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今日から信参達の通う花天高校は夏服。しかし布の面積や厚みが減っただけでは、登校中の暑さから逃れることはできないのだ。
「冷やせる魔法が使える人が羨ましい…」
通学路にて、そばに氷を浮かべて歩く人や自分の頭上に雲を浮かべて雪を降らせる人達を信参は羨んでいた。
朝食を買うために入ったコンビニはエアコンが効いていた。しかし涼しいのは店の中にいる間だけ。
信参はこの冷気だけでも持ち出したかったのか、おにぎりやパンの棚を通過して、アイスや冷凍食品が入ったショーケースの前まで来た。すると見慣れた少女と出会った。
「上門…?」
「あっ礼木君。おはよう」
信参は文音の隣に並ぶと、ショーケースを覗いて商品を選んだ。
「今日暑いよなぁ」
「う、うん…」
「…ボーッとしてるけど大丈夫か?もしかして熱中症じゃ──」
「違うよ!ただ礼木君、服が…」
汗でベタついた白シャツから、信参の筋肉が透けて見えていた。
「ごめん!臭かったよな!」
慌てて離れるがそうじゃない。文音が気にしていたのは体臭ではなく身体そのものなのだ。
「いや~参ったな…汗拭きシートも買ってこ」
信参は顔を赤くしている文音をそのままにして、必要な物だけを買ってコンビニを出た。
外は地獄だった。整備の進んだ街では温度を調整する魔法道具が接地され、外でも快適だそうだ。
しかし信参のいる見湖市は田舎寄りな場所で、そんな便利な物は存在していない。
「あっつ…」
足元には干からびたミミズの死骸があった。
ウッカリ土から出てしまったのだろうか、気を付けないと自分もこうなってしまうなどと信参は考えていた。
「おはよう礼木」
「弓星…おはよう」
今度は明と出会った。信参と違ってまだ暑さに負けた様子はないが、それでも汗を流していた。
「だらしないわよ。もっとシャキッとしなさい」
「無茶言うなよこんな暑いのに…弓星の得意な魔法ってなんだったっけ?」
「残念だけど電気よ。でもショックで気を失ったら暑さなんか感じなくていいかもね」
「あぁそれいいかも…あっづ」
「冗談でしょ…礼木が得意なのは?アンタ、自己紹介の時に名前しか語ってなかったでしょ」
「…内緒」
「あっそう、言いたくないなら別にいいわよ」
ふと空を見上げると、ソフトクリームのような形をしている雲が浮いていた。
「…冷たい物食べたいな」
「そうね…」
二人は通り掛かったコンビニに入ると、欲しいアイスを買った。
「冷て~!」
「美味しい…!」
「そういえば知ってるか?あの高校、夏になると食堂でアイスが出るらしいぞ」
「そんなオバケが出るみたいに…ってそれ本当なの?」
「友達が友達から聞いたって」
「信憑性薄…でも出るといいわね」
アイスを食べて暑さを忘れ、世間話が盛り上がっていく。
シャーベットのようにシャキッとした気持ちにはならなかったが、さっきまでの溶けているソフトクリームのようなダラッとした気持ちは消えた。
気付かない内に、二人の学校へ向かうペースは早まっていた。




