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鬼の顔。近隣住民からそう呼ばれる鳥居が見湖市には存在する。鬼の顔とは呼ばれているが、至って普通の明神鳥居だ。言われてみれば顔に見えなくもないだろう。
清瀬優が率いる魔法道具研究部は、その鳥居の調査を依頼されて現地へと赴いた。なんでもここを通った者は不幸な目に遭うそうなのだ。正直に言うが、これは学生に依頼していい事案ではない。
「これが鬼の顔…至って普通の鳥居ですね」
部員の中で最も小柄な弓星明には鳥居がとても高く見えた。
「迂闊に触らない方がいいわ。祟られるかもしれないわよ」
「副部長ってオカルトとか信じるタイプですか?」
「信じてるって言うと誤解を生むわね。この世界になかった存在が異世界には実在していた。だからここでの不可解な出来事もアノレカディアの現象と照らし合わせれば解明できる。そう考えてるわ」
「インテリですね」
副部長の明壁風花はそう言い切った。
「二人はどう思う?…あら?」
風花は優と明の他にいる部員に声を掛けた。しかしここまで一緒に来ていたはずの二人は、その場から姿を消していた。
「部長達はどこに行ってしまったんだ?」
古土喜美子はさっきまで一緒だった優達を探して鬼の顔の周辺を歩き回っていた。その隣には魔法道具研究部唯一の男子部員である礼木信参も一緒だったが、何やら様子がおかしかった。
「いや…それどころじゃねえだろおおお!空を見ろ!真っ赤だぞ!」
「そりゃあ夕暮れ時なんていつも真っ赤だろう」
「夕暮れ!?お前の国じゃ正午に日が落ちるのか!?」
信参の言う通り、先程まで青かった空が真っ赤に染まっていた。
「あの鳥居を通った時だ!あの瞬間に皆の声が聴こえなくなったんだ!」
ネタばらしをすると、信参達は鬼の門を通った瞬間に不可思議な力によって形がソックリな異世界へとやって来てしまったのだ。しかしそれよりも恐ろしいのは、全く動じない喜美子の図太い神経である。
「おお」
「なにがおおだよ!?」
「どうやら私達は…霊的な力で別の世界へ迷い込んでしまったようだ。そういう時は歩き回って元の世界へ戻る手段を見つけるというのが、ホラーゲームではお決まりの展開だな」
「ホラゲーを解決手段のソースにするなよ…だけどそうするしかなさそうだな」
そうして二人は自分達の世界へ戻るために捜索を開始した。
まずは一番怪しい鳥居からだ。二人は左右の柱を調べて、丸く円形に掘られた窪みを発見した。
「劣化で欠けたにしては綺麗すぎるな…」
「何か嵌めるんじゃないか?たとえばチン◯とか。フニャフニャの状態で添えてからデカくすればピッタリ嵌りそうだ」
「お~そうかってんなわけあるか!鳥居と性行させるホラゲーがどこに存在するんだよ!?」
すると早速、この窪みに嵌める物と思わしき物体の一片を拾った。
「硬貨の破片…元通りにしたらちょうどこの窪みに嵌りそうだな」
「それじゃあ残りの破片を集めるのが目標か…」
喜美子は拾った破片をポケットに入れた。
赤い空の下、二人は残る破片を探して歩き出した。
硬貨の破片は一体どこにあるのだろうか。喜美子が言っていたようにホラーゲームの展開なら、どこか分かりやすい場所に置いてあるはずだと、鳥居から遠く離れたところにある神社へ向かった。
「待った。何か徘徊してる」
神社の敷地へ上がる階段の前で、喜美子は静かな声と手の動きでブレーキを掛けた。信参は姿勢を低くして上の方を見ると、醜い物体の一部分が見えた。
「なんだあいつ…」
「私の魔法で分析できない…非生物もしくはヒトの脳では理解の及ばない高次的存在か。礼木、お前の魔法でなんとか出来ないか」
「物は試しだよな。やってみる」
信参は自身が得意としている魔法を発動するために手を構えた。
こうして作中にて彼の魔法が発動するのは初めてなのでまずは解説といこう。
礼木信参が得意とするのは金属魔法だ。魔力を消費して金属を生み出す発生能力をはじめ、引き寄せる、もしくは反発させる形で操作能力が備わっている。自身を起点に前後にしか動かせないという制限はあるが、なんでも操る魔法と違って威力が調整できるのが長所だ。
ペットボトルのキャップサイズの金属を発生させた信参は、神社の敷地をうろつく存在に狙いを定めて発射。金属は命中したかと思いきや、その存在に吸い込まれるように消えてしまった。
「吸収された!」
「違う、バトル漫画の読み過ぎだ。おそらく干渉できないんだ、逆に向こうがこちらに干渉する事はできるのだろう」
「お前よくそんなこと分かるな…分析できないんだろ?」
「ホラーゲームに出てくる敵は大体そうなんだ。あの神社のどこかに硬貨の破片がある。あいつはそれを取らせないエネミーなんだろう。ちょっと待ってろ、すぐに探して取ってくる」
「え、行くのかよ!おい!」
そうして喜美子は階段を上がっていった。
危険に向かっていく喜美子の無謀ともいえる勇気と、彼女を心配しながらも言われた通り待っているだけの信参の臆病ともいえる慎重さは対照的だった。
「キャッチしろぉぉぉ!」
しばらくすると猛ダッシュした喜美子が信参に向かって飛び降りて来た。信参は言われた通りに喜美子を受け止めてそのまま地面に倒れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…やはりあいつ、自分のテリトリーからは出られないみたいだな…それより見ろ!硬貨の破片だ!」
「マジであったのかよ!?凄いな!」
喜美子は2つの破片を合わせた。しかし硬貨と呼ぶにはまだ足りない形をしていた。
「これで全部じゃないのかよ…」
「一欠片およそ120度か。ならあと一欠片集めれば硬貨は元の形になるはずだ」
「本当かぁ…?」
疑いはするがそうであって欲しい。信参は喜美子を信じて、残りの破片を探しに歩き出した。




