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優達が入室したのを確認して部屋の扉を閉めると、男は毛布を被ったまま立ち上がった。
(でけぇな…)
信参は大男にビクついた。ここに来るまでに見た物の影響もあって、この男は宇宙人ではないかと疑わずにはいられなかった。
「私はドクターニューワ。このスペースセンターの所長。以前電話した依頼主だ」
「魔法道具研究部の清瀬優です。彼は助手の礼木信参です」
「助手を連れて来たか…まあ、今ここで起こっている問題を解決できるなら誰でも構わない」
「依頼の内容を話していただけますか。でなければこちらとしてもどう動けばいいのか、何を使えばいいのか分からないので」
「あぁ…そうだな。そのために魔法道具の持ち込みを許可したのだ。私の部屋に来るまでに色々見ていたはずだが、このスペースセンターについて少なからず理解できただろう」
「世間ではいるかどうか曖昧な宇宙人とそれに関連する物がありました。ここはそれらの研究及び兵器への技術転用を目的とした秘密の研究所ですね」
「流石だな…くれぐれも口外はしないでもらおう。この研究所は同じ敷地にいる一般の兵士も知る事を禁止としている」
「ここでの研究内容に興味はありますが、私達が理想とするのは魔法道具を使っての社会奉仕。口外しない事をお約束します」
宇宙人のような大男と臆することなく話す優を見て、自分のように怯えているかと思っていた信参は心の中で驚いていた。
「…よろしい。それでは早速──」
ニューワが依頼の内容について話そうとしたその時、天井から変わったサイレンの音が流れた。
「な、なんだ!?」
「これぐらいで一々動じるな。前に予告なしで防災訓練したことがあったろう。それと同じだ」
「それとこれは別だろ!」
「出てしまったか…」
パソコンを操作してサイレンを止めると、ニューワは気を取り直し、今この研究所で起こった事も交えて依頼の内容を話し始めた。
「たった今、ここで働く職員の死体が見つかったそうだ」
「なも!?」
「騒ぎたいなら後にしろ…続きをどうぞ」
優は叫びそうになった信参の口を押さえて黙らせた。
「これで9人目…初めての被害者は2ヶ月前にドクターアイキョウからだ。胸を貫かれた事から刺殺だと推定して捜索が開始された。だがアイキョウが殺されたその日、別の部屋で保管していた実験対象が脱走している事が発覚したのだ」
「実験対象…マウスですか?」
「地球外生命体だ。3ヶ月前、我が国の宇宙飛行士が持ち帰ったサンプルの中から今まで確認されたことのない微生物が発見された。軍はそれを秘密裏に買収し、ここで研究を始めた。研究が進んでその微生物は地球の物ではないと判明したのだ」
「微生物が脱走と言うのが気になりますが…」
「確かに、人の肉眼では捉えられない非力な生物が脱走など信じられないかもしれない。しかしそいつを保管していたケースは内側から破られていたのだ。そして今もこの研究所のどこかに身を潜めているのだと思う…」
「まさか、その微生物がこの研究所で殺しをしている犯人だと?」
「私はそう推測している。微生物は突然変異を起こしケースから脱走。目的や手段は不明だがこの研究所にいる職員を狙って殺しをしている。君にはいなくなった微生物を探して欲しい。捕獲するのが理想だが、きっと駆除することになるだろう」
「私の魔法道具で見つければよろしいのですね」
「理解が早くて助かる。上層部はこの一件は少ない人員で対処しろと言ってね。それが無理ならバイオハザードを避けるために研究所にいる私達と微生物もろとも、爆発して処理すると脅してきたものだ」
「…この依頼、もしも断ると言ったら?」
「それが分からない子ではないだろう。微生物がどんな状態か不明である以上、この研究所から出られるのは選ばれた者だけだ。君達には──」
「分かりました。脱走した微生物は私の魔法道具で必ず見つけ出してみせましょう」
「ふふ、依頼して良かった…直接出会って確信した。君はここにいる我々ドクターと同じだ。信頼に値する」
なんと恐ろしい話だろうか。達成しない限りこのスペースセンターから出る事はできない。さらに人を殺す生物が潜んでいるという死と隣り合わせの依頼である。生きて出るには依頼を達成するしかないのだ。
さらにドクターニューワからスペースセンターのルールについて説明を受けた後、来客用のカードキーを渡されて面会が終了した。
兵士を先頭に自分達が寝泊まりする部屋へ向かっている中、優はこれからの作戦を練っている。そして信参は信じられない事態に陥り、ビクビクと怯えていた。




