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「そう興奮するな。君が言う通りにしてくれるなら起動させるつもりはない」
「ハァ…ハァ…何だ!今度は何が望みだ!」
「先輩達が卒業して現在部員は5名。その内3名は進学、就職に向けて来る頻度が減ることになった。つまり、部活崩壊の危機なのだ」
「まさか…」
「御明察!君にはこの魔法道具研究部の部員として、これから卒業まで過ごしてもらいたい!」
「い!や!だ!」
「メンバーが4人以下になった時点でその組織は同好会に格下げされて、やりたいことも出来なくなってしまうからな。うん、決まりだ。そうしたら残る2人は…君が集めてこい」
「ふざけんな!勝手に独りで話進めやがって!いいか!俺は入部しないからな!」
そう怒鳴り付けると、信参は部室を出ようとした。
「別に構わないが…この入部届を記入せずに部室から出た瞬間にそのカマルリングが起動するぞ」
それを聞いた途端、信参はその場でターンを決めて優の元へ。手に持っていた入部届を乱暴に取ると、席に座って黙々と記入を始めた。
「入学初日、いやOCのあの日から…本当に最悪だ…!」
「そうかい?私は最高の気分だ!これからよろしく頼むぞ!」
そうして信参は嫌々とした表情で入部届を書き終え、優の顔に迫らせた。
「これでいいだろ!今日はもう帰らせてくれ!」
「ふむ、いいだろう。今日は帰ってゆっくり休むといい。明日の放課後から私の研究に付き合ってもらうぞ。それと5月末までに新入部員を2人集めてくれ」
その頼み事を聞いてか聞かずか、信参は返事することなく部室を出ていった。
「言い忘れていたが部活から同好会に格下げされた瞬間にリングは作動する!なるべく急いでくれ!」
「ふざけんなァァァァァ!」
信参は機嫌を損ねたまま校舎を出て駐輪場に向かった。
「鍵…鍵がない…」
するとそこには、自転車の鍵を探して鞄を漁る少女がいた。
(同じクラスの子だ…名前は何だったっけ?)
信参は足元を見渡した。しかし鍵らしき物は見当たらず、クラスメイトを放っておくわけにもいかないので声を掛けた。
「ねえ、鍵ないの?」
「えっ…うん。自転車の鍵失くしちゃって…」
「多分学校のどこかに落ちてるはずだよ。今日歩いた道を辿って探してみよう」
信参と少女は教室へ戻りながら自転車の鍵を探したが、それでも見つからなかった。
「入学初日からツイてないわね…」
(スッゴく分かるよその気持ち)
「入学祝いに買って貰った自転車なのに…」
「つ、次は職員室に行ってみよう!もしかしたら誰かが届けてくれてるかもしれないよ!」
空気が重くなるのを感じた信参は残った可能性に賭けた。これでも見つからなかったら、もうどうしようもない。
ひたすら心の中で祈りながら職員室へ向かうと…
「ストラップの付いた鍵ってもしかしてこれ?」
「あぁ!これですこれ!」
「同じ1年A組の上門さんが届けてくれたよ。明日、お礼するのを忘れずにね」
二人は一礼して職員室を出ると、さっきまでとは別人のように軽い足取りで駐輪場へ戻った。
「見つかって良かったね」
「上門って子に明日お礼しないと…それと、あなたもありがとう。焦ってたから道を戻るとか考えられなかった」
「大切な物失くしちゃった時って冷静じゃいられないよね」
二人は途中まで同じ道を走っていたが、分かれ道に着くとブレーキを掛けた。
「今日はありがとう。私、弓星明」
「俺は礼木信参。それじゃあまた明日」
そんな風に自己紹介をした後にすぐ別れるという不思議な挨拶を済ませて、それぞれの帰路に着いた。