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勇者を守った男は成り下がり少女を守る ~護衛と踊り子の兄妹、歌って踊って傷ついた世界を癒せ!~  作者: ネコ軍団
第2章 空中劇場への招待

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第92話 謎の饅頭

「ロックナーが取れないって…… まさか魔力汚染のせいですか?」

「うん。戦争が終わる少し前くらいからかな。この町の地下から灰色の煙が出るようになってどんどん空が曇っていった。王様は魔物対策って言っていた」


薄い頭をかきながら何かを思い出すように視線を上に向け話す中年男性だった。


「魔物対策って……」


 ロッソは魔物対策と聞いて信じられないという様子だった。戦争中の魔物対策なら理解できるが、終戦を迎えた現在も空は灰色で明らかに汚染が続いていた。中年男性は話を続ける。


「それから家畜が弱り魚が減って作物の収穫も少なくなって、食べ物はみーんな王様に買い占められてしまったね。食べ物を売る店は市場にも外にもなくなったよ」


 カネリア王国では現在すべての食糧は、王が買い占め飲食店や食材を売る店も全て閉じているという。衝撃の事実に驚くロッソだった。劇場飛空艇には食堂があり、公演中の食材も倉庫に蓄えられているため、ロッソたちは町の現状をまったく知らなかった。


「じゃあクーリアンの人たちは何を食べてるんですか?」

「大丈夫だよ。私たちの王がこれを支給してくれるから」


 中年男性はそう言って腰につけた袋に手を入れた。袋から出した手には、白く丸いパンのような物が握られていた。彼はロッソたちの前にパンのような物体を出して見せた。


「この…… 白くてフワフワしててこの甘い香りは……」


 差し出された白いパンのような物体はふんわりとして柔らかそうで甘い香りを漂わせていた。ロッソはこの物体に見覚えがあった。戦争が終わって時に彼が妹のために買おうとした……


「お兄ちゃん! これ! エルシアン饅頭だよ!」

「やっぱり!? そうだ! エルシアン饅頭だよな!」


 ロッソの横からシャロが顔をだし、中年男性が持っているパンのような物を見て声をあげる。そう中年男性が取り出したのは二人の故郷に近い、エルシアンの町の名物エルシアン饅頭だった。エルシアン饅頭はふかふかで中身は、果物を煮詰めたものが入ってて甘くてシャロの好物だ。

 中年男性は二人の言葉に首を傾げた。


「何を言ってるんだ? エルシアン饅頭だと!? 違う。これはクリアン饅頭っていうんだ。一個食べれば半日は元気でいられるんだ!」

「クリアン饅頭だと!? いや…… どう見てもエルシアン饅頭だけど……」

 

 中年男性は困惑するロッソたちに放っておいて、笑みを浮かべ手に持ったクリアン饅頭を口へ運び食べめた。


「はふ。くちゃくちゃ」


 目の焦点を饅頭に合わせて、一心不乱に食べる中年男性、その姿は異様でロッソは恐怖を感じるのだった。鼻で勢いよく息をして、激しく口を動かして中年男性は饅頭を食べ続けている。


「くちゃくちゃ! これを食えば魚や肉なんていらないんだよ! うめえぞ! くちゃくちゃ」


 目を見開いて口に饅頭を、いれたまま中年男性がしゃべる。しゃべるたびに中年男性の口から食べかすが飛び、ロッソは顔をしかめるのだった。


「きたねえな…… うん!?」


 ロッソが中年男性の顔を見て異変に気づく。饅頭を食べ始めた彼の顔つきが変わっていたのだ。

 さきほどまでは柔和で優しいおじさんという感じだったのに、饅頭を食べている中年男性の顔は目つきがきつくなり怒っているような興奮しているような顔になっていた。

 中年男性ががっついて食べる姿に、エルシアン饅頭が好きなシャロでさえも顔が引きつらせていた。


「お魚しゃん…… リーシャはこれだけじゃ寂しいです」

「そうか? これを食べると色々と元気になるんだよね。特に綺麗な女性を見ると……」


 ニヤニヤと笑いながら、シャロとミリアの体を中年男性が舐めるように見ている。明らかに二人を性的に見て興奮していた。ロッソは中年男性の変化に危機感を覚えこの場からすぐに立ち去ろうとするのだった。


「いろいろ教えてくれてありがとう。じゃあ行くよ。みんな」

「あぁ! ちょっと! そこの姉ちゃんをちょっと……」

「ありがとうね! ほら! 早く出口に向かうぞ。グアルディアはリーシャを頼む」


 中年男性とシャロとミリアの間に立ったロッソ、彼は背中をむけ両手を広げ皆に移動するように指示し中年男性から遠ざける。中年男性は二人に向かって、名残惜しそうに手を伸ばしてきた。

 ロッソは振り返り中年男性の前に立ち塞がって彼に笑顔を向けた。ロッソの顔を見た中年男性はすごすとと引き下がっていく。


「なんだよ! こっちは笑顔なんだからさ…… そんなに怖いものを見た顔することないのに……」


 不満げにつぶやくロッソだった。中年男性から逃れたロッソたちは市場の出口へと向かうのだった。出口へと歩きながらロッソは振り返りつぶやく。


「しっかし…… 飯が饅頭だけでいいなんてな」

「そうよね。クーリアンの人たちは食堂とか酒場とかなくてあのお饅頭だけでいいのかな?」

「リーシャはお店でご飯すきですよ」

「わたくしもリーシャちゃんと一緒ですわ」

「僕も! メディアやナディアと一緒に村の酒場でご飯を食べるのが好きだったな」

「そうよね。あたしも好き! 酒場とかでお酒や食事をとりながら幸せそうにしてる人たちを舞台から見るの大好き!」


 ロッソは大きくうなずく。彼はキースとの旅では酒場や食堂の食事は反省会などが多く、楽しいと思ったことはなかったが、シャロと旅するようになってから酒場でみんなで楽しくする食事は好きになっていた。

 五人で酒場や食堂の楽しさを語っていると、リーシャがさみしそうにうつむく。


「やっぱりお魚しゃん…… 旦那しゃんとミリアが教えてくれたロックナーをリーシャ食べたいです」

「あっ! そうだ! リーシャ大丈夫よ。ロックナーを手に入れましょう!」

「ほぇぇぇ!? 出来るですか?」

「任せなさい! ついてきて」


 胸をたたいて自信に満ち溢れた顔でシャロは歩き出し皆を先導するのだった。


「本当に大丈夫かな…… うん!? そういえば……」


 市場を出る時に振り返ったロッソはあることに気づく。市場にいる町人たちは、みな笑顔でクリアン饅頭をほおばっていた。人がおらず閑散とした市場で、みんなが饅頭を嬉しそうにほおばる姿は少し不気味に見えた。

 その光景を目にしたロッソの心の中に、クーリアンの空で最初に灰色の雲を見た時の不安な気持ちがよぎるのであった。


「えっ!? あいつどうするつもりだ?」


 市場を出たロッソたちは、シャロに連れられて劇場飛空艇に戻ってきた。シャロは劇場飛空艇の船尾にある格納庫へと皆を連れて行った。


「あっ! いた!」


 シャロが格納庫で誰かを見つけ走っていってしまった。ロッソは慌てて彼女を追いかける。


「ロックナーっていう魚を買ってくるんですか?」

「うん! 市場に行ったんだけど全然売ってなくて…… あたしどうしてもロックナーを食べたいの…… 飛竜だったら近くの町にすぐに飛んでいけるでしょ?」


 走っていったシャロと話していたのは飛竜騎士のマーロンだ。マーロンはシャロに声をかけられて嬉しそうに答えている。シャロはマーロンにロックナーを買って来てもらうつもりのようだ。確かに飛竜ならば魔力汚染がない地域に飛んで行き、魚を買ってその日のうちに戻って来るのは可能である。


「そうですが…… ただ…… 勝手に飛竜をだすとケビンさんに……」

「えぇ!? そっか…… 残念。はぁ…… マーロンの飛ぶとこカッコいいから見たかったのにな……」


 両手を腹のあたりで組んで、体をくねらせて上目づかいでシャロはマーロンの顔を覗き込む。二メートルほどシャロの後方にいるロッソからでも、マーロンのキリッとした顔が緩むのが分かる。


「これは落ちたな……」


 シャロの魅力にマーロンが抗えるはずもなく、彼は笑顔で自分の胸を力強く叩く。


「わかりました! シャロさん! 行きます! 美味しいロックナーを買ってきますね!」

「えへへ! ありがとう! お願いね」


 マーロンにキラキラした笑顔を向けてシャロはお礼を告げる、次に彼女は振り返り今度はロッソたちに向かってニヤリと笑っていた。


「シャロ…… マーロン…… ごめんな。やっぱり女って怖えな。いや…… これは利用されるマーロンがお人好しなだけか……」


 ロッソは首を横に振り、勇んで飛竜に乗り込もうとするマーロンを見つめるのだった。


「いってきます! シャロさん!」


 颯爽と飛竜ドランに乗り込んだ、マーロンは大空へ羽ばたいていった。

 しばらくして…… マーロンは食いきれないほど大量の魚を買ってきた。大量に積まれた魚にリーシャの目を輝かせるのだった。

 夕飯に食堂のコックが、魚尽くしの料理を作って食べさせてくれた。喜んでリーシャは大満足ですと笑顔で何度もう言っていた。


「ごめんな。マーロン。別に助けたりしないけど……」


 食堂で料理に舌鼓をうつロッソたちの横で、勝手に持ち場を離れて魚を買いにいったマーロンは、ケビンにずっと怒られていたのだった。

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