第95話 ボディガードは勇者を止める
キースが拳を前に突き出す、ズドンという大きな音が響き、切り裂かれたは空気が波動となり衝撃波となって周囲へ広がり草木が激しくゆれ城の窓は割れそうになるほど震えていた。殴りつけられたロッソの魔法障壁は蜘蛛の巣のようなヒビが入っている。
「チッ! さすがだな。一撃でここまで破壊されるとは……」
ゆっくりとキースは拳を障壁からはなす。破片がバラバラと床へと落ちて細かい光の粒子となって消えていく。キースはまた右拳を引いた。
「ロッソ…… どうする? すぐに魔法障壁は壊されるよ」
舞台の袖にいたグアルディアがロッソの近くまでやってきた。飛空艇が飛ぶまで障壁だけで防ぎきるのは無理なようだ。
「誰かが…… キースの気を引いて足止めするしかないだろ」
「えっ!?」
キースを見つめながらロッソは守護者大剣を持った右手に力を込める。
「シャロ…… リーシャ…… ミリア」
視線を横に移動し背後にある、劇場飛空艇の舞台を見てロッソはさみしそうにつぶやく。彼はすぐに視線を前に戻し横に立つグアルディアへ声をかける。
「グアルディア! 後は頼んだぞ」
「おい!? ロッソ!? お前…… おい! ダメだ! 君は残れ! 僕が……」
「悪いな。小さいお前じゃキースの足止めは無理だ。シャロたちを頼んだぞ…… 大丈夫…… 俺は生き残るさ」
グアルディアはロッソを止めようと必死に彼の手を掴で引っ張った。ロッソはグアルディア手を振り払い前に出た。しかし、グアルディアは諦めず手を伸ばし今度はロッソの左手首をしっかりとつかんだ。
「ロッソ! 僕が行くって!」
「メディナとナディアによろしくな」
「うっ!?」
振り向いたロッソが二人の名前を出すと、グアルディアの手から力が抜けた。
「お前にだって帰りを待ってる人がいるんだから自分のこと大事にしろ‥…」
「でっでも…… 僕が……」
「それに…… 俺はあいつに魔王城で刺された借りがある。一発殴らねえと気が済まねえんだよ」
ロッソはグアルディアの手を優しく振りほどくと駆け出した。グアルディアは彼を止めることが出来ずに、握った左拳を見つめ悔しがるのだった。
観客席を走り抜けながらロッソは、守護者大剣を背中から抜き、両手で構えて飛び上がった。魔法障壁を殴り続けるキースの顔がはっきり見えた。彼は魔法障壁を破壊するのに夢中でロッソの接近には気づいてないようだ。
「魔王城での借りを少しは返させてもらうぜ!」
まっすぐとキースの顔を見つめキースは、構える大剣を握る手にさらに力を込め大きく背中まで大剣を振りかぶった。ロッソが攻撃に出た直後に、キースの目の前にあった魔法障壁は消えた。キースの目の前にロッソは飛び出した。大柄なロッソがキースの斜め上に飛び出し、黒い影がキースを覆った。キースは目を見開いて驚いた様子で飛び出して来たロッソを見つめていた。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
障壁を飛び出したロッソは怒鳴りながら、キースへ向かって大剣を振り下ろす。ロッソが振り下ろした大剣はかキースの額に向けて鋭く伸びていく。標的を見つめるロッソとキースの目があった。次の瞬間、キースの口元がニヤリと笑う。
「フン…… ロッソ…… 君が僕に勝てるわけがないだろ?」
「クソ!!」
振り下ろされたロッソの大剣をキースは、右足を引いて体を横にし簡単にかわす。大剣がキースの前髪をかすめ髪の毛が数本周囲に散った。キースは前に出てロッソと体を入れ替えるようにして彼の背後へと移動する。
移動しながら大きく左足を振り上げた、キースは振り向くようにして、ロッソの背中を左足で蹴った。大きいがして激しい衝撃がロッソの背中を襲う。
「うわああああああ!!!!」
背中を蹴られたロッソはバランスを崩し、叫び声を上げながら城の中庭の地面に叩きつけられた。大きく弾むロッソは守護者大剣をはなさないように必死につかみ、五メートルほどの高さで体勢をなおして着地する。
「チッ…… さすがに強いな……」
ロッソは空中に浮かぶキースを見つめ、すぐにもう一度剣を構えるのだった。彼の周りにハイグレードオークが集まって取り囲む。
笑顔のキースはロッソを見ながら、ゆっくりと上空から下りてくる。
「おい! お前! 僕に剣を貸せ!」
キースの声に一体のハイグレードオークが腰にさしていた剣を鞘ごと投げた。剣を受け取ったキースは体の前で剣を水平にして抜きロッソの目の前に下りてきた。着地と同時にキースは鞘を投げ捨てる。
「飛空艇が飛ぶまでもう少しかかるか……」
ロッソは視線を横にある劇場飛空艇へと向けた。壁と天井は閉じられて浮上するために上部のプロペラが回転を始めていた。
「ハイグレードオークにキースか…… さすがにきついな……」
周囲に目を動かすロッソ、ハイグレードオークたちは武器を構え殺気立っており、キースが命令を下せば即座にロッソに突撃してくるだろう。キースはハイグレードオークから受け取った、剣を右手に持って眺めている。銀色に光る剣に映るキースは笑顔でロッソに負けるはずがないという自信に満ち溢れていた。
「ロッソ? どうだこの剣? 良い剣だろう?」
「それがどうした?」
「おいおい。使いやすくショートソードに改造したがこれは君のその守護者大剣を元に作らせたんだぞ! 他にも僕たちが使っていた武器の複製品を作らせているんだ」
「なっ!? なんだと?」
「作るのに大量の魔力が居るからこの町の空が灰色に変わってしまったけどね……」
笑いながらキースは手を伸ばし剣を横にしてロッソに見せつける。
「お前がこの空を作ってのか…… 自分の故郷をこんなにして! 何がしたいんだよ。お前は……」
キースはカネリア王国に武器をつくらせ、この国を魔力汚染で汚しことをロッソに告げた。ロッソは怒りに震え彼を睨む。キースは怒るロッソを見下したように笑っている。
「君の大剣がここにあるってことはもう飛空艇を守る物はないんだよね?」
「だったらなんだ?」
「こうするのさ!」
キースの表情が笑顔から真顔に変わり、左手を劇場飛空艇に向け右手に持った剣の剣先をロッソへと向けた。赤い光が彼の手に集約され周りにいる、ハイグレードオークたちの鎧にも光が反射する。魔法障壁が無くなったのが分かったキースは、魔法を使い劇場飛空艇を攻撃しようとしているのだ。同時にハイグレードオークたちがロッソへ向かって斬りかかってくる。
「あぁ…… お前の言う通りだ。だがな…… 障壁はなくなっただけど…… こういうこともできるんだよ」
膝をまげロッソは体勢を低くして大剣を体の横へ持って行き、大剣を巻き付けるようにして構えた。そのままロッソは右足で地面を蹴って左足を軸にして体を回転させた。
「どぉりゃーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
「「「うがが!?」」」
ロッソは体を回転させると同時に上を伸ばした。大剣は回転しながら取り囲む、ハイグレードオークを切りつけていった。ボタボタとハイグレードのオークの腕て指や首が俺の周りに転がる。ハイグレードオークたちは足を止めロッソに近づけなくなった。
「これでどうだ!!!!!!!」
動きながらロッソは大剣に闘気を送り込んでいた。回転が終わると同時に一気に白く光る魔法障壁が展開される。展開した魔法障壁は瞬時に大きくなり、ハイグレードオークたちは壁にぶつかって押されて行く。
膨張する魔法障壁がキースに迫っていった。
「クゥ!!!」
まぶしい赤い光に照らされロッソは目を背け声をあげる。大きな音が響き微かに地面が震え、彼の周りには土煙が舞い上がっていた。
「はぁはぁ…… やったぜ!」
顔をあげたロッソに煙の向こうに、飛空艇の大きな影が動き始めるのが見えた。
煙が晴れて行くとむせて軽く咳き込むキースの姿が見えて、ハイグレードオークたちが魔法障壁の周りで驚いた顔をしている。
キースがキョロキョロと首を動かして周りの状況を確認していた。
「これは!? ははは! よく考えたね。障壁で飛空艇を守るんじゃないくて僕を閉じ込めて魔法を外に出さないようにしたわけか!」
魔法障壁を膨張させ、ロッソはキースを取り込んだのだ。ロッソが展開する魔法障壁は彼が出ていくものと入る者を指定できるのだ。現在、魔法障壁の中にはキースとロッソだけが居る状態だ。
ロッソは右腕を伸ばし守護者大剣の切っ先をキースに向けた。
「さぁ。キース。ここで二人きりで決着をつけようぜ!」
「フフ? 決着? 君が僕に勝てるとでも? それに僕と戦っていたら君は飛空艇には戻れないよ?」
「……」
にやりと笑うキースにロッソは黙って真顔で彼をジッと見つめる。
「元から戻る気などないか…… チッ!」
ゆっくりと障壁の外にある劇場飛空艇の船体が浮かび上がっていく。キースの表情が慌てた顔にかわった。
今度は笑顔でロッソが浮かび上がる劇場飛空艇へ視線を向けた。彼はもう戻らない覚悟はできていた。護衛として彼が出来るのはシャロ、リーシャ、ミリアの三人が逃げる時間をつくることだけだったのだ。




