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魔法道具研究部に所属する弓星明は、同時に風紀委員でもある。彼女はトラブルばかり起こす研究部の監視役として入部したのだが…
(部活動再開まであと2週間か…ってこれじゃあまるで、私があの部活を楽しんでるみたいじゃん!)
夏休みにグランの泉探しを成功させた事もあって、少なからず研究部に対しての愛着が湧き始めていた。
「最近、廊下を走る生徒が増えてきました。これに対して、生徒が走らなくなりそうな案がある人は意見をお願いします」
放課後、彼女は風紀委員の会議に参加していた。委員として参加は義務であり、家庭の事情等でなければ欠席する事は出来ない。
今回の議題に対して明は、ポスターを貼ったり呼び掛け運動をしたところで走る人は走る。なら部長に役立ちそうな魔法道具を造ってもらえば良いのではと今までに無い案を浮かび上がらせた。
「弓星さん、何か意見はありますか?」
「私の中学校では道路の路面標示のようなやり方で生徒達に走らないように意識付けていたので、それを参考にしてみてはいかがでしょうか」
当たり障りのない意見を言い終えると、ノルマ達成とばかりに窓の外に目をやった。模範生としてスカウトされて風紀委員に入ったが、部活動と比べると始めた頃のようなやる気は失ってしまっていた。
黒板には、そんな彼女の意見が簡素にまとめられて書かれていた。
会議の終了後、誰もいるはずのない部室に立ち寄った。本来なら業者を呼んで修理してもらうはずの部室は、問題だらけでいつ廃部になるか分からない部活に金は出せないという事で放置されていた。部活動が再会したら、まずは部室の修理からだ。
「…ふふ」
不謹慎だが爆発の瞬間を思い出して笑ってしまった。あそこまで派手な光景を今まで見た事がなかったのだ。それに怪我人が出たわけでもない。部室が爆発した事もその後に説教を受けた事も、明の記憶では既に思い出として修正されていた。
「薄汚い部室だなぁ…」
思い出に浸っているところに水を差すように、部室を馬鹿にする声が聞こえた。どんなやつが来たのかと睨みつけると、生徒会長が取り巻きの女子を連れて来ていた。
「あれぇ、部室の前にいる君は…魔法道具研究部部員の明ちゃん!いや、スパイだから風紀委員って言った方がいいかな?」
「どうも、こんにちは」
電撃を撃ち込みたいという気持ちを抑え込んで、礼儀正しく挨拶する。するとそれだけで生徒会長はご機嫌になった。
「いいねぇ、挨拶が出来る学生は勉強が出来る!これからもちゃんとするんだよ」
「ありがとうございます。私はこれで失礼します」
屈辱的だがあと少しすれば交代だ。3年生である彼はもう間もなくその椅子を後輩に譲る。きっと彼とは違い常識的な生徒が生徒会長を務めるはずだと自分に言い聞かせた。
「やっぱ最後に凄いこと成し遂げたいなぁ。明ちゃんさあ、内心この部活どう思う?部長はやかましいし嫌じゃない?だよね?」
そんなことはない。そうちゃんと否定して、好きになり始めた部活を庇いたかった。
「…ですね。本当、嫌になっちゃいますよ」
しかし、正直に答えたらこの会長が何をしてくるか分からない。怯えた明は話を合わせてしまった。それだけでとても屈辱的だった。
「だよね~…ねえ、部活潰さない?」
「え…」
「そろそろ部活動再開でしょ?それからすぐに大きな問題を起こせば今度こそアウト。魔法道具研究部は廃部になるってわけ」
「わ、私が廃部するまで待っていただけないでしょうか…」
「廃部する必要なんてないよ。明ちゃんはトラブルが起こるように内部工作すればいいんだから。スパイらしくってカッコいいじゃん」
とんでもない提案だ。こんな悪質な事が思い付く人間が、どうして生徒の代表をやっているのかが疑問だった。
「ごめんなさい、私そこまでは…」
逃げ出そうとしたその時、取り巻きの女子達が逃げ道を塞ぐ。
「ちょっと!なんでこんな人の言う事…」
そこまで言いかけて言葉が詰まった。彼女達も今の自分と同じように、怖い思いをして従わされているのだと。
「どう?協力してよ?じゃないと…」
「分かりました!言う通りにします!だから何もしないで!」
「…うん!明ちゃんはお利口さんだね。どうするかは再会してから指示するから、楽しみにしててよ」
反抗する意思が押し潰される程の威圧だった。凄まれて怯えたなどと簡単な話ではなく、生徒会長の中にある恐ろしい何かが、例えるなら凶器のような物を突き付けられた気持ちだった。
会長達が立ち去った後、怯えて言われるがままになってしまった自分が嫌になり涙を流した。
こうして部長や信参達の知らないところで、廃部の危機が動き出していた。




