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前回、中学時代の悪行により学生達の怒りを買った信参は制裁を下された。その結果、右脚に全治2週間の大怪我を負ったことで杖を用いての生活を余儀なくされていた。
「話が歪み過ぎだろ…」
「おぉ礼木、酷い怪我じゃないか。一体何が──」
「おめーのせいだろうが!」
「Huh?」
「ミームみたいなリアクションして、馬鹿にしてんだろ」
必要時以外は教室から出る事がなく、こうして喜美子に小馬鹿にされる日々が続いていた。
「…今回の一件、本当に申し訳ありませんでした」
「もうその謝罪会見も何回目だよ!休み時間が終わるタイミングまでベラベラ続けやがって!」
「はぁ…細かい事をゴチャゴチャと。私とお前の仲じゃないか」
「その仲がお前の舐め腐った態度で終わろうとしてんだよ!?」
チャイムが鳴ると逃げる様に席へ戻る。これが休み時間に毎度繰り返されていた。しかも言うと、喜美子は非行少年を全員返り討ちにした功績からクラスメイトにチヤホヤ言われるようになったが、脚色を盛るに盛られた中学時代の恋愛を暴露された信参の肩身は狭くなっていた。
「あんたも気の毒ね…」
「俺の友達お前だけ…心の友よ」
「やめてよ気持ち悪い…」
明だけはヤレヤレといった様子で、これまで通りの態度で信参に接していた。
放課後、教室から出ようとしていた信参と明の前にあの女が現われた。
「ちょっと礼木、来たわよ」
「うわぁ…いつか来るとは思ったけど遂にか」
「お待ちかね!遂に来たぞ!完成したぞ!」
我らが魔法道具研究部の部長、清瀬優の登場に信参は杖を手放して頭を抱えた。
「…何の用だ?今月中は部活停止って話忘れたのか?」
「古土君から君の生活をサポートする道具を造るように頼まれてねえ、色々用意してきてんだよ。さあ席に着きたまえ。弓星君も!」
「あいつ…いや、わざわざ全治2週間の怪我にそこまで用意されてもな」
「こういう時はお礼が先でしょ。あんな態度だったけど彼女なりに罪悪感覚えてたんだろうし」
罪悪感を持ってこれまでの態度で接してきたとなると、喜美子は正真正銘のサイコパスだ。信参はそう分析した。
「まずはこれだ。よく出来ているだろう」
「これって…義足だろ!?そもそも脚失くなってねえし!」
「そう、義足だ。そしてこれが…」
義足の次に優が出したのは、輪の形をした装置と透明な筒状の容器だった。
「このリングを通った物体はこの容器の中へワープするんだ」
試しにチョークを装置に通すと、そのまま地面に落ちずに容器の中へと移動した。
「その脚が治るまでこのリングから容器に移して安静にさせておけ。それからこの義足を装着すれば、今から松葉杖無しの生活に戻れるぞ!」
「よくもまあその技術力でこんなくだらない物を造ろうとするな…」
「部長!質問です。今の説明だとつまり、足の怪我が治るまでの間、ずっとワープさせてるって事ですよね。万が一なんらかのトラブルで装置が故障したら足はどうなってしまうんですか」
「それは考えてなかったね。実験してみよう」
優は園芸部の友達から貰ったキュウリの半分を装置に通してワープさせた。そして機能を停止した瞬間、容器の中のキュウリが底へ落ちて行った。キュウリは真っ二つになったのである。
もしも今、装置に通していたのが自身の右脚だったら…そう思うとぞっとして身振るいした。
「やめといた方がいいわよ」
「あぁ絶対使わない!遠慮する!」
「えぇ…じゃあこれはどうだい?」
優は廊下へ出ると、車椅子を押して入って来た。
「車椅子!部長、そんな風にまともな物が造れたんですね!」
「失礼極まりないねえ…さあ礼木、こっちへ来て、これに座るんだ」
「嫌だ!」
「カマルリングを起動させるぞ!」
「本格的に脅すようになったな…いいよ分かったよ!座ってやるよ!」
信参は恐怖を怒りで染め上げると、用意された車椅子に座った。
「…なんともなさそうね。どう?」
「座り心地は…まあ悪くない。だけどこんなはずがない。どんな機能を隠してやがる!」
「どんな機能があると思った?」
「自動車並みの速度が出たり空飛んだり爆発したり!それぐらい用意してんだろ!」
「そういうのをご所望か。じゃあ今から用意するよ」
「は?」
誰が聞いても嚙み合っていない会話だった。別に信参が頼んだわけではないが、彼の挙げた意見を参考に派手な機能を付けようと優が動き出す。
信参は逃げようとしたが、突如現れたアームが彼を車椅子に押さえ付けた。
「ほら!余計な機能付いてんじゃん!」
「そのアームは私のスカートの中からだ。その車椅子には何も搭載してないよ。私は、君が車椅子に何も付けて欲しくないんじゃないかって思ったからね」
「頓智利かせてんじゃねえ!っていうかそう思ってんなら今すぐ改造をやめろ!」
「だけど古土君は礼木の要望に合わせてカスタマイズするべきだと提案したんだ。そんな、彼が私にオーダーなんてするはずないだろうと思っていたが、そんな派手な機能を望んでいたとは…開発者として心躍るよ」
「踊るな!オーダーしてないし!降ろして!弓星助けて!」
「えぇ…会長、礼木が嫌がってるしやめてあげてくださいよ。もっと嫌われちゃいますよ」
せっかくの忠告もお構いなしに改造を続ける優。その顔はいつもよりの楽しそうで、それを見た明はそれ以上は特に何も言わなかった。
「完成だ!」
「未完成だ!全部外せ!そしたら完成って認めてやる!俺のオーダー通りに全部外せ!」
「カマルリングのように命令通りに動かなければ空中分解するようにした。これに今日はこれに乗ったまま帰れ!」
「お前…次のいじめアンケートでお前の名前描くからな!」
「はいはい行きますよ~…それじゃあ帰ります。さようなら」
明は信参を押して昇降口まで向かった。
「あっ階段だ。ちょっと降りて」
「うん…あっ」
信参と車椅子を別々にして降ろそうとしたその時、搭乗者の離脱を確認した車椅子が浮上。次々と天井を突き破り、空の彼方まで飛んでいった。
「…ご、ごめん」
「こっちこそ悪いんだけど、教室まで戻って杖取ってきてくんない?」
車椅子は隠された機能の一片を披露しただけで使えなくなり、結局松葉杖で帰る事となった。
しかし車椅子の改造はダミーである。その松葉杖こそ優がいたずらのターゲットとしていた物で、魔改造された松葉杖と知らずに帰路に着いた信参は散々な目に遭うのだった。




