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ミゾに到着した次の日の朝。魔法道具研究部と依頼主の紅夜は、町から離れた場所にあるトルフォレストへ自転車を漕いでいた。
「異世界に来て初めて乗るのがユニコーンでも空飛ぶ箒でもなくロードバイクだなんて…」
「まあ初体験で失敗しなくて良かったじゃないか」
「うわあその言い方すっごい嫌なんだけど」
整備された道路ではなくだだっ広い荒野。先頭を走る上級生の後方を、一年生組は並んで走っていた。日本でこんな事をすれば罰金級のルール違反だ。
信参は少しスピードを上げて紅夜の元へ近付いた。
「見事な併走です。どうかしましたか?」
「俺達が向かってるトルフォレストってどんな場所なんですか?危険な魔物とか出たりしませんよね?」
「このアーモニカに凶暴な魔物は生息していません。だから襲われて食べられてしまうなんてことはありませんから安心してください。それでトルフォレストについては…実際に着いてから説明しましょう。ほら、見えてきましたよ」
正面には真っ赤な森。赤い木々の中心には、雲まで届く巨大な大樹がそびえ立っていた。
「アーモニカにあんな森が…」
「大きい…」
「中心に立つのはアーモニカに唯一存在するダンジョン、カンケームの呪樹です。こちらの世界で冒険者として食べていくとしたらいつか攻略する事になるかもしれないですね」
トルフォレストの前に到着すると自転車を停めて降りる。森の周辺にはグランの泉を目当ての冒険者や、彼らをターゲットにした商人が集まっていた。
「まるでお祭り騒ぎだ…」
「ここに人が集まる事なんてそうそうありませんよ。国外からの来訪者もいるでしょうし、アーモニカはとことん儲けるつもりですね」
「さあさあ、私達も泉探しに行こうじゃないか!」
優は意気揚々と森へ向かっていく。その後を行こうとする信参達を紅夜が止めた。
「見ていてください…」
言われるがまま、4人は黙って優を見送る。それに気付かないまま彼女は森の奥へと消えていった。
「おや?」
それから間もなく、奥へ行ってしまったはずの優が森の外へ出てきたのだ。その様子からして、自分が実験台として使われていた事にも気付いていないようだ。
「森の奥へ真っすぐ進んだはずなのに出て来てしまったぞ?」
「なんらかの法則に従って歩かなければ、入って来た場所へと侵入者を追い出す。それがトルフォレストなんです」
「…その様子を見るに君達、私を一人で行かせたね?」
「まあ、そうされても文句言えないくらいの事はしてるからね」
デュクシデュクシと戦いを始める優と風花を他所に、紅夜はこれからの動きについて策を出した。
「そんな場所で6人仲良く探索しても効率が悪いので、3組に別れて順番に森を捜索しましょう。組み合わせは宿の部屋と同じで」
「という事は部長とですね。よろしくお願いし…そんなに礼木と組みたいなら私から掛け合ってみましょうか?」
「な、何を言うんだね!いや~参った参った!可愛い後輩は冗談も可愛らしいんだから!」
「喜美子、私思うの。やっぱり内通者はレクスなんじゃないかって」
「ですよね。2章入るまでに臭い描写多かったし…」
「森の中を移動する時は手を繋いでください。万が一逸れて外に出てしまった時は、ペアが出てくるまで森の外で待機。泉の捜索は午後5時で切り上げ。それでも戻らず遭難したと判断した場合はギルドに探索の依頼を出しましょう」
「依頼主とは言えやり方にまで口出ししてくるとはねぇ…」
「部長、強く握り過ぎです。痛いです…マジで痛い!握力いくつ?ゴリラですか!?」
手を繋ぐのか?この美少女と?色々と考えて顔を赤らめていた信参だったが、紅夜から渡された物を見てその熱は冷めた。
「これは…」
「幼稚園生が使う誘導ロープを参考に作りました。異性と手を繋ぐって緊張しちゃいますよね」
両端にグリップとなる輪を結び付けたロープである。もはや魔法道具ですらなかった。
「どうぞ、握ってください」
「ありがとうございます」
こうして3組に別れた一行は別々の場所から森へ突入。ようやく、グランの泉探しが始まった。
─優、明ペア─
「部長、両手に持ってるのって魔法道具ですか?昨晩造ったみたいですけど…」
「あぁ、パワーダウジングだよ。電気属性の強い魔力に反応するようになってるんだ」
「…揃ってクルクル回って、なんかオスプレイみたいになってるんですけど…」
「あははぁ、この特殊な森のせいだろうねえ。ここでは役立ちそうにない」
そう言うとせっかく作って来たダウジングをリュックに戻し、運に任せて捜索する事にした。
「部長って礼木のこと好きなんですか?」
「はぁ…昨日からしつこいぞ。分かってるなら一々聞いてくるな」
「部長に対してのリスペクトは薄いですけど、私だって魔法道具研究部の部員です。ポッと出のヒロインに負けて悲しむ部長は見たくありません。協力させてくれませんか?」
なんて部長想いな後輩だろうか…とはならなかった。
「君、面白がってるだろ」
「…バレました?で、でも部長と礼木が結ばれたらいいなって思いは本当ですからね」
「そうかい、ありがとう…あっ」
くだらない話をしていた二人は出発地点へと戻されていた。
─風花、喜美子ペア─
「だ~か~ら!言ってるでしょ!カールの妖精が無能なんじゃなくて今の敵が強すぎるだけって!絶対後半で活躍するから!」
「で~も~メタ考察になっちゃいますけど、あの作者って基本的にライブ感覚でストーリー創ってるんですよ。ありゃあ主人公達パワーアップしますよ。っていうか親友闇堕ちしないっすよあれ。フラグ折るタイプっす」
「メタ読みなんて考察じゃないわ!作者と作品に対して不敬よ!」
風花と喜美子は昨晩読んだラノベに関して衝突していた。途中まではお互いの考察をしていたのだが、ご覧の有様だ。
「…いけないわ。グランの泉探しに集中しましょ」
「そうですね…そうだ副部長、今回探してる泉って電気に関連する願いならなんでも叶えてくれるんですよね?」
「末永さんはそう言ってたわね」
そのことを確認した喜美子は邪悪な笑みを浮かべた。
「知ってます?電気って電力会社に売れるんですよ。売電って言うんですけど…」
「あ、あなたもしかして…」
「御察しの通り。泉の力で発生させられる限界までの電力を私名義で地球各地の電力会社に売り付ければ、金持ちになれると思いませんか?」
「…天才?もしかして前世エジソンだったりする?」
「そして得た大金でありったけの土地を買えば、伝説の不動産王ドナルド・トランプを超えた不動産女王喜美子・クイーン・オブ・トランプに!近い将来、売電首相なんて呼ばれたりして!」
「ちょっとぉ!ジョー・バイデンは大統領よ!」
「おぉっとお上手!こりゃあ一本取られました!」
「「あはははははははは!」」
「…馬鹿言ってないで探すわよ」
「私が政治やった方がマシな日本になると思うけどなぁ…」
そうして森の中を進んでいった二人は出発地点ではなく、カンケームの呪樹の元へと辿り着いたのだった。
─信参、紅夜ペア─
他のペアがはしゃいでいるのに比べて、異性でのペアというわけでもあってか静かに会話を交わしていた。
「海野高校ってそんなに倍率高いんだ…やっぱり天才って感じの人ばかりなんでしょうね」
「どうでしょう、親のコネで入学してる人もいますから。エリートを輩出する高校と言うよりは、将来が確定した人達が社会に出るまでの3年間の暇を潰すための場所かもしれませんね。これまでの校外学習は無駄に豪華でしたし」
どことなく闇を感じる話だったが、好奇心旺盛な信参はさらに話を掘り下げる。
「末永さんはどうしてそんな高校にどうして入学したんです?やっぱり親のコネ?」
「私の両親は大した職の持ち主じゃありませんよ。入学した理由なんて単純で、箔が欲しかっただけです。腐敗した学校なのは事前に気付きましたけど、ここを卒業すれば将来有利なのは間違いなさそうだったので…進級したければ股を開けって言われた時は頭に来て徹底的に潰しましたけど…あのハゲチャビン、今頃どうしてるかな…」
「ロクでもない教師がいたもんですね」
「腐敗した組織に腐った人が集まったの、それとも腐った人が集まって腐敗していったのか…長く続く学校の宿命なので、仕方ない話ではありますけどね」
ある程度進むと、紅夜は手に持っていた真っ直ぐな木の枝を垂直に立てた。そして倒れた枝を信参が拾い、二人は枝が倒れた方向へ歩き出した。どうせ考えても泉には辿り着けないと思った信参が考え付いた作戦だ。
「俺が入学した理由は桜木ポートで話した通りです。あの女に命を握られてたんで…」
「ふふふ。中学校生活、大変だったでしょう?」
「全くですよ。酷い日には夢の中にまで出て来て…まさかあれ、ただの悪夢じゃなくて魔法道具とかで干渉してきたんじゃ…」
「夢の中に出て来るなんてもう好きな人なんじゃないですか?」
「俺が?あいつを?天地がひっくり返ってもあり得ませんよ」
「そこまで言いますか…聞いたら悲しみますよ」
信参の話がヒートアップしそうになった時、二人はトルフォレストの外へ追い出された。
「あれ、森の外だ。どうやら間違った道を選んじゃったみたいですよ」
「お気の毒。険しい恋路になりそうだなぁ…」
そうして時間になるまでグランの泉を探したが、その日の内に発見は出来なかった。
信参達は町へ戻り、宿に近いレストランで夕食を取っていた。
「もうとっくに誰かが見つけて願いを叶えてしまったんじゃないのかい?」
「だとしても、泉の溜まっていた窪みが見つかるはずよ」
「その通りです。それに発見したら騒ぎになるはず…」
先輩組は明日からの作戦を練っていた。明日から優と風花は魔法道具の作成に取り掛かるため、他の4人での探索になるようだ。
「もうクッタクタ…こんなに歩いたの初めてよ」
「いや~食った食った。こんなに食べれたのは初めてだ」
喜美子はまだまだ元気そうだが、明はグッタリしていた。
「どうした礼木?食欲ないのか?」
「夏休みの間、泉が見つかるまでずっとこんな事するのかって思うとさ…」
「夏休み…そうだ読書感想文!…はもう副部長に手伝ってもらったから終わってるんだ」
ふとカマルリングに視線が移る。これのせいで中学時代の青春と、今も夏休みが失われてしまっているのだと。
「泉の力なら…」
指輪の仕組みは知らないが、もしかしたらグランの泉の力で外せるかもしれない。ダルそうにしていた信参の瞳には希望の光が灯っていた。




