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脱走した微生物を発見する依頼を受けた優と信参だったが、それが達成したと認められない限り研究所から出られなくなってしまった。そんな二人に貸し与えられたのは、ホテルのような部屋だった。
「接待用の部屋か…」
「お前と同じ部屋かよ…」
「当然の処置だな。逃げ出した生物の行方が分からない以上、二人以上で行動した方がいい」
「はぁ…どうしてくれんだよ!だから来たくなかったんだよ!」
「楽な依頼じゃないと思っていたが、まさか外出を禁止されるとは…とりあえず行くか」
「行くってどこにだよ!?」
「人が死んだ場所。事件現場だ。まるで刑事ドラマみたいだな」
優は持ち込んだ魔法道具の中から小さな物を選んだ。それに魔力を注ぐと信参の元へやって来た。
「なんだよそれ…」
「登録した者以外の魔力を感知したら通知してくれる防犯装置だ。早く魔力を入れてくれ、起動できない」
言われた通りに魔力を入れると、優は魔法道具を壁に貼り付けて起動した。
「…反応なし。今のところ、この室内にはいないようだな」
脱衣所と浴室にも同じ魔法道具を設置してから、優は兵士を呼んで部屋を出た。来客である二人がこの施設の中を移動する際は、絶対に兵士が同行しなければならないのだ。
しばらく待って同行を務める兵士が来ると、死人が出た場所へ案内させた。
そうして案内されたのは何の変哲もない通路であった。既に遺体は移されていたが派手に散った血痕は残っており、それを見た信参は思わず跳ねてしまった。
「血なんて誰にでも流れてる。そう怯えるものでもないだろう」
「逆になんでそんな冷静でいられるんだよ!」
優は背負っていたリュックから新たな魔法道具を取り出した。
「懐中電灯か?」
「周囲に残留している魔力を照らす事ができるライトだ。さあ助手の出番だぞ。魔力で照らしてくれ」
「自分でやれよ…」
「私には思考するという大切な役目がある。こういう肉体労働こそ君の役目だ」
信差は懐中電灯を受け取ると血痕を光で照らしたが、本人は見るに堪えられず目を逸らしていた。
それを見た優は呆れながらも信参の頭を掴み、強引に血痕の方へ向けた。
「わぁ!?やめろ!」
「私達は魔法道具研究部だぞ。研究者が目の前の結果から目を逸らしてどうするんだ。ちゃんと視ろ」
信参が照らした場所には魔力が漂っていた。
「つ、つまりどういうことだよ…魔力が見えるからなんだってんだ」
その問いには答えず、優は通り掛かった職員に声を掛けた。
「ここで倒れていた方について一つ尋ねたいことが」
「ドクターバイか…彼はいい奴だったよ」
「その方は魔法の素質をお持ちでしたか?」
「…魔法の才能を見出された軍関係者は問答無用で最前線へ引っ張りだされる。どこの国だってそうだろ。隠してたら軍機違反で処罰の対象だ。酷い時にはここみたいな未公開の研究所で人体実験の材料にされるらしい」
「ではここには、魔法が使える方は一人もいないと?」
「そういうことになる…いいよな、日本人は。異世界とコンタクトしてから魔術に関しては世界トップクラス。向こう側の連中が国外への技術供与に制限を掛けなければ間違いなくこの国がトップだったろうよ」
何やら嫌味のような言葉を垂らすと、通りすがりの職員は去って行った。子ども相手に技術競争に関しての愚痴を押し付けるとは、なんとも気持ちだけ一丁前な職員である。
「…礼木、今の話と現場には矛盾点がある。それがなんだか分かるだろう?」
「え…全然」
「魔法の素質のない人間が殺された。注目するべきはそこだ。素質がない人間は体内に蓄積できる魔力量も少ないとされている。現場の惨状を見るに、被害者は攻撃を受けた際に出血したのが一目瞭然だろう」
「確か、体内の魔力は傷口から血と一緒に溢れるから…そうか、魔力が少ない人が殺されたにしては、現場に残留してる魔力量が多いんだ」
「その通りだ。今視えているのは被害者を襲った微生物の魔力だろう。これを辿ってみよう」
ライトを持つ信参を先頭に魔力を辿る。微生物を追って施設を巡る彼らは、開かずの扉の前で足を止めた。
「私達のカードでは開けられないようだな。ドクターニューワに連絡を取ろう」
優は近くの内線電話から所長室に連絡を入れた。
会話相手がいなくなった信参は独りきり。同行してくれてる兵士も任務中とあってか声を掛けづらいオーラを漂わせている。
「はぁ…どうしてこんな目に…」
スペースセンターに来てからまだ一日も経とうとしていない。それでも疲れていた信参から余裕というものは消え失せていた。




