@39
レベル1の区画にある上水道に信参達が造った魔法道具が取り付けられた。それは不純物が混ざった際に警告音を発し、魔法の力で水を強制的にストップさせるという至ってシンプルな代物だった。
「今何時だぁ?」
「5時だ。まさか徹夜する羽目になるなんてねぇ」
信参達は魔法道具の製造から設置までの作業を全て終わらせて、ようやく寝ようとしていたところだった。
「あ、頭いてぇ…」
「頭痛薬あるぞ…そんな顔するな。ちゃんと市販されてるやつだ」
それを聞いた信参は安心して薬を貰い、魔法道具が取り付けられた蛇口からコップへ水を入れた。
「反応なし…ゴクッゴクッ…なぁ、こんな道具が役に立つのかよ?結局これって微生物が来たのを知らせてくれるだけなんだろ?」
「知らせてくれるだけでも危険を回避できる確率は高くなる。それにスペースセンターの職員は研究者である以前に軍人だ。当然、護身用の武器を持ってる。万が一微生物と呼べない姿で現れたとしても大丈夫だろう」
「それじゃあ後は…」
「準備は整った。後は目標が水道から出てくるように誘導して、駆除するだけだ」
それを聞いた信参は緊張が解けたのか、そのままベッドの上で眠ってしまった。
「私も疲れた…」
優は魔法道具の様子見も兼ねて汗を流しに浴室へ入った。
「…がっ!寝ちまった…」
優が浴室に入って間もなく、信参は目を覚ました。彼が鈍い男だったらこのままシャワーを浴びようとして浴室に向かい、真っ裸の優と鉢合わせるというイベントも起こっただろう。
「あいつが入ってんのか…」
しかし水の音を聴いて優がどうしているのかを把握した。残念ながらラッキースケベと呼べるイベントは起こりそうにない。
「スマホ…あぁ~入る前に没収されてるんだった」
何か暇を潰せる物がないかとリュックの中を探した。そして引っ張り出したのは懐かしい物だった。
「あれ、これ入れてたっけ…あいつから借りたノート…」
リュックから出てきたのはA4サイズのノート。それは入部当初、魔法道具を造れないと叫んだ彼が優から渡された設計図だった。
「使ったのも古土を手伝った時ぐらい…いやあの時だけだな!?」
懐かしい物ではあったがそれといった思い出は特になかった。それ以上に、あの優から借りていた物をまだ持っていたのかと驚愕し、今日の内にこんな不吉な物を返すことにした。
「さっさと出て来いよな…」
嫌いな相手からではあるが借りていた物だ。優のリュックに黙って入れたりはせず、ちゃんと返却するぐらいの礼儀は備えていた。
しかし優を待つこと数分後、浴室の方から大きな音が鳴り響いた。
「警報音!?」
それは水道に取り付けた微生物対策の魔法道具からの警報音だった。信参はベッドの上を跳ねて脱衣所の前まで行くと、優の悲鳴を聴いた。
「うわぁぁぁ!?」
「清瀬!」
信参は鍵が閉まっていた扉を突き破って浴室まで突入。優は蛇のような生物を両手で捕まえていた。
「ナイスタイミングだ!こいつを捕えておける容器を出してくれ!」
「分かった!」
信参が魔法で金属製の箱を用意すると、その中へ蛇を投げ入れた。
「閉めろ!」
「し、閉めろ!?」
「金属なんだから溶接なりすれば開けられるだろ!早く!」
優に言われるがまま、金属を歪めて封をする。隙間一つない金属の箱から今見たサイズの生き物が脱出することは不可能だろう。
「何があったんだ」
「警報音がしたと同時に栓が破裂して今の蛇が出てきたんだ。どうやらとっくに微生物はやめていたみたいだな…いずれこの容器も破られてしまうかもしれない。もう一回り大きいサイズの物を用意してその中に移してくれ」
優は栓の破裂時に飛び散った破片で傷を負っていた。特に左腕に深手を負ったのか、もう片方の手で傷口を押さえる程だった。
「そんなことよりも傷の方を──」
「こんなのかすり傷だ。大丈夫」
金属の箱の内側から叩きつける音がした。信参はさらに大きな箱を用意して、蛇の入った箱をその中へ詰め込んだ。
自分のベッドに移動した優は、持ち込んだ魔法道具で身体に刺さった破片を抜き、身体に包帯を巻いて止血した。
「箱移したぞ」
「ありがとう。これから所長に連絡を取る。異変が起こらないかそのまま見張っていてくれ」
「傷の方は──」
「そんなに心配してくれるとはねぇ~怪我するのも悪いことばかりじゃないな」
「勘違いすんなよ!お前に何かあったら副部長に申し訳が立たないってだけの話だ!」
「はいはい分かったよ。それよりも箱から目を離すな」
優はドクターニューワと連絡を取った。しばらくすれば職員達が部屋にやって来て、浴室にいる蛇を処理するだろう。
厄介に思えた海外での依頼だったが、呆気なく終わってしまいそうだ。




