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部活動が一か月の活動停止処分を喰らった。だがこれに対して悲観するどころか、むしろ解放されたと喜ぶ者もいた。ご存じ、礼木信参である。
「礼木、どこ行くの?」
「どこって…放課後だから帰るに決まってるだろ。弓星は残るのか?」
「私、風紀委員だし。停止になった経緯を伝えたら、風紀委員の人に良くやったって褒めてもらってお咎め無しだった…喜美子が乗ってた脚立押さえてただけなのに」
「どんだけ嫌われてんだよウチの部活…じゃあな」
「うん、また明日」
外履きへ履き替えて校舎の外へ。最近は真っ直ぐ帰っていたがたまには寄り道してみたいと、テニスコートを横目に校門へ向かう。しかし何やら人が集まっている。それも穏やかな雰囲気ではなかった。
敷地の外では違法改造されたバイクに乗った少年達が走り回り、帰ろうとする生徒達を威嚇していた。教員達が手を出そうにも、これまた違法改造された魔法道具を振り回しており、迂闊に近付けないのだ。
信参は裏門から帰ろうとしたが、どうやらそちらでも同じような連中が暴れてるらしい。つまり、警察が来るまではずっとこのままだ。
「皆が困ってるでしょ!やめてよ!」
するとクラスメイトの文音が大きな声で注意した。そのまま勢いに乗って他の生徒達も声を出したが、魔法道具からの耳が裂けるような音に萎縮してしまった。
「夏休みデビューってやつか?失敗してるぞ。今時珍走団なんて流行らないし、やめた方が良い」
「お~威勢がいいねぇ」
今度は喜美子が挑発。しかし相手が女だというのもあってか、全く効いていない。
「どこの学校だ?いや、言わなくていい。そんな非行に走る時点で大した場所じゃないんだ。お前達程度のやつらが入学出来るなら、ここにいる生徒達全員、面接だけで合格出来るだろうな」
「黒淵高校って言えば分かるよな?それに俺達、あのジャガーノートの一員なんだけど」
ジャガーノートとは見湖市でも有名な半グレ集団である。神出鬼没に現れてはその場で暴れ回り、警察が来る前には足跡一つ残さないという逮捕困難な犯罪グループとして有名だ。
「虎の威を借りる狐とはこの事だな。組織の名前を聞けば怯えるとでも思ったか。そんな犯罪者集団の中にお前達みたいな童貞がいる事の方が驚きだ」
「あいつ、何挑発してんだよ…!」
喜美子と関わりのある信参は、このままの流れだとパーティーの時のような大きな事件になると推測した。
「下がりなさい古土さん!怪我するわよ!」
「大丈夫ですよ先生!こんな自分より弱いやつしか叩けない威勢だけの中卒にやられる程、弱くないんで」
「言わせておけば…」
「門を閉じろ!」
喜美子が叫ぶと、怯えていた生徒達は言われた通りに閉門。すると少年の一人がバイクのエンジンを吹かして威嚇した。
「怖いだろうけど、ちゃんとスピード出して突っ込んで来い。入学させてくれなかった学校の門に激突すれば、不合格だった時のトラウマが蘇るだろうけどな」
「テメエ!」
挑発に乗った少年のバイクは喜美子を目掛けて走り出した。
「所詮は半グレか…」
しかし、校門との衝突を恐れたバイクには勢いがない。反対に立ち向かっていた喜美子の方が速かった。
渾身のラリアットで少年を叩き落すと、魔法道具を持っていた腕を勢いよく踏みつけて武装解除した。
「前に来やがって…跳ねられてえのか…」
「中途半端にアクセル回しておいてよく言うな。お前達はどうだ?この猪みたいに突っ込んでくるか?それとも山猿みたいにそのオモチャで殴りに来るか?」
「おいやめろ古土!その辺にしとけって!」
「おぉ礼木じゃないか!良いところにいるな!おい見ろお前ら、あいつは中学の頃、自分に惚れ込んだ女をヤるだけヤってヤリ捨てたとんでもない童貞卒業生だ!」
「はぁ!?」
その告発の直後、生徒達の視線は一斉に信参へ向く。あまりにも冷めた視線に、思わず涙が出てしまいそうだった。
「あいつとお前らを比べてみろ!あいつは電信柱みたいに背が高いが、お前らは…そうだな、そこの駐車場の三角コーン!分かりやすくお前達が乗ってるバイクで例えるなら、あいつは…アニメとかに出てくる、その構造でどうやって走ってんだって感じのやつで、お前らは三輪車通り越して一輪車!とにかく人として劣っているんだ!転生して胎児の状態からやり直すんだな!」
それなら一輪車の方がマシなのではないだろうか…とは思っても、誰も言える空気ではない。
「マジでやめろ古土!お前じゃなくて俺が危ない!」
「礼木、お前言ってたもんな。気に入ったやつは男だろうと俺の彼女って。俺の竿で日本全国のつまんねー女を都合のいい女に変えて総理大臣になるって!どんな票の稼ぎ方だよ!なぁ!?面白過ぎだろ!何やんの?異次元の少子化対策?」
「言ってねえよ!?」
「嘘でしょう…最低」
「副部長!今のはあいつの嘘です!信じちゃいけません!」
遂に暴力へと発展し、恋人のいる男子や身の危険を感じた女子達が一斉に襲い掛かる。急な襲撃に反応できず、信参は逃げる事が出来なかった。
「お前あとでグブェ!待って副ブェエ!」
「先生達も止めに入った事でギャラリーはいなくなった。これでお前らチワワの群れが孤高の人狼に叩き伏せられる姿が世に出回る可能性はなくなったわけだ…一応、逃げる時間をくれてやったつもりでもあったんだがな」
残った少年達は仲間の失敗を見て素直にバイクから降りて武器を構える。改造された魔法道具はどれも本来の使用用途から逸脱した物となっており、魔法道具研究部の部員である喜美子は心を痛めた。
「さあ来い!犬っころ!」
威嚇のついでに、足元で倒れていた一人目を踏みつけて気絶させる。それを合図に残った少年が一斉に襲い掛かってきた。
そしてジャガーノートの少年達はあっという間に喜美子に打ち破られた。その後ろでは血だらけになった信参が転がっていた。いつの間にか、門の外へと投げ出されていたようだ。
「せめて武器は取らせて欲しかったが…社会のはみ出し者の実力じゃ無理だったな」
「な、なんなんだこいつは…」
「逃げなくていいのか?お迎えが来たぞ」
駆けつけた警察官によって少年達は連行された。倒れていた信参もその仲間かと勘違いされて運び込まれそうになった時は、流石の喜美子も噴き出してしまった。
「あれと同じ連中が乗ってる物はやたらと派手な見た目をしているな…ただ目立ちたくてあんな風にしてるのではなく本当にカッコいいと美感を覚えているのだとしたら…そんな精神状態ではケーキは等分できないし自画像も描けるわけがない。あれでは更生なんて無理だ」
「…おい」
「おぉ礼木。無事だったのか」
「言う事、あるだろ…」
「お前重いな。ダイエット手伝ってやろうか」
せめて一矢報いると言わんばかりに、抱えられていた信参が体重を掛ける。しかし喜美子は油断もなく、信参だけが痛い思いをするように姿勢を変えて倒れた。
「ぐへ!…お前ぇ、清瀬とは違ったベクトルで…クソだ」
「…つまり魔法道具研究部最強は私かぁ」
ちなみに、裏門にいた不良達は風紀委員やその他の協力者によって無力化されて警察に差し出された。こうして花天高校の平和は守られたのだった。




