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ある日の昼休み、信参はグラウンドにポツンと建っている小屋に来た。
「そういう方面の高校じゃないのに動物を飼育してるなんて珍しいな~」
グラウンドの端にある飼育小屋。そこではショウナンツチノコ1匹とキューフリルというコカトリス2羽が飼育されていた。
今朝、コカトリスが産んだ卵が有精卵だったという話を聞いた信参はようやくこの場所の存在を知り、ここ来たというわけだ。
「あっこっち来た」
ツチノコが信参に這い寄る。彼らを遮るフェンスには透明なプラ板が貼られていた。
「威嚇してる…おっかねーやつだな」
「動物相手に喋りかけるなんて、友達がいないのかい?」
聞き覚えのある声がして咄嗟に身構える。すると小屋の陰から優が現れた。
「お前!なんでここにいる!」
「私は先輩なんだから、相応しい呼び方と敬語を使ってもらわなきゃ困るよ。後輩にナメられてるなんて勘違いされたら面子に傷が付く」
優を敬う義理はない。信参にとって彼女は人生をねじ曲げた悪の魔女なのだ。
「それよりもこんなところで遊んでていいのかい?ユーモアな子が入部してくれたがあと一人足らない。同好会に格下げされた時点でカマルリングは作動するんだぞ。分かってるのか?」
その言葉を聞いて、誰のせいでこうなってんだよと鋭くなる信参の目が語った。
「格下げって部員が5人未満になったらだろ。なら三年生の部員が卒業するまでタイムリミットがある」
「おや…」
「あぁん?」
信参は誤解していた。入部したあの日、優はちゃんとタイムリミットを告げていたというのに。
「5月末に何があるか知ってるかい?」
「試験」
「それもそうだが、その前に全部活の審査会が行われる。そこで色々あるわけだが…」
審査会では昨年の6月からこれまでの部活動の審査が行われる。大会で出した成績や社会への貢献率などを審査され、それらを元に学校側から部活動への待遇が決定するのだ。
「審査員に良い印象を与える事ができれば部費のアップは勿論、部室のアップグレードだってしてもらえる可能性がある。しかし!部活動に積極性のある部員が5人に満たないと見定められた瞬間にその時点で審査終了!予算は打ち切られ部室は取り上げられ、同好会へランクダウンとなる!」
同好会へのランクダウンとは即ち、命の終わり。
信参は自分がどれだけ危うい状況に置かれているのかと、ようやく理解した。
「命に関わる危機!まさに大ピンチってわけさぁ!ハハハハハ!」
「笑うな!」
怒った信参が飼育小屋のフェンスを殴ろうと腕を引いた。すると突然、フェンスは彼の側へと倒れてきた。
「うわっ!?なんだ!」
「またかい…だから私特製の衝撃吸収フェンスにした方がいいと忠告してるのに」
賢い2羽のコカトリスがフェンスを蹴破って脱走した。優が知る限り、コカトリスの脱走はこれで4度目である。
「ひとまず先生を呼ばないとねぇ~」
「ま、まずは俺を保険室に…」
コカトリスに踏まれた信参だったが、怪我は大した事なかった。
だが怪我人が出たことよりも、大事に育てられていた動物が逃げ出したという事の方が、学校中の話題となるのだった。