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@7

「待てえええ!」

「逃げるなあ!」


 信参と明はコカトリスを追いかけていた。


「クエエ!クエエエエ!」

「足速ッ!」

「キューフリルっていう脚力のある(しゅ)なの!中学の頃習わなかった!?」


 そんな知識を語られてもと信参は苦笑い。コカトリスは徐々にスピードを上げて2人を引き離していく。


「速いなあいつ!」

「このままじゃ逃げられちゃう…!」


 追いかけるのに精一杯の信参達は気付かなかったが、コカトリスは足元に敷かれていた罠の起動スイッチを押した。すると餌の入ったケージが多数出現したが、どれも罠だと見抜いて避けてしまった。


「あいつ引っかかんねーじゃん!」

「追われてるのに餌にありつく動物がどこにいるんだよ…」


 罠を仕掛けた生徒が嘆いているが、信参達は気にせず走り続けた。


「礼木、あんた魔法道具研究部なんでしょ?何か捕まえられる道具とかないの?」

「…ない!」


 一瞬、優から借りているノートが浮かんだが、既にヒントを貰っているのにこれ以上彼女の力を借りるのは…そんな風にプライドが許さなかった。


 信参達は知るよしもないが、マスメディア部がコカトリスの所在を広めたことで生徒が集まって来た。さらには逃げるルートを予測して罠が次々と設置され、その罠が生徒を襲った。


「うぉっ!…これ以上は危ないな」


 部員を集めるためにコカトリスは捕まえたいが、ここで大怪我をしたくもない。獲物を追う群れの外に出た信参はスピードを落としていった。


 後ろを向くと、自分と同じようにリタイアして座り込んでいる生徒の姿があって少しだけ安心した。


「はぁ…はぁ………って大丈夫かよ!」


 息を整えていた信参は勢いよく走り出し、うつ伏せになって倒れている明のそばに駆け寄った。


「危ないとは聞いてたけど、まさかここまでだなんて…まるで海外のお祭りね」

「膝!血が出てるって!」

「私なんか放ってあんたは──」


 信参は明を抱え上げた。そしてかの有名なお姫様抱っこに姿勢を直してから、保健室へ歩き出した。


「ちょっと降ろしてよ!恥ずかしいでしょ!」

「危ないから暴れないで!ほら、人のいない道選んでるから我慢してよ!」

「別にこんな傷ッ!いて!」

「ほら痛いんじゃん…」

「こ、こんなことで貸しを作ったなんて思わないでよね」


 保健室に養護教諭の姿はなかった。その代わりに信参が敵視している優が、本来いるはずの部屋の主が座るデスクを陣取っていた。信参は予想してなかった敵と遭遇して、抱えている明を庇うように身を引いた。


「いや~!流石私の見込んだ男だ!手柄を取らず怪我人の手を取った!」

「おい!保健室の先生はどうした!」

「この一瞬で君がどんな想像しているか興味はないが…この私が人を傷つけるような悪事を働くと思うか?出張だよ出張。今頃横浜だ。保険委員も全員予定があって、この私が先生に頼まれて代わりを務めてるというわけだ。それで今回はどういった要件だ?頭痛?発熱?心の傷は専門外だぞ」

「この子が転んで怪我したんだ」

「ほう…しかし…お姫様抱っこで連れて来るほどの傷には見えないけどな」


 そんなはずはないと信参は細く綺麗な脚を見つめる。確かに優が言う通り、焦って連れて来るような傷ではなかった。


「あれ…かなり酷い傷に見えたんだけどな」

「焦って勘違いしただけでしょ。今はそんなに痛くないし…っていうかいつまで眺めてるつもり!?降ろしなさいよ!」

「わぁ!ごめん!」


 このままではただの変態だと慌てて明を降ろした。


「…バイ菌が入るかもしれないし手当はしておこう。こっちに来なさい」

「はい…ありがとうね」


 明は聞こえないくらいの声で信参に礼を言うと、優の手で傷の手当てを受けることになった。


「知ってるか。こんな一般の高校では未だに道具が使われているが、将来栄光が約束されたような子ども達が通う高校では回復魔法が使える養護教論がいるそうだ」

「昔ドキュメンタリー番組で観たことあります。通学途中に交通事故に遭った子どもを救急車が来る前に完治させちゃったとか」

「残念ながらこの学校、いや市内にそこまでの回復魔法が使える人はいないからねぇ。私の道具が役に立てばいいと願ってるんだ」


 そう語りながら、優は自分が作った魔法道具で明の傷を塞いだ。


「さあ、これで大丈夫」

「ありがとうございます…恩人に対して失礼かもしれませんが、それを理解した上で質問させていただきます。私達風紀委員の間では魔法道具研究部、特にあなたが危険人物として注視されてます。私達が入学する以前、魔法道具で色々トラブルを起こしたそうですね」

「そうだな。試作品の暴走に試作品の暴走、あと試作品の暴走だな。しかし研究にミスは付き物だ」

「悪意もなければ負い目も感じなかったと…」

「そういうことになるな」


 そんなピリピリとした二人を見て、自分にはどうしようもないと信参は臆していた。


「分かりました。では明日から!私があなたの監視役として魔法道具研究部に入部します!」

「構わないよ。入部届は明日信参から受け取ってくれ」

「いいのかよ弓星!こいつロクでもない女だぞ!?考え直せって!」

「コラ!ロクでもない人間だとしても目上の人なんだから、それに相応しい態度を取りなさい!」

「や~い怒られた~」


 こうして次の日、明は入部届を提出したことで魔法道具研究部の部員となった。部員が5人になった事でとりあえずピンチを脱したつもりでいる信参だが、この先さらに大変な事になるのを彼はまだ知らない。


 そして逃げ出した2羽のコカトリスはというと、優が設置していた罠に2羽とも引っ掛かり無事に保護された。騒動の原因となった卵も親の元に戻され、孵化するまで見守られることとなった。

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