンの轟音が空を震わせる。
対する蒼龍は旋回性能で勝り、軽快な機体はひらりと敵弾をかわしつつ反撃に移った。
加藤は機首を振り、敵の機影を中央に収める。
引き金を引くと、十三ミリ機銃の曳光弾が直線を描き、P-40の翼を裂いた。
続けざまに二十ミリ機関砲が火を噴く。重爆撃機迎撃を想定して設計された威力は凄まじく、被弾した敵機は翼ごと千切れて炎に包まれた。
「一機撃墜!」
加藤の叫びに、編隊が歓声を上げる。
だが敵も黙ってはいない。背後に回り込んできたP-40が、曳光弾を浴びせかけてきた。
機体が震え、左翼に被弾。加藤は歯を食いしばりつつ、急旋回で敵の照準を外す。
旋回性能は蒼龍の真骨頂だ。零戦譲りの柔軟な操縦性は、隼の軽快さと融合し、格闘戦で圧倒的な優位を発揮する。
急激に反転した加藤の機体は、逆にP-40の背後を取っていた。
「もらった!」
短射一閃。二十ミリ弾が敵機のコクピットを貫き、爆炎を散らす。
◇
戦闘は熾烈を極めた。
P-40は頑丈さと急降下性能で食い下がるが、蒼龍は旋回戦と火力で圧倒する。
やがて空は炎と煙に包まれた。次々に撃墜される米軍機。蒼龍隊は味方爆撃隊を守り抜き、真珠湾の空に勝利の火花を散らした。
加藤は荒い息を吐きながら、機体を水平に戻した。翼には穴が空いているが、エンジンは健在だ。
ふと隣を見ると、あの飛曹長がサムズアップを掲げている。
「やるじゃねえか、陸の若造!」
「貴様こそ、なかなか腕が立つな!」
互いに笑い合い、機体を編隊へと戻していく。
◇
その後も蒼龍は南方作戦の空を駆け、マレー、蘭印、フィリピン、ラバウルへと進撃した。
陸軍と海軍の壁を越えた共同戦闘機は、補給も整備も一元化され、パイロットたちは同じ訓練体系で育成された。
米軍はその存在に驚愕する。
「日本は一枚岩だ。空軍も海軍航空隊も、同じ戦闘機を使っている……」
それは、分裂と非効率に悩まされていた連合軍にとって大きな脅威となった。
蒼龍は、まさしく日本航空戦力の象徴として空を翔び続けたのだった。
――蒼き龍が空を裂くとき、日輪の影は誰にも止められない。




