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花天高校夏休み最終日。魔法道具研究部の部室では、グランの泉発見を祝したパーティーの準備が行われていた。パーティーと言っても参加者は6名。スーパーで買い集めたお菓子などを摘まんで駄弁るだけの予定だ。
「末永さん、もうそろそろで学校に着くそうよ」
「だったら俺、迎えに行ってきます」
「礼木、君は唯一の男手なんだ。力仕事の出来る人間が現場を離れてどうする!ここは部長として私が行こう」
まだ紅夜が到着したわけではないが、彼女と信参を二人きりにしないという思惑の元、優が出迎えに行った。
「あいつ、サボりたいだけなんじゃ…」
「はいはい男手君。この飾り付けて。私じゃ届かないから」
明は画用紙で作った輪飾りを押し付けた。この距離まで近付いてふと気付いたが、高身長な信参から見ても明は小さく見えた。
「…ちょっと、早く受け取ってくれる?」
「は~い」
しかし気の強い彼女だ。そんな事を言えば怒ってパーティーどころではなくなってしまうだろう。そもそも外見に対してどうこう言うのは失礼だと、信参は特に何も言わなかった。
しばらくして、紅夜を連れて優が部室に戻って来た。
「皆さん、今日は御招待いただきありがとうございます!」
すると何かをバッグから漁り出す喜美子。彼女は明と紅夜に駆け寄ると、手に持っていたタスキを首から通した。
「本日の…」
「主役…?」
本日の主役。タスキの正面にはそうデカデカと書かれていた。
「明は私達の命の恩人!そして末永さんはグランの泉まで導いてくれた幸運の女神!この二人を主役とせずに誰を主役とするか!」
「ハッハッハッ!確かにその通りだ!盛大に祝おうじゃないか!」
「それじゃあグランの泉発見を祝して!カンパ………なんでそんな目で見るんですか」
「礼木君ってそんな大きな声出せたのね」
「失敬な!出す機会がなかっただけで元々声はデカい方ですよ!…それじゃあ気を取り直して…」
喜美子はジュースの入った紙コップを全員に配った。
『カンパーイ!』
そうして全員は一斉にジュースを飲み、テーブルの上に並べられた料理を食べようとするが…
「クピックピッ…まっず!なんですかこれ!?腐ってます!」
「当たりを選んだのは末永さんですか!それじゃあ罰ゲームとしてビリビリマシンで電気ショックです」
「えぇ!?酷いです!今日の主役になんて仕打ちを…」
「末永さんこの中で一番先輩だからね?」
相手が誰であろうと臆しない。それが喜美子だ。
喜美子の用意したハズレを引いてしまった紅夜は恐る恐る機械に手を触れる。しかし電気が流れる直前、油断していた喜美子の手首を掴んだ。
「きゃう!」
「いっっったぁ!?感電したぁ!」
「何やってんだか…」
そうしてようやくパーティーが始まった。
「そうだ。弓星さん、お体の方は大丈夫ですか?」
「えぇ!グランの泉に強くしてもらったおかげで前よりも上手く魔法が使えるようになりました!休み明けの実技試験が楽しみですよ!」
「それを聞けて安心しました」
紅夜達が願いを叶えて数日後、トルフォレストに集まっていた冒険者は既に泉は使われたのではないかと判断した。現在は記者が森の周辺に集まって泉の使用者を探しているが、彼女達に辿り着く事はないだろう。
「ところで紅夜さんの得意魔法ってなんですか?」
「こんな風に物を引き寄せたりするだけです。魔法というよりか超能力みたいですけどね」
紅夜はテーブルに乗っていたクッキーを引き寄せると、そのまま口の中へ放り入れた。
「もぐもぐ…こっくん。こんな感じです。地味でしょう?」
「そんな事ないですよ。ねえ喜美子?」
「街の外れにあるこじんまりとした喫茶店で働くのに向いてそうですね。その魔法でコーヒーを淹れてもらいながら、顔を近付けてお話されたら堕ちちゃいそうです」
「んで口説こうとしてんのよ。それで?あんたが得意なのってなんだっけ?前の実技試験で専用部屋を用意されてたって事は普通じゃないんでしょ?」
「悪いが教えられないな。シークレットだから」
大抵の人間は魔法道具でも再現できるような魔法を得意としている。しかし魔法を秘密にする喜美子のように、他人に知られたら差別の可能性やその能力を狙われる危険性がある魔法を持つ者をシークレットと呼ぶ。
そのシークレットという単語で差別される事が少なくないのが現状だ…が、コメディであるこの作品でこういう設定は意味を成さないので、覚える必要はない。
「今はこんなのだけど将来大出世するかもね」
「こんなのとはどんなのだ」
「ジュース足りてる?」
揉める空気を感じたのか、それとも偶然か。紙パックを持った信参が割り込んで来た。
「あ、お願い」
「頼む」
今、ワイワイとやっている中で喧嘩するのはよくない。目線を合わせた二人は笑みを作って違う話題に切り替えた。
「気の利く男だねぇ」
「…なんの事だよ」
「優良物件かもね」
「だからなんなんですか?!」
理由も分からず先輩二人にからかわれる信参だったが、内心ではこういうのも悪くないと思うのだった。
パーティーは盛り上がり、優はこの日のために造った魔法道具を大きな箱から取り出した。
「これはなんですか?中心となっている装置から長い紐が伸びていて、まるでタコのようですが…」
「最大8人まで参加可能!タコ型リバース嘘発見器だ!さあさあ、早く装着したまえ!」
嘘発見器と言われて全員がイメージしたのは、嘘を吐いた者が喰らう制裁の電撃だった。誰もがやりたくないと思った。しかしここで拒絶的な態度を見せるとせっかくの盛り上がりが冷めてしまうかもしれない。そんな集団意識に囚われた学生達はタコの足を模した紐を手首に巻いた。
「ところでなんで8人なんですか?」
「イカとタコのどちらにしようか迷ったのだが…イカだと自立せずに見栄えが悪そうだったからやめた」
この部長が造った物だ。ただの嘘発見器ではないのは確かだと部員達は身構えた。
「公平であるように質問に対してはイエスと答えよう。ちなみに答えなかった者には通常の倍近くのショックが流れる。これに耐えられるのは弓星君ぐらいだろう」
「あ、無理ですね。身体に電気を溜めるにはそのための魔法を発動しなきゃいけないので。直に喰らったら普通に痛いです」
「おぉう、意外な弱点…まあとにかく質問に答えればいい。ではさっそく!魔法道具研究部が大好きな人!」
『イエス!』
「って早速俺メタじゃねーか!」
すると本体からボレロが流れた。全員が真剣な表情になって機械を覗いているのは、中々シュールな光景である。
「ぐっ…これは中々…」
「痛ッ!」
「おぅっと!」
曲が停止すると、優、紅夜、喜美子が小さな悲鳴をあげた。他の三人は機械の不備を疑ったが、どうやらそうではないようだ。
「リバース噓発見器という名前の通り、電気は正直者に流れる。部活に対する情熱がない者に電気が流れないのは正常だ。安心してくれたまえ…まさか過半数だったのは意外だったがな」
「なんか、すいません」
「逆に末永さんはなんで好きなのよ…」
「私はこの空気感、大好きですよ」
次の質問者は隣にいた明となった。ここから時計回りで質問していくとすると風花、信参、紅夜、喜美子の順になる。
「それじゃあ…皆が傷付かない質問って何かありますか?」
「好きな食べ物とか」
「嘘発見器で好きな食べ物が調べられるか!…それじゃあ、徒歩で通学してる人」
無難に自分が痛い思いをしない質問をした。この質問に対して正直に答えたのは一人だけだったようだ。
「いて!思ったより痛い…」
「あれ?礼木って自転車乗ってなかった?」
「自転車に乗るのは遅刻しそうな時ぐらいだから…弓星はよく乗ってるだろ?多分その差だと思う…いてて」
他の嘘つきの通学手段はというと、優と風花は魔法の杖、喜美子がローラーシューズ、紅夜は原付バイクだった。
「末永さん、原付って意外過ぎます…」
「そうでしょうか?それよりも弓星さんのローラーシューズが異色過ぎると思うのですが…」
「便利ですよ?ホイール外せば普通に歩けるし…手入れしないと恐ろしく臭うけど」
話が脱線してしまう前に、次の質問へ移る。
「優の事が嫌いな人!」
「えぇ!?ノォォォ!」
『イエス』
風花の容赦ない質問に対し、ターゲットとなった優は思わず否定。正直に答えた事になり、結果電撃を喰らった。
「うぅ!」
「いたっ!」
当然と言えば当然だが、彼女に青春を狂わされた信参も痛い思いをした。
「いってって…次は俺か」
「待て待て待て!何しれっと次に移ろうとしてる!そんなに私が嫌いか!」
「胸に手を当てて考えろ。オープンキャンパスで出会ってから、俺に今までどんな仕打ちをしてきたか。俺がどれだけつらい思いをしてきたか!」
「…頭が悪いからそんなこと一々覚えてないよ」
「嘘つけ!研究部やめちまえ!」
この女がこれまでの非礼を詫びる事は一生ないだろう。そう諦めた信参は質問を考えるのに頭を使った。
「同じ質問してもう一撃喰らわせるのも悪くないか…」
「そんな事したら私はイエスと答えるぞ」
「だったら自己肯定感のねーやつなんだなって嗤ってやるよ」
「噓発見器でここまでギスギスすることってあります…?」
「…それじゃあ、運動音痴な人!」
信参も明と同じように、自分が電撃に襲われない質問を選んだ。しかし意外な事に、この質問に対して悲鳴をあげた者は一人もいなかった。
「考えてみたら私達、グランの泉探しで怪我とかしなかったわね」
「バテて倒れた人もいなかったし、健康的な身体なのは良い事だ」
「もっと責めた質問すれば良かったな…」
そんな独り言を紅夜は聞き逃さなかった。自分の言葉でここからの流れが大きく変わってしまうのだと、信参は知る由もない。
紅夜は間髪入れずに質問した。
「付き合ってる人、または過去に恋人がいた人!」
「えぇ!?…イエス!」
『イエス!』
これまでに比べると返答に勢いがあった。特に優が目立った反応を見せたが、今回はイエスと答えられた。そして彼女はボレロが流れている間、信参の方をずっと見ていた。
「…っ!」
質問した時には勢いのある返事があったのに対して、電撃を喰らった人は誰もいなかった。
それはそうか…とはならないのが魔法道具研究部である。一人だけ妙な反応を見せたのを、部長である優は見逃さなかった。
「礼木、お前我慢しただろ?」
「そんなわけないだろ」
「曲が止まった時、身体が震えていたのは?」
「誰もいない事の方に驚いただけだ。一人ぐらいマセてるやつがいたっておかしくないだろ」
「それもそうか…」
「古土君、礼木の袖を捲って肌の上から紐を巻き付けろ」
「アイアイキャプテン」
「ちょっと待って!」
「噓発見器は対象者が嘘を吐いたか調べられる。当然、言葉にした嘘が本当に嘘なのかどうかも」
「待てよ!ジョークグッズだろ!信憑性ないだろそれ!」
「これは市販品ではなく私の手作りだ。そこらの物より信頼性は高いぞ…そして、紐に触れている面積が増えた事で感じる痛みは倍増する。今度こそ誤魔化す事は出来ないぞ…痛い思いをしたくなければ恋愛遍歴を包み隠さず薄情しろ!」
「何マジになってんだよ!いないって言ってんじゃん!」
「…部活への意欲はなく、部長への敬意無し。徒歩での登校に、挙句の果てには嘘ときた。同じ学校の先輩として私は悲しいよ…やれ」
「アイアイキャプテン!」
「徒歩で登校する事のどこが悪いんだよ!つーか放せ!放してくださいよ!話せば分かる!誰だって隠しておきたい事の一つや二つ、あるでしょうよ!」
信参が逃げ出さない様に、風花と紅夜が押さえていた。振り払おうとすれば出来なくはないが、怪我をさせてしまうかもしれない
痛い思いをする前に白状するかと間を置いたが、信参は最後まで抵抗を続けた。その諦めの悪さに敬意を覚えると、こちらも敬意を持って尋ねるべきだと感じた喜美子は大声で叫んだ。
「礼木!お前は童貞なのか!?チェリーボーイなのか!」
「おいおいおいおい!?」
「破廉恥!」
「やると思ったわ…」
「ど、童貞ってそんな言葉…」
「いいえ…」
ボレロの演奏が止まった瞬間、信参は悲鳴も出せないような痛みに襲われて椅子ごとひっくり返った。
「ノーチェリーボーイ!?ジュニアの卒業式は済ませてあるのか!初経験は◯ナホってオチじゃないよな!」
「やめなさい喜美子!部長、大丈夫ですか!?」
「あは、あはは…」
「お相手は!?初めては!?経験人数は!?」
「やめてください末永さん!これ以上は優が持ちません!」
「中学生時代の彼女…初めては彼女から誘ってきてくれて──」
「部長が倒れたぁぁぁ!やったぁぁぁ!」
「私が保健室連れて行くわ!弓星ちゃん、そこの喜美子と紅夜をなんとかしておいて!」
「逃げないでくださいよ!こんなところに私を置いて行かないで!」
「そりゃもう、彼女一筋でしたよ。成績が悪くなるぐらい、発情期の獣みたいに盛ってましたから。はい…」
「凄くエッチです!こんなにドキドキするの初めて!もっと聞かせてください!」
肯定しても否定しても結果は変わらない。だからこそ、最後まで抵抗した信参は潔く正直に答えた。噓発見器が機能してない今も紅夜の質問に答えているのは、せめて正直に生きようという彼の人生の表れなのかもしれない。
こうして、紅夜による尋問が下校時間ギリギリまで行われるのだった。




