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明が生徒会長との出来事を部員に打ち明けてから数日経った日の放課後、遂に生徒会長に呼び出された。そして彼の根城とも言える生徒会室に足を運んでいた。
「失礼します。魔法道具研究部の弓星です。生徒会長はいらっしゃいますか?」
「失礼するなら帰って~…これって大阪人定番のギャグみたいなんだけどやっぱりつまんないよね。そんな事より明ちゃんは風紀委員でしょ。間違えないでよ」
「申し訳ありません!」
まずは生徒会長の機嫌を損ねない。それが優達との約束だった。
緊張こそするが、以前の様な恐怖は感じない。風花が造った腕輪に嵌められている魔法石の力が、生徒会長の放つ未知なる威圧を相殺しているのだ。
「それで…根津会長、本日はどういった御用件で…?」
「あぁ、君が潜ってる部活をどうやって潰すかについて話し合いたかったんだ。どう?部活動再開して、何か変わった事はある?」
「今のところは特に何も…部長が造った発明品に礼木が振り回されているという、普段通りの光景です」
「礼木…」
生徒会長は男嫌いである。特に自分のように女子を侍らせている男だ。彼の中で礼木信参は魔法道具研究部唯一の男子生徒で、顔を見た事はないが目の敵にしていた。そこで名案が思い浮かんだ。
「あいつのせいで部活が崩壊した…うん、そのシナリオでいこう。サークルの姫ならぬ王子によって魔法道具研究部で内輪揉め。それであの小生意気な部長が造った魔法道具が誤作動して事故が発生して…礼木には事故死してもらおう。それであいつに全部の責任を押し付ける。それで今度こそ廃部」
「礼木を殺すんですか!?」
「事故死だよ事故死。主犯が死んでた方が何かと都合いいでしょ?死人に口なしって言うじゃん」
どうあってもそれが殺人であることに変わりはない。魔法石の力が切れたのを疑ったが、ちゃんと機能している。今回は会長の圧ではなく、彼の恐ろしい思考に恐怖しているのだ。
「あの部長の事だ。魔法を使ったら簡単に足取りが付いちゃうだろうし、ここは古典的な薬品を利用した爆弾でいこう。あぁでも、校舎が傷付くはよくないか」
犯罪者だ。明は自分の目の前で愉快に喋っている少年を学生ではなく犯罪者だと認識を改めた。
「まあそこら辺はあの人達に頼んで上手くやるか…そうそう、ポッケに仕込んでるボイスレコーダーだけどバレバレだよ」
その一言に動揺を見せた直後、生徒会長は明に迫って腕輪を握り潰した。
「それに駄目じゃん。いくら校則で許されてるからって生徒の見本になる風紀委員がオシャレしてちゃ」
まただ。腕を壊された瞬間、あの時の威圧感が明を襲った。そうして怯えている内にボイスレコーダーも奪われてしまった。
「もしかして俺の事、裏切ろうとしてる?」
「い、いえ決してそんな事は…」
「うぅん、今の嘘。君、僕との約束を馬鹿正直に話したんだ…こいつが礼木か…変なやつ。魔法道具研究部が嫌いなクセに廃部を防ごうとしてるんだ…へえ~!廃部したら指輪の効力で死ぬ!?おっもしれ~!そりゃあ躍起になってるわけだ」
「ど、どうしてそこまで分かるの!?」
「あぁ俺ね、実はシークレットなの。こうやって直接触れてる人の記憶を読めるんだ」
そう、ボイスレコーダーの事はブラフだったのだ。そこで動揺を見せなければこうはならなかったが、それは無理だろう。
「明ちゃん…俺、寂しいよ。可愛い後輩と一緒に嫌いな部活を潰したかっただけなのに…そこまで愛着があるなんて…どう?考え直して俺の仲間にならない?…ならなかったら、どうなるか分かるでしょ?」
「…そうやって人の頭の中覗いてんなら分かるでしょ!あんたの仲間になるぐらいなら死んだ方がマシよ!この変態!」
「あっそう…そんなこと言っちゃうんだ。いや、殺すなんて勿体ない事しないよ。ルックスが合格ラインを越えてる子には身体で教えるって決めてんだ、俺」
今の言葉がどういう意味か分からない明ではなかった。
「いやっ!」
とうとう明は魔法を使い、強力な電撃を会長に浴びせた。
「…あ~、全然効いてない」
「う、嘘…」
グランの泉で強化されている魔法は生徒会長にも効かなかった。確実に直撃しており、何かが電気を防いだようには見えなかった。
「つ~かその表情ヤバい。そそるからマジで。勃起しそ──」
「椎彦会長はいらっしゃいますか~?」
生徒会室をノックする音がした。会長は乱れていた服装を整えると、明に警告した。
「下手な動きを見せたら問答無用で廃部だ。俺がその気になればお前ら全員退学、いや家族もろとも闇に葬ってやれるんだからな…どうぞ~」
そして扉が開く。部屋に入って来たのは、両手でダンボール箱を抱えた信参だった。
「お…私は魔法道具研究部の礼木信参です!清っ…部長から生徒会へのお届け物を持って参りました!」
「おぉ、それはどうも」
会長は自らの手でダンボール箱を受け取る。その際に信参の手に触れて記憶を読み取った。ここまで追い詰めても念入りにと、油断も隙もない男だ。
「中身は…魔力で動く掃除機か。そういえば前にそんなの頼んだな」
「凄い!箱を開けてないのによく分かりましたね!」
「あぁ、俺って勘がいいから…それと今、部長の事を名字で呼ぼうとしたね?上級生を呼び捨ては良くないなぁ。あと俺の名字は根津だから。そっちの方も忘れないでよ」
「ごめんなさい…」
「まあ仕方ないよ。部活、嫌いなんでしょ?分かるよ、あの部長嫌なやつだよね~」
「…本当に勘が良いんですね」
「まあね。珍しく真面目な部員に会えて良かったよ。掃除機ありがとうって部長に伝えてくれ」
「お時間いただきありがとうございました!失礼します!」
明は心の奥底では信参に救いを求めていた。しかしそんな事も露しらず、彼は笑顔で出て行ってしまったのだ。
「くふ…くっくっくっ…あっはっはっは!」
「なんなの!いきなり笑いだして!」
「あの間抜け面!廃部になっても構わないってさ!放課後に交わした熱い約束も口先だけだったんだ!」
「そんなはずない!」
「あいつが何考えてたか教えてやろうか?死ぬまでに何をしようかだよ!諦めてやんの!あいつは悟ったつもりでいたけど、廃部間際になったら泣き散らかして俺に助けを求めに来るだろうな…、まあ助けてやんないけど!」
あの日の放課後に話した事は全て嘘だった。全てを見抜かれて廃部を阻止できない事よりも、あの時の約束を裏切られた事の方が明にとっては大きかった。
「…失礼します」
「可哀想…初日に声を掛けたのがあいつじゃなくて俺だったら良かったのにね」
すると明は生徒会室から逃げる様に退出。会長はそれを追おうとせずに扉を閉めた。
「あれは明日から不登校かな…受験が終わったら遊びに行ってやるか」
生徒会室はダンボールから優が造った魔法道具を取り出した。そしてそれを起動させる事もなく、壁に投げつけては何度も踏みつけて破壊した。
(予定変更だ。トラブルは部長が起こした物としてあいつは登校停止。それで体育館で臨時の全校集会を行って廃部を決定。大衆の前で礼木を死なせた後、カマルリングの謎を俺が解き明かした事にすれば…)
「くくく…面白くなりそうだ。ちょっと準備が必要だし、あの人達に協力を仰がないと…お前ら、散らかったゴミは片付けとけよ」
命令された他の役員が掃除を始める。会長は人がいない場所へ移ると、そこから誰かに電話を掛けた。




