無題
この美しく広大な世界について思いを馳せていた。誰かの歌う心地いい歌詞とリズムが与えてくれる安心感と途方もない喜びが、私の普段していることに疑問を感じさせた。
私は何をしていたのだ。
こんなことをしている場合ではない。
最高の笑顔が穏やかな表情の裏に隠れている。物理的な世界に目を向けようとすると思考が邪魔をする。だから己の内側をこれまで以上に、一層に見つめる。そこはエキサイティングだ。どうやらすべてがあるようだ。
感じ取ろうと手を伸ばす。
まだ行かないでくれ。私が触れるまで、そこで待っていて欲しい。
――いいよ。
ありがとう。
触れた。
白い閃光が伸びた手を逆光で黒くし、指の間からこの目に強い刺激を与える。無限とも思えるエネルギーを感じる。無限のエネルギー。とても優しさを感じる。
もっと感じたい。
この感受性に疑問を覚える。
私はどうして、何かを感じることができるのか。そのようにプログラムされている肉体なのだと言われて、あーそうかと納得するのは無理があった。肉体がなくても、恐らく感じるものを、生きている間にも私たちは感じているんだ。
この広大な世界。
そう、広大な世界。
余りにも広くて、冒険心をくすぐられるこの美しき世界。遍く銀河。
不思議な話だが、それらは私自身であるようだ。私はたった一人なのか?
すべてが自身であり、自分の知らない側面であり、そして私自身だというのか。
それは感じるが、気になるのは、この世界のことだ。物理的な部分も知りたい。
「ごちゃごちゃ言ってないで、終わらない冒険の旅に出ようよ」
「終わらないの?」
「何度でもそれを思い起こして、綴った記録を見て興奮冷めやらぬ永遠の物語を始めようよ……」
何もなかった場所に、何か線のようなものが生まれた。それは抜け落ちた一本まつ毛のような形状をしている。それが細かく動き始めた。振動している。
それ以外世界には何もないのだが、え――
「違う」
「え?」
「君の心からあふれ出ようとしているものをもっと感じてくれ。自ら抑えるな。解放するんだ。肩の荷を下ろすのだ。制限などないのだ」
「は……」
体から力が抜ける。リラックス状態に入った。
今までの苦悩が馬鹿みたいだ。でも、望んだんだ。その経験が必要だった。
顔が影になっている髭面の四十代くらいの男が、白黒の写真の中で私を見ていた。目元が最も暗く、私を見ているのか、私の顔の近くを見ているのか判断に苦しんだ。
肉体から何かが溢れようとしている。
もう何十年も、凝り固まった信念に押しつぶされていた、この感情は……子供のころの、純粋さ……。
喧嘩しても、仲直りできた。
ぶつかり離れては寄り添った。