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花天高校の動物が脱走するのは珍しい事ではない。
生徒が脱走した動物を捕まえた場合、内申点などに響くのでこの機会を待ち望んでいたという上級生もいるぐらいだ。
「さあ!今回はどんな道具で捕まえてやろうかね」
魔法道具研究部部長の優もその内の一人だった。部室内でワクワクしている優から離れた位置には、疲れた様子の信参がいた。
「俺、部員集めなきゃいけないのに…」
「ならむしろチャンスに思うべきだろ。ここで成果を出せれば入部を希望する生徒が現れるかもしれないぞ」
「チャンスって…まさかお前!コカトリスを逃がすためにあそこにいたのか!このマッチポンプ野郎!」
「失敬な。昼休みに飼育小屋にいたのは卵が見たかったからさ。だが予想通り卵は飼育委員が保護。おそらくコカトリス達は卵を探すために脱走したのだろうな」
アイデアが思い浮かんだ優は、話しながら手を動かして魔法道具の開発に取り掛かっていた。
「言っておくが私達にとってこういう事態はチャンスなのだ。トラブルに遭ったらむしろ喜んで解決する姿勢を持て」
「ちなみに私が入学してから4回中3回は魔法道具研究部が脱走した動物を捕まえている。君も頑張りたまえ」
動物探しなんて探偵に任せればいい話だが、そうも言っていられない。
5月末に迫る審査会までに、あと一人部員を集めなければならない信参は早速コカトリス達を探しに出発した。
放課後だというのに、逃げ出した動物を見つけようと生徒がいつもより多く残っていた。
その中にいる信参は憎き優から、他の生徒は知らないヒントをもらっていた。
学校の敷地を囲うように、優は人間以外の動物が嫌う音を発生させる魔法道具を仕掛けている。なのでコカトリスが逃げたのは敷地内に絞られているのだ。
因縁の敵から塩を送られたようで気分が悪いが、これも己の命のため。敷地の外へ探しに出る生徒を横目に捜索を続けた。
「コカトリスは卵を探してるって言ってたな…」
しかしそこで信参の足は止まった。
「えっと…あれ?俺、どこにいるんだっけ?」
学校の敷地は無駄に広く、信参は自分がどこにいるのか分からなくなった。
コカトリスは敷地から出ていないと言ったが、それでも見つけるのは一苦労ではないかと、信参は疑問を覚えた。
「あら?礼木じゃない」
「弓星。こんなところで何してるの?」
「コカトリス探し。あんたも?」
「うん。それで探してる間に迷子になっちゃったんだけど、ここどこ?」
偶然出会った明は呆れながら、スマホで撮った地図を見せた。
「思ってたより広いんだな」
「迷子が増えてるので気を付けましょうって今朝のホームルームで言われてたでしょ」
「コカトリスが卵を産んだって話しか頭の中に…あはははは」
明はアドレスを交換すると、早く帰れと言わんばかりに無言で地図の画像を送ってきた。
同じコカトリスを狙ってる今、信参にとって彼女はライバルなのだ。
「どうも。それじゃあ俺行くね」
「校門はそっちじゃないわよ」
「コカトリスを捕まえないと」
「奇遇ね。私もよ」
信参の隣に並んで明が歩く。しかしペースが早く彼よりも前へ。それを見た信参も歩幅を広げて追い抜いた。
なんという運命か、目の前には1羽根のコカトリスがいた。
「…競争だな」
「そうみたいね」
「クエエエエエエ!」
そして狩猟者にあげた悲鳴を合図に二人が走り出した。