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夏休み前最後の登校日。信参達魔法道具研究部の部員は部長である優の号令の元、部室へ集まっていた。
「全く、呼んどいて自分が遅刻かよ…弓星、もう宿題始めてるんだ?」
「これで最後よ」
「えぇ!?凄いなぁ!」
「うるさいぞ礼木!私は今、読書感想文用の本を読んでいるんだ!静かにしていろ!」
「サキュバスに転生しましたってお前、それラノベじゃねえか!」
「何言ってるんだ?お前は男だからなるとしたらインキュバスだぞ」
「そういう話してんじゃねーよ!」
信参と喜美子が叫んでいたところ、優と風花が遅れて入ってきた。
「いや~先生を手伝ってたら遅れてしまったよ。すまないねぇ」
「ごめんなさい、ちょっと力仕事で時間が掛かってしまって…」
「い、いえ…」
優だけの謝罪だったら怒鳴っていた信参は、申し訳なさそうにしている風花を見て怒れなかった。
風花は席に付き、優は黒板の前に立った。
「今日は夏休みイブだ!みんなはどんな予定を立てたかな?」
「読書感想文!」
「宿題も終わったので、バイトしてお小遣い稼ぎですかね」
「ほうほう!礼木、君はどうなんだい?」
「色々あって忙しいから部活やってる暇がない」
「言いたくないなら言わなくても結構。だが諸君!それらの予定は例外なく全てキャンセルだ!法事にも出席させんぞ!」
優は突拍子もないことを叫び、これには本を捲る喜美子の手も止まった。
「待ってください部長!それじゃあ私の宿題が終わりません!」
「読書感想文に何日費やすつもりだよ…」
「礼木の言う通りだ。読書感想文なんて流し読みして適当なあらすじと心にもない感想を書けばいい!それよりも今年の夏!私達は遠征に行くぞ!」
自動でカーテンが閉まり、天井のプロジェクターが起動する。どれも優が造った魔法道具だ。
プロジェクターの光が照射された黒板には、どこかの地図が映し出された。
「…どこの地図だ?」
「姉妹校のあるアーモニカよ。これぐらい知っておきなさいよね」
ふと小声で呟いただけで、信参は明に怒られてしまった。
アーモニカという国には花天魔法高等学校と繋がりの深い岩瀬橋高校があるのだ。
「ここからは他言無用で頼むぞ。そのアーモニカにグランの泉があるかもしれないという情報を得た。」
「グランの泉ですか!?」
優の言葉に明が大きな声で反応した。
信参はビクッと震えたが、本を読み疲れて眠っていた喜美子は目覚めなかった。
「…なんだよ、そのグランの泉って」
「グランというのはアーモニカを建国したとされる願いの神だ。そしてグランの泉とは願いを叶えてくれる湧き水のことだ…まあここまで語ったが、願いを叶える湧き水はアーモニカ以外の国でも確認されている。グランの泉はアーモニカでの呼び方だと捉えておいてくれ」
「へえ~…嘘くさ」
「嘘なんかじゃないわよ!実際に願いを叶えてもらって億万長者になった人だっているのよ!」
「じゃあなんだ!私が頼んだら読書感想文も完成させてくれるのか!?カーマ・スートラ読むぞ?」
「アンタどんだけ読書感想文にこだわってるのよ!」
可愛い後輩達が騒がしくなってきたところで、優は手を叩いて鳴らした。
「私達の目的は一つ!誰よりも先にグランの泉を見つけること!」
「それで、どんな願いを叶えるんですか!?」
「私達の目的は泉の発見。願いを叶えるのは依頼主だ」
「依頼主…?」
「これは我々、花天高校魔法道具研究部に訪れた千載一遇のチャンスだ!もしもグランの泉を見つけることが出来れば、この先ずっと宿題も登校日もない毎日が夏休みの生活を送ることだって夢じゃない!」
「毎日が夏休みはちょっとアレですけど、面白そうですね!グランの泉、一度は見てみたいです!」
「読書感想文!」
まさかの明がノリノリなのを見て、信参は困惑していた。二人は自らの意思で参加するようだが、カマルリングを付けた自分は絶対参加なのだろうだと、自堕落な夏休みを送れないことを覚悟した。
ちょうどその時、部室の扉を叩く音がした。
「ご依頼人の到着だ。どうぞ~」
優が呼ぶと扉が開き、花天の物ではない制服を着た少女が入ってきた。
「あの制服って…」
明はその制服に付いている校章に目を凝らした。
「やっぱりそうだ…」
「有名なの?」
「海野高校。社会のエリート排出高校って言われるぐらい凄い学校よ」
優が場所を譲るように教壇を降りる。
そして依頼人と呼ばれた少女が信参達の前に立った。
「花天高校の魔法道具研究部の皆さん、今回は私の依頼を引き受けていただき、ありがとうございます。海野高校三年生の末永紅夜です」
「依頼人の末永さんだ」
「ここの部で産出される魔法道具が大変優秀だというお話をお聞きしました。あなた方ならグランの泉を見つけられるのではと思い、今回依頼させていただいたわけです」
その大変優秀な魔法道具は全部、そこにいる性悪な女が作ってるんだけどな。そんな風に心の中で吐きつつ、信参は気になっていたことを尋ねた。
「依頼ってことは報酬とかいただけるんですか?」
「私のポケットマネーで出せる限りなら何でも差し上げましょう」
「…と言ってくれてるが私達は仕事をするんじゃない。部活動をするんだ。必要最小限の費用なら出してもらうつもりだが対価はいただかない。報酬は…強いて言うなら、グランの泉を発見したという栄光だと思ってくれ」
「タダ働きかよ…」
「あの、私からも一ついいですか?」
信参との応答が終わると、今度は喜美子が尋ねた。
「グランの泉を見つけたいって事は何か叶えたい願いがあるんですよね。それってなんですか?」
「確かに…もしも悪いことに使うんだったら私達、悪事に荷担することになるわね」
「私の目的はグランの泉が願いを叶える際、どういう現象が発生しているのかをこの目で直接見ることです。グランの泉が再現できるようになれば、世界中の人々が平等に願いを叶えられるようになります」
さらっと凄いことを言う少女だ。願いを叶える泉を再現する。そんなの不可能ではと、信参は疑った。
そばに立つ優はフムフムと頷きながら、依頼の話に切り替えた。
「出発は明後日、桜木ポートに8時集合だ」
「おい!いくらなんでも急過ぎるだろ!」
「当日来なかった部員は即退部だ。全員、体調を崩していてもちゃんと来るように。泊りになるから家族への連絡を忘れずに頼むよ」
「わ~楽しみだな~!」
満面の笑みを浮かべる信参であるが、額には怒りからの青筋が浮き出ていた。




