第94話 護衛は勇者の前に立つ!
キースの登場で会場は騒然としていた。
来賓でよばれていた有力者たちも驚き、互いに顔を見合わせて何かヒソヒソと会話をしていた。テラスの端に立って、ロッソと最後に会った時とは違い優しく微笑むキースだった。婚約発表のためにに身を包んでいるタキシードが端正な顔の彼にはよく似合っていた。
切れ長で青く輝く綺麗な瞳と白く、綺麗な肌をして端正な顔つきした彼が、ほほ笑むと女性たちから悲鳴に似たような歓声が上がる。
立ち止まり動けなかったロッソだがキースの笑顔を見ていると、徐々に魔王城で殺されそうになったことへの怒りが沸き上がって来る。
「キース…… 今更こんなとこに出てきやがって! 俺を殺そうしたくせに」
眉間にシワをよせ怒りながらロッソは、背中にしまっていた守護者大剣に手をかけた。慌ててグアルディアが彼の腕をつかんだ。
「落ち着いて! ロッソ! ダメだよ!」
「あぁ!?」
「いま君がキースに手をだしたら…… シャロたちやセドニアまで捕まってしまう! いいのか? シャロがせっかく劇場飛空艇で演奏してるのに」
「あっ…… そうかそうだよな…… 悪い…… ありがとう……」
ロッソはグアルディアの言葉を聞いて大剣から手を離す。
「ふっ…… 勇者に攻撃するのを敵だった魔族に止められるってのはおかしな気分だな」
うっすらと笑いながらロッソはテラスの上に立つキースを睨む。薄暗く上空に漂う魔力汚染された灰色の雲が彼の視界に入るとまた胸騒ぎする。
「チッ…… いやな予感がするぜ…… 何もなければいいが……」
ロッソは舞台の袖に一旦隠れ、顔を半分だけだしてこっそりとキースへ視線を戻す。キースの視線はロッソには向いていないが、なぜかテラスからキースが彼をジッと見ているような気がして嫌だったのだ。
笑顔で手を振りながらキースは、ゆっくりと大きな声で話を始める。
「まずはみんなに謝らないといけないね。ごめん。僕は魔王との戦いで怪我を負ってしまい治療をしていた」
キースの言葉を笑って顔をしかめるロッソだった。彼が登場したときの足取りはしっかりとして、とても怪我から復帰した人間には見えなかった。キースは怪我をしていたと嘘をつき表に出られないようなことをしていたのだろう。確かにグアルディアがロッソを助けるために一撃をあたえたが、何か月も治療するような大けがではなかった。
「魔大陸で怪我を負った僕はカネリア王に助けを求めた。黙って隠れていたのは混乱を避けるためなんだ。本当に申し訳ない」
観衆に頭を下げるキース、その殊勝な態度に観客たちは、彼に笑顔を向け中には涙を流す者もいた。
「混乱を避けるだと!? お前がいなかったおかげで…… 戦争状態になった国もあるんだぞ。勝手なこと!!」
内情を知っているロッソはキースの言葉に強く反発する。
「でも…… ようやく僕の傷は癒えた! 僕は治療をささえてくれたガーネット王女と一緒になってみんなに尽くしていきたい!」
両手を広げ笑顔で観衆に宣言するキース。拍手と大歓声がキースへと贈られる。その様子をロッソは悔しそうに見つめている。
「キース…… 立派な言葉を並べているが何を考えている? ミリアに罠をしかけてまで俺を殺そうとした理由はなんだ? いきなり出てきて王女と結婚しますじゃ俺は納得…… うん!?」
広げた両手を上下に動かしキースは観衆に静まるように合図を送る。歓声が静かになると彼は口を静かにゆっくりと開いた。
「まずは……」
キースの顔つきが急に代わった、観客を見る目が厳しなり嫌悪感が丸出しだった。
「このくだらない劇とか音楽とかとい堕落した娯楽を我が国から排除させてもらう!」
指をならすキース、彼の合図によりテラスの城の壁に弓を持って背の高い人間が立った。
「あっあれは!? ハイグレードオーク……」
現れたのは灰色の金属製の鎧をつけ弓を構えるハイグレードオークだった。
見えるハイグレードオークの数は百人くらいである。観客は突如現れた武器を持つ異形の者に悲鳴を上げた。
「ハッハイグレードオークがキースと一緒に…… やつらを作ったのがキース…… あの魔族を蹂躙したのも…… クソ!!!」
キースと行動を共にする、ハイグレードオークたちを見たロッソは悔しそうに拳を握りしめた。ハイグレードオークはキースが仲間に指示して作り出したものだった。彼の仲間である魔法に精通したアンソニーによってハイグレードオークは作り出された。
ハイグレードオークたちが弓を弾きしぼり狙いを定める。
「狙いは…… セドニア音楽団か!」
ロッソはハイグレードオークたちが向けた、矢の方角からセドニア音楽団が標的であると把握する。彼は即座に反応し前に出た。
「グアルディア! シャロを頼む!」
「わかった」
ロッソはグアルディアにシャロの護衛を任せ舞台の袖から飛び下りた。客席と舞台の間の中心にやってきた彼は守護者大剣に手をかけ一気に闘気を送り込む。
テラスの上で笑いながらキースが、舞台にいるセドニア音楽団に手を向けた。
「はなてーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
キースの号令と共に一斉にハイグレードオークがセドニア音楽団に向けて矢をはなつ。コンサートホールの上空に放物線をえがきながら、矢が舞台にいるセドニア音楽団へと襲いかかる。ロッソは必死に闘気を大剣へを送り込んでいく。
「不可侵領域!」
顔をあげるたロッソに、勢いよく飛んでいた矢が、カンカンという音がして障壁にぶつかって落ちていくのが見える。ロッソが作り出した、白い光を放つドーム状の魔法障壁が舞台の前に展開されて矢を防いだのだ。
「はぁはぁ…… 間に合ったぜ……」
ニヤリと笑うロッソ、彼は必死に走れて息が乱れたが、キースの驚く顔が見られたので満足だった。
「テルマさん! ここは俺に任せてみんなを連れて逃げろ! あとセドニアさんに緊急ですぐにここを飛び立つように伝えろ!」
「えっ!? わかったよ。みんなこっちだ!」
振り向いたロッソは、指揮台の近くにいたテルマに避難するように伝える。テルマはセドニア音楽団を避難させ始めた。
「ロッソ!」
「旦那しゃん!」
「二人ともテルマの指示に従うんだ!」
「でも…… あなた……」
「大丈夫だ…… ちょっと昔の仲間と話すだけだよ」
舞台の下に居たロッソをミリアとリーシャが叫ぶ。二人にほほ笑みかけたロッソは守護者大剣を抜いて城のテラスに向かって叫ぶ。
「久しぶりだな! キース! 悪いがセドニア音楽団には手を出させないぜ!」
「ロッソ!? お前がここににいるってことはやつの妹たちが…… クソ! アンナめ!!! 何が実力のない素人集団だ。まぁいい! 貴様もここで始末してやる!」
キースが眉間にシワを寄せ悔しそうにしていた。ロッソを睨みつけたキースはハイグレードオークに命令をくだす。
「ハイグレードオークよ。かかれ! 下の観客席にいるやつらはは快楽におぼれる愚か者でもだ。一緒に殺してもかまわんぞ!」
「はっ!? お前…… 何を言ってやがる!? クソが!」
城の門が開くと数十体のハイグレードオークたちが、手に武器を持って観客席へと駆けて来た。恐怖で悲鳴をあげ観客たちは逃げ惑っている。
「うん!? よし! なら俺が時間を稼げば……」
劇場飛空艇から大きな音がして、壁がゆっくりとしまっていく。ロッソは剣に闘気を送り込みながら走り出し観客席の中央まで移動した。
「「フガアアアアアアアアアア!!!!」」
ハイグレードオークが劇場飛空艇の手前で魔法障壁にぶつかった。舞台だけを覆っていた魔法障壁は、劇場飛空艇と城の広場との境目まで広がり、ハイグレードオークの侵入を防いでいた。
「早く…… セドニアさん! 急げ!」
視線を上に向けたロッソ、劇場飛空艇の屋根が、ゆっくりと動き出して閉じられてようとしていた。
「チッ…… 下がれ! 僕の命令があるまで待機だ!」
ハイグレードオークたちが城の扉の近くまで下がっていく。キースは浮かび上がり魔法障壁へと飛んでいく。彼は右拳を大きく引き魔法障壁へと殴りかかったのだった。




