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9月1日は防災の日、9月9日は救急の日と、9月には危険意識を高める日が二度もある。これは地球上で日本が特に災害の多い国である事が由来しているのだろう。
そして現代、湧き水のようにネット上に溢れるディザスターゴシップによって翻弄された事で人々には正常性バイアスが根付いてしまっている。だからこそ、今一度身近な危険に対策するべきではないか。
放課後、魔法道具研究部員は集まってこの時期に相応しい活動をする事となった。
「これから魔法道具研究部の防災点検を行う!提案者の古土君には千円分のギフト券をプレゼントだ」
「やったー」
「こんな面倒なこと思い付くの、あんた以外にいないか…だけど確かに、防災意識を高めるのは大切ですね。これから何をするんです?」
「まあ…礼木に買わせてきたこの防災マニュアル通りにすればいいだろう」
「こんな事のために駅ビルの本屋まで走らされたのかよ…ハァ…ハァ…経費で落ちるんだろうなぁ!?はい、レシート!」
「落ちないわ。学校の防災点検は本来教員がやることよ。私達は自分達の意思で好きにやってるだけ。部活動に直接関係しない事に部費は使えないわ」
「そ、そんな~!?」
風花の言葉によって崩れ落ちる信参。それを他所に、優達は点検を開始した。
「空き教室を利用してるだけだから倒れそうな物はありませんね…せいぜい掃除用具の入ったロッカーぐらい?」
「う~ん…」
「どうかしました?」
「ロッカーと天井の間に突っ張り棒を入れようと思ったのだが…スペースがあり過ぎてな」
「あはは…天井が低くなるかロッカーが高くならないとですね。でもまあ、大丈夫じゃ──」
「喝!」
油断を見せた瞬間、喜美子のデコピンが明の額に炸裂した。
「い、痛い…」
「もしも地震が起こって倒れたらどうする!その時ロッカーのそばにいた人が潰されてしまうかもしれないだろ!」
「そ、それはそうかもだけど…」
「そしてもしも!ロッカーの倒れた床がなんらかの要因によって腐敗していたら床には大穴が開き、私達は下へ落下!転落死だ!」
「んな事あるわけないでしょ!」
「部長、これは由々しき問題です!今すぐに対処すべきです!」
「そうだねえ…うん、ロッカーそのものを高くして倒れなくしてしまおうか」
優がさらっと口にした冗談を採用。魔法道具でロッカーを縦に拡張して、天面と天井を接触させて倒れないようにした。
「これこそ防災だな」
「額痛いんだけど…そういえばこの部室って救急箱置いてないんですか?」
「保健室が近いから置いて──」
「喝!」
甘ったれるなと、両手でのデコピンが風花の乳房に炸裂した。
「いゃん!」
「ゆ、揺れた…」
「病院が近いからと自宅に救急キットを置かない家庭がありますか!?理由があって置かないのならそりゃあハラスメントっすよ!」
「意味が分からないわ…それに学校側にお金を使わせない為に受け取ってないだけで、部室には優の用意した救急キットがあるわよ」
「それって市販されてる物ですか?」
「…御察しの通り、手作りよ。いやぁん!」
「あんなマッドサイエンティストのが造ったファッキンエイズキットを信用するなぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「ご、ごめんなさい…」
涙目になった風花は渋々、救急キットの設置を申請しに職員室へ向かった。
「…そういえば消火器もないな。副部長、消火器の申請もお願いしま~す!」
この二人、夏休みから関係がフランクになっていた。
「他はなんかあるか…」
「喜美子、ちょっと厳しいんじゃ…」
「黙れ!こうやって細かい不備を見つけてケチ付けてイライラさせるのが楽しいんだろ!分かったら邪魔するな!」
「えぇ!?そっちが目的だったわけ!?」
この流れだと次にデコピンを喰らうのは自分かぁ。そう思い覚悟を決める優と信参なのであった。
それからは壁に掛けられていた時計から置き時計へ変えたり、窓ガラスにフィルターを貼って破片が飛び散るのを防いだ。
「防災バッグは遅くても今週中だな…それにしても動いて叫んだから暑くなってきたな。礼木、エアコン」
「あいよ…あれ?」
壁に付いているリモコンを操作するが、エアコンは何も言わずに動かなかった。
「故障か?」
「よし、直すから脚立を用意してくれ」
「えぇ、勝手に弄っても大丈夫かな?」
「大丈夫だ。むしろこのまま放置したら私達の誰かが熱中症で倒れてしまうだろう。暑さはまだまだ続くんだ。熱い鉄と同じで、手の打てるトラブルは早い内に打って対処する。それが防災だ」
「意味わかんねえよ…」
優が用意した脚立を信参と明が押さえて、その上に乗った喜美子がエアコンの修理を開始した。
「う~ん、昨日までは動いてたから、突発的な何かが要因になってるはずだが…」
「先生に相談して業者呼んでもらおうよ~」
「そういえば魔法道具研究部の顧問って誰なんですか?」
「この学校にはいないよ。都内にある魔法での戦闘訓練に力を注ぐ高校に勤めているが、ここの方が好きだからという理由で顧問としての名前だけ残してある」
「他所の学校の人がここの顧問って事ですか?」
「変わってるだろう?無茶苦茶強いぞ、あの人」
そんな二人の話に耳を傾けつつ、信参は調子を尋ねる。
「どう?何か見つかった~?」
「あぁ、デカいネズミの死骸が凍った状態で詰まってる。こいつのせいで風が出て来なくなってたんだ。このっこのぉ!」
「ネズミって危ないわよ!早く先生に連絡しないと!」
「どんなネズミだい?」
「気になるのそこ!?」
「あぁ~…部長と副部長のオッパイみたいにポッチャリしてますね」
「言い方を改めろ」
「エロいサイズ…ん?氷にヒビが…こいつ、膨らんでますよ」
「膨らんでる…皆!急いで部室から離れろ!」
優は脚立を蹴り倒し、落ちて来た喜美子をキャッチすると全速力で部室から脱出。そして扉を閉めた上でさらに部室から離れた。
次の瞬間、部室の中で大きな音と共に爆発が起こった。
「間違いない。君が見たのはオチバクハネズミだ。落ち葉を主食とし、死骸に衝撃を与えると爆発するアノレカディアからの外来種だよ」
「あの、解説してるところ悪いんですけど…部室、燃えてますよ」
「分かってる」
爆発によって室内の機器に引火した事で火災が発生。ジリジリとベルが鳴り響く中、消火器を抱えた風花と教員達が駆け付けた。
「火事だぁぁぁ!」
サイレンのような叫び声をあげると、やたらと軽装な消防隊が教室へ突入。炎は魔法道具研究部の部室だけを焦がして消火された。
「点検、したばっかなのに…」
「部室が燃えた…だけで済むといいがな」
それから複数の教員がやって来て、警察に連行されるかの如く部員達は職員室へ。だがしかし、警察署や少年院送りになるよりはマシだろう。
地震、雷、火事、親父とはよく言ったものだ。防災意識が高まっていた彼らは予想だにしていない親父に襲われてしまった
こうして魔法道具研究部は一か月の活動停止となった。あくまでも活動停止のため、カマルリングは起動せずに信参は生きていた。




